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1-3月期GDP統計:リスクは感染問題から物価高・海外景気減速へ。水際対策緩和の効果には一定の期待

2022/05/18

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1-3月期の実質GDPは2四半期ぶりのマイナス成長

内閣府は5月18日に2022年1-3月期のGDP統計・1次速報を発表した。同期の実質GDP成長率は前期比-0.2%、前期比年率-1.0%と2021年7-9月期以来のマイナスとなった。

5月16日に公表されたESPフォーキャスト調査(回答期間は4月28日~5月11日)によると、予測機関の事前予測の平均値は-1.4%だった。昨年末から1月上旬にかけて集計された1月調査では、1-3月期の実質GDP前期比年率成長率は、平均予測で+5.1%と高水準であったが、その時点から、同期の成長率見通しは大幅に下方修正されてきたのである。

1-3月期実質GDP成長率は事前予想を多少上回ったが、個人消費が思ったほど悪化しなかったことが主因だ。前期比-0.6%程度と予想されていた実質個人消費は、実際には前期比-0.0%と予想比ではかなり上振れた。他方、輸入が想定よりも大きく増加したことが成長率を押し下げた面がある。輸入増加の一部は在庫増加につながり、輸入増加と在庫増加がGDP全体への影響を打ち消しあった面もある。最終的に実質GDP成長率は、事前予想を若干上回る水準に落ち着いたのである。

オミクロン株の影響で個人消費が低迷

事前に懸念されたほどではなかったが、1-3月期のGDP統計を最も特徴づけたのは、年初からの感染再拡大(オミクロン株)の影響による個人消費の低迷だ。

1月7日から3月21日まで続いたまん延防止等重点措置によって、個人消費は4兆500億円減少し、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率11.5%押し下げられたと試算される(コラム「緊急経済対策の経済効果試算:GDP押し上げ効果は0.4兆円、GDP比0.06%」、2022年4月26日)。

しかし、感染リスクの低下を受けて、まん延防止措置の終了に先駆けて3月中に個人消費が相応に持ち直したことの影響と、個人消費が昨年10月から11月にかけて顕著に増加したプラスの効果が、今年1-3月期の個人消費、GDPの前期比成長率を押し上げる、いわゆるゲタの効果(前期比年率+5%程度と推定)が加わることで、1-3月期の実質GDPは前期比年率で2桁のマイナス成長とはならなかったのである。

ウクライナ情勢による原油高、円安進行は個人消費を0.6%押し下げ

感染リスクの低下を受けて、4-6月期の実質GDPは再びプラス成長となる可能性が高い。最新のESPフォーキャスト調査では、4-6月期の実質GDPは前期比年率+5.2%となっている。しかし実際には+3%程度とより小幅のプラス成長にとどまることを、現時点では見込んでおきたい。ウクライナ情勢による原油高や円安進行による物価上昇、そして中国を中心とする海外景気の減速が、新たな景気の強い逆風となっているためである。

WTI先物原油価格は、昨年末(73.4ドル/バレル)から足元(約110ドル/バレル)まで約50%上昇した。これは、半年間の累積効果で実質GDPを0.22%、実質個人消費を0.72%低下させる計算だ(内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル・2018年版」による)。

他方、ドル円レートは昨年末(1ドル115.10円)から足元(約1ドル130円)まで約13%円安に振れた。これは、半年間の累積効果で実質個人消費を0.07%低下させる計算だ(内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル・2018年版」による)。実質個人消費への影響については、両者の合計で-0.79%となる(同)。

これらを踏まえると、原油高、円安による物価上昇は、個人消費を減少させ、その影響が四半期に均等に表れる場合、4-6月期の実質GDP成長率を年率換算で-0.8%程度と大きく押し下げる計算となる。

1-3月期の実質雇用者報酬は前期比-0.4%と、前期の同+0.3%から大幅に悪化しており、物価高と賃金低迷による実質賃金の減少が、個人消費の足を引っ張っている状況だ。

経済対策の効果は限定的

4月26日に岸田政権は、ウクライナ問題を受けた物価高対策と位置づける、緊急経済対策をまとめた。それを実現するための補正予算案を5月17日に政府は閣議決定している。ガソリン等の価格上昇を抑えるガソリン補助金制度の延長・拡充と、子ども一人当たり5万円を支給する生活困窮者への支援が柱である。

ガソリン補助金制度の延長・拡充は、実質GDPを1年間で0.11兆円、+0.02%押し上げ、子供給付金制度は、実質GDPを1年間で0.25兆円、+0.04%押し上げる効果を持つ。両者の合計は0.36兆円、+0.06%である(コラム「緊急経済対策の経済効果試算:GDP押し上げ効果は0.4兆円、GDP比0.06%」、2022年4月26日)。

