フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 急速な金融引き締めで不安定化する米国株式市場

急速な金融引き締めで不安定化する米国株式市場

2022/05/06

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

FRBの利上げは「独走態勢」の様相

5日の米国株式市場でダウ平均株価は、前日比1,063ドル安と大幅に下落した。今年最大の下げ幅である。金利上昇に敏感なハイテク株が株価の下落を主導した。前日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定を受けて株価は大幅高となったが、1日にしてそれが打ち消される形となったのである(コラム「予想通りにFOMCは0.5%の大幅利上げと量的引き締めを決定。FRBは景気失速を回避できるか」、2022年5月6日)。

5日の米国市場で目立ったのは、国債利回りの上昇だ。金融政策の見通しを反映する傾向が強い2年債利回りは0.1%程度上昇した。また10年債利回りは、一時2018年11月以来初めてとなる3.1%台に達したのである。

前日の市場では、パウエル議長が先行き0.75%の利上げに否定的な発言をしたことで、急速な利上げに対する市場の不安が和らぎ、国債利回りは低下、株価は大幅に上昇していた。しかし、歴史的な物価高騰に対して、米連邦準備制度理事会(FRB)はいずれ利上げを加速せざるを得なくなる、との見方が強まったのである。

こうした見方の背景には、海外でゼロコロナ政策による中国経済の減速、エネルギーの脱ロシアを進める中での欧州経済の減速が警戒される中、米国経済は依然堅調であることがあるだろう。5日にはイングランド銀行(英中央銀行)が、政策金利を2009年以来の高水準に引き上げたものの、英経済がリセッションに陥るリスクがあると警告するなど、予想以上にハト派姿勢を見せた。その結果、金融引き締めの姿勢でFRBが世界の中で突出する「独走態勢」の構図が強まっている。それは為替市場で一段のドル高を促し、ドル指数は5日に20年ぶりの高値を付けたのである。ドル円も再び130円台に乗った。

「株安、債券高(国債利回り下落)、ドル安」の構図となれば要注意

5日の米国市場で際立ったのは、「株安、債券安(国債利回り上昇)、ドル高」の構図だ。ただし、この構図の下では、米国市場の混乱もなお比較的限定的であるかもしれない。

それ以上に注意を要するのは、先行き米国市場が「株安、債券高(国債利回り下落)、ドル安」の傾向を強める場合だ。これは、急速な金融引き締めによって米国経済が減速、あるいは失速に向かうとの懸念が強まる局面である。その際には、ハイテク株にとどまらず、幅広いセクターで株価は下落するとともに、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産の価格が大きく下がり、金融機関に大きな損失が生じる。米国金融市場は混乱の度を強めることになるだろう。

FRBは、経済に中立な政策金利の水準である「中立金利」を2.25%~2.5%と考え、今年年末までにその水準までは、いわば目をつぶって政策金利を引き上げることを目指しているように見える。しかし政策金利を一気にその水準まで引き上げる場合、名目金利から予想物価上昇率(期待インフレ率)を引いた実質金利が、短期、長期と共に景気や金融市場に大きな打撃を与える水準まで一気に上昇する可能性があるだろう(コラム「中立金利水準が鍵を握るFRBの利上げと金融市場」、2022年5月2日)。

景気への配慮が十分に感じられず物価高対策一辺倒となっているFRBの硬直的な政策姿勢は、米国金融市場にとっての大きなリスクである。

急速な米利上げが世界経済、日本経済の最大のリスクに

米国の急速な利上げは、ウクライナ情勢、それを受けたエネルギー価格上昇以上に、世界経済にとっての大きなリスクとなっている。40年ぶりの物価高に対して、近年見られなかったペースでFRBが利上げを続ければ、景気が大幅に悪化し金融も動揺する、いわゆる「ハードランディング」を引き起こす可能性は相応に出てくるだろう。それを回避し、米国経済、金融市場の安定を維持する「ソフトランディング」を実現することは決して容易なことではない。

FRBが、今年年末までに政策金利を「中立金利」まで引き上げることにまい進し、景気や物価の変調、あるいは金融市場の混乱の芽に十分に注意を払わない場合には、来年の米国経済、そして世界経済が失速する「ハードランディング」シナリオの可能性が高まることになるだろう(コラム「予想通りにFOMCは0.5%の大幅利上げと量的引き締めを決定。FRBは景気失速を回避できるか」、2022年5月6日)。

その場合、為替市場ではリスク回避の円高傾向が一転して強まる可能性がある。日本経済は米国向けを中心とする輸出急減速、米国市場と連動した株安、そして現状とは逆に急激な円高に見舞われ、失速のリスクが高まるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn