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悪い円安は一巡との判断はまだ早計。注目は今秋か

2022/05/26

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円安一巡は米国側の要因による

4月末から5月上旬にかけて1ドル131円台まで一気に進んだ円安ドル高は落ち着いてきており、足元では一時126円台まで戻している。物価高を助長する「悪い円安」との議論を一気に高めた3月以降の急速な円安は、果たして一巡したのだろうか。

円安進行は日米の金融政策の差によって生じていると日本では見る向きが多い。しかし実際には、米国の急速な政策金利の引き上げとそれを織り込んだ長期金利の急上昇によって生じたドル独歩高傾向の一側面との性格が強いだろう。この間、日本銀行の金融政策は修正されず、毎営業日指値オペの導入によって、むしろ長期金利上昇抑制の姿勢は強化された(コラム「長期金利の上昇抑制強化でさらなる円安進行を招いた日銀金融政策決定会合」、2022年4月28日、「日銀総裁記者会見:金融緩和姿勢は修正せず」、2022年4月28日)。その中で円安ドル高が足元で一巡してきたのは、米国側の要因によるところが大きい。

米国では4月下旬以降、株式市場が軟調に推移している。当初の株価の調整は、米国金利上昇懸念を映したもので、金利に敏感なグロース株が株価下落を主導した。ところが足元では、株価下落と長期金利低下、ドル安が同時に進む傾向が強まっている。これは、景気の先行きに対する懸念が生じた際の代表的な市場の反応だ。急速な金融引き締め策によって米国経済が悪化するとの懸念が市場に広まり始めたのである。米国10年国債利回りは、5月上旬には3.2%台まで上昇したが、足元では2.7%台まで下落している。これが、円安修正の主因である。

インフレ期待の低下に注目

米国債券市場で注目されるのは、物価連動債から計算される中長期のインフレ期待であるブレークイーブンインフレ率(BEI)が低下していることだ。4月に3%を超えた10年国債の期待インフレ率(BEI)は、足元では2.5%台まで0.5%近くも低下している。インフレ期待が低下すると、名目金利からインフレ期待を引いた実質金利が一気に上昇することになる。金融引き締め策の効果は、実質金利の水準で決まる部分が大きいことから、インフレ期待が低下することで米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めの効果が、経済、金融市場ににわかに効き始める可能性がある。

現状では、住宅関連の一部を除けば、米国経済はなお総じて堅調である。他方、物価上昇率については沈静化する明確な兆候は未だ見えていない。このような状況下では、FRBの急速な金融引き締め姿勢はまだ続くと見ておくべきだろう。この先、0.75%幅での利上げ観測が浮上する可能性もあり、金融引き締め加速への観測から長期金利が再び上昇し、それが円安ドル高をもたらす可能性が残されている。

このように、米国経済や物価に明確な変調が見られず、また株安傾向とはいえ金融市場が大きな混乱に見舞われていない現状では、米国の急速な金融引き締め先に根差す円安リスクはまだ残っているとみるべきではないか。この点から、円安は一巡との判断は、まだ早計に思われる。

FF金利2.25%~2.5%が節目か

他方、現状0.75%~1.0%の米国の政策金利、つまりFF金利が、この先2.25%~2.5%まで上昇すれば、FRBの金融引き締め姿勢はより慎重となり、それが長期金利の頭打ちと為替市場では円安ドル高の終焉をもたらす可能性が考えられる。2.25%~2.5%の水準が重要であるのは、以下の3つの理由による。

第1に、2.25%~2.5%は前回の利上げ局面でのピークの水準であり、今後市場の期待インフレ率が低下し、当時の2%強に達すれば、この水準で景気の抑制効果が明確に出てくる可能性がある。

第2に、2.25%~2.5%は、FRB内で考えられている中立金利、つまり景気に中立な水準のコンセンサスである。その水準まではある意味目をつぶってでも急速に政策金利を引き上げるが、それ以降は経済・物価、金融市場を睨みながら慎重な金融引き締め姿勢に転じることが見込まれる。

第3に、FRBは、短期金利と18か月の国債金利の長短金利差に注目し、そこが逆転すると金融引き締めが行きすぎ、先行き景気を悪化させるリスクがあることを示す、と考えている。現在、18か月の国債利回りは2.2%程度である。この水準が今後も維持される場合には、FF金利が2.25%~2.5%まで引き上げられれば長短金利は逆転し、FRBは金融引き締めににわかに慎重になる。

9月から11月辺りが円高転換の重要な時期か

このように、FF金利が2.25%~2.5%まで引き上げられると、米国経済、金融市場に変調が見られ、また、FRBが金融引き締めに慎重姿勢に転じると考えるとの目途を持つことが可能だ。ちなみにFF金利が2.25%~2.5%まで引き上げられる時期は、今年の9月ないしは11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)と現時点では見込まれる。それ以降も金融引き締めは続くとしても、そのペースはかなり落ちる可能性があり、それを受けて米国長期金利は頭打ちから下落、それに合わせて円安ドル高が終焉すると考えることができるのではないか。

米国長期金利が低下する場合、あるいは米国の景気や金融市場が不安定化するとの観測が併せて浮上する場合には、日米長期金利差縮小とリスク回避傾向が同時に強まることで、対ドルで円が急速に巻き戻され、120円を超えて大きく円高に振れる事態も想定しておく必要があるのではないか。

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