補助金制度の景気浮揚効果が限られるのは、ガソリン(及び灯油)が家計の消費に占める比率が、家計のエネルギー関係支出全体の中では大きくないためだ。ガソリンと灯油の支出は、エネルギー関連支出全体の29%と3分の1にも満たないのである。これでは、有効な燃料費高騰、物価高騰への対策とは言えないだろう(コラム「ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか」、2022年4月12日)。

緊急経済対策の効果は、主に4-6月期と7-9月期のGDPに表れるが、その規模はかなり小さく、原油高、円安による物価上昇という景気への逆風を和らげることはできないだろう。

中国経済の急減速が日本経済に大きな打撃

1-3月期の実質輸出は前期比+1.1%と、前期の同+0.9%に続いて比較的安定した増加率となり、個人消費が減少する中でも国内経済を一定程度支えた。

しかし4-6月期については、輸出環境はにわかに厳しさを増す可能性が高い。最も注目したいのは中国経済の減速の影響である。中国経済は現在、2020年春の新型コロナウイルス問題発生直後以来、最も深刻な景気減速に見舞われているのである。

年初の新型コロナウイルスの感染再拡大と政府による厳しい感染封じ込め、いわゆる「ゼロコロナ政策」が、経済活動の強い逆風となっている。その傾向は4月に入ってから、一層顕著となった。中国国家統計局が発表した4月の製造業と非製造業の購買担当者景気指数(PMI)は、いずれも2か月連続で低下し、2020年に新型コロナの感染が拡大し始めて以降で最も低い水準となっている。4月の鉱工業生産は前年同月比-2.9%、4月の小売売上高は同-11.1%と、いずれも一気にマイナスとなった。

また中国の4月貿易統計で、輸出は前年同月比+3.9%と、3月の+14.7%から急減速した。これは2020年6月以来、1年10か月ぶりの低い伸び率である。「ゼロコロナ」政策に伴う需要減少やサプライチェーンの混乱などが影響している。

1-3月期の中国の実質GDPは前年同期比+4.8%であったが、4-6月期には前年同期比でマイナスになるとの予想も出ている。同期の前期比成長率は+1.3%であったが、4-6月期の前期比成長率はそれを3%下回るマイナスとなる場合には、日本の4-6月期の実質GDPへの影響は年率で-0.58%にも及ぶ計算だ。中国経済の減速は、一時的にせよ大きなマイナスの影響を4-6月期の日本経済に与えるのである。

リスクは国内感染問題から外部要因へ

中国以外の経済動向に目を向けると、エネルギー調達のロシアへの依存度が高い欧州連合(EU)が、対ロシア制裁としてロシア産石炭、原油の輸入禁止の方針を決めたこと、さらにロシア産天然ガスの輸入禁止にまで踏み出す可能性が今後考えられる点を踏まえれば、その影響からEUの成長率は大きく鈍化することが予想される。

さらに、米国では歴史的な物価高騰への対応で、異例のペースで金融引き締め策が実施されている。それが年後半から来年にかけて、景気の急減速や金融市場の混乱を引き起こす可能性も次第に高まってきているように見える。

このように、日本の主要輸出先の経済状況にはリスクが高まっており、輸出環境は4-6月期以降、より厳しさを増していくことが予想される。

日本経済にとっての逆風は、過去2年間の感染問題から、こうした海外景気の減速、あるいは海外要因によって大きく左右される原油価格高騰、円安進行による物価高など、いわゆる外部要因へと大きくシフトしてきているのである。そのため、国内政策で経済の悪化に対応することはより難しくなっている。

ちなみに、実質GDPがコロナ問題前の2020年1-3月期の水準を上回るのは、2022年7-9月期、コロナ前のピーク(2019年4-6月期)の水準を上回るのは、2024年7-9月期になると見込まれる。

水際対策緩和が成長の追い風か

他方で、政府が6月から実施する予定の水際対策の緩和は先行きの成長に一定程度の下支えとなることが期待される。水際対策の緩和によって4-6月期の実質GDP成長率は、前期比年率換算で+6.1%、6月の政策がその後も維持された場合、7-9月期の実質GDP成長率は、前期比年率換算で+4.4%それぞれ押し上げられる計算となる(コラム「水際対策緩和の追加経済効果は年換算8.1兆円。インバウンド戦略の再構築を成長の起爆剤に」、2022年5月16日)。

新型コロナウイルス問題からの経済の回復が、他国と比べて大きく後れを取っている日本では、水際対策の緩和、インバウンド戦略の再構築を急ぎ、それを成長の起爆剤とすることが、物価高対策以上に政策面で求められるのではないか。

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