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訪日外国人観光客の受け入れ再開:インバウンド戦略の再構築を急げ

2022/05/27

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訪日外国人観光客の受け入れを6月10日から再開

岸田首相は26日に、訪日外国人観光客の受け入れを6月10日から再開すると表明した。感染拡大のリスクを抑える観点から、当面は旅程を管理しやすい添乗員同行のパッケージツアーに限定する。羽田など5空港のみ認めている国際線発着を6月中に新千歳、那覇の両空港でも再開する方針だ。政府は、5月24日以降、米国やタイなどの4か国の旅行関係者を招いて、観光地を巡る実証ツアーを行ってきた。その結果を踏まえて、本格的な再開につなげていく。

他方、6月1日からは1日当たりの入国者数の上限を1万人から2万人に引き上げる水際対策の緩和を実施する。この2万人の枠内で、訪日外国人観光客も受け入れることになった。

水際対策緩和の追加経済効果は年換算で8.1兆円

コロナ問題前の2019年には、訪日外国人観光客によるインバウンド需要は4.8兆円規模に達していた。一人当たりの平均消費額は15.9万円である。上限を1万人から2万人に引き上げることで、長らく待機していた留学生や外国人労働者など長期滞在者の入国が急増することになるだろう。その経済効果は、一人当たりに換算すると短期滞在者である訪日外国人観光客を大きく上回る。

上限引き上げによって、6月の入国増加による経済効果は、年率換算で16.2兆円となり、5月の同8.1兆円から倍増する見通しだ(コラム「水際対策緩和の追加経済効果は年換算8.1兆円。インバウンド戦略の再構築を成長の起爆剤に」、2022年5月16日)。

コロナ前とは異なるインバウンド戦略を

ただし、長らく待機していた留学生や外国人労働者など長期滞在者の入国のペースは早晩落ちていくだろう。長い目で見れば、訪日外国人観光客を多く呼び込むことが、経済効果の観点からはやはり重要となる。

ただし、訪日外国人観光客を受け入れて日本経済を活性化させるというインバウンド戦略は、コロナ前とは異なるものである必要があるだろう。受け入れ再開に先立って、政府はインバウンド戦略の再構築を急いで進める必要があるのではないか。

インバウンド需要を再び増加させることは、重要な成長戦略の一つと明確に位置付けるべきだ。足元での円安をインバウンド需要再拡大の追い風にすべきとの意見も出てきているところだ。

より幅広い国・地域から訪日観光客を呼び込むことが重要に

インバウンド需要の拡大を日本経済の潜在力向上につなげるには、それが持続的であるとの事業者の期待を高めることが重要なのではないか。インバウンド需要が拡大してもその持続性に不安があり、長続きしないと考えると、ホテルの新設など企業の新規投資は増えず、結局、日本経済の潜在成長率の向上につながらない。その分、宿泊先の手配が難しくなり、日本人の観光客が外国人観光客に締め出されて不満を高めるといったマイナス効果も生じ得るのである。

新型コロナウイルス問題前の外国人観光客は、国別にみれば中国と韓国に偏っていた。これでは、日本と両国の間の外交関係が悪化すると両国の観光客が一気に減少し、外国人観光客全体が大きく減少してしまうリスクがある。実際のところ、観光にかかわる多くの事業者は、そうした懸念を持ち続けていたのである。

そこで、より幅広い国・地域から訪日観光客を呼び込むことこそが、インバウンド需要の持続性への期待を高め、企業の新規投資を促し、生産性向上、潜在成長率上昇といった日本経済の潜在力の向上に貢献することになるのではないか。

さらに、東京一極集中の是正、デジタル田園都市構想などの政府の政策とインバウンド戦略を連動させて、外国人観光客を地方に誘導して地域活性化につなげることも重要だ。 外国人観光客の受け入れも再開しようとする今、日本経済の潜在力に大きな影響力を与え、成長の起爆剤ともなり得るインバウンド戦略の再構築は、まさに政府にとって喫緊の課題である。

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