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暗号資産(仮想通貨)が金融システムを不安定化させるリスクを警戒し始めたECB

2022/05/30

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波紋が広がるステーブルコイン・テラの問題

ステーブルコイン・テラがドルとの一対一の関係を維持できなくなった問題は、暗号資産(仮想通貨)に対する規制強化の議論を世界的に高めるきっかけとなっている(コラム「ステーブルコイン『テラUSD』が暴落」、2022年5月17日)。

国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ総裁は5月23日にダボスフォーラムで、「テラは資産で裏付けられない不安定なステーブルコイン」と語った。さらに20%もの異例の高利回りをテラの預金に保証したのは、出資してもらった資金を運用してその利益を出資者に還元する「ポンジ・スキーム」に近いものであり、崩壊は避けられなかった、との主旨の発言をした。

また欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は22日にテラについて、「それは何の価値もない。安全を保障する錨の役割をできるほどの基礎資産が何もない」とし、「デジタル資産に投資してすべてを失いかねないというリスクを理解できない人たちを保護するため規制を設けるべき」と語った。

米連邦準備制度理事会(FRB)のブレイナード理事もこのテラの問題について、「一連の出来事は規制上の明白なガードレールが必要であることを明確に示している」と発言している。

個人、機関投資家の間で広がる暗号資産(仮想通貨)の保有

そうした中、ECBは23日に公表した金融安定報告(FSR)で、急成長する暗号資産(仮想通貨)が、将来、金融安定にリスクをもたらす恐れがあると指摘し、規制・監督の強化の必要性を訴えた。

同報告書によると、暗号資産の資産規模は、世界の金融市場全体のまだ1%に満たない。しかしその規模は、2020年末から急成長している。2021年末のピークの2.5兆ユーロまで、2020年年初から7倍膨れ上がった。さらにその規模は、リーマンショック(グローバル金融危機)を引き起こしたサブプライムの証券化商品(MBS)と同じ程度だ。

欧州主要6か国の家計の暗号資産の保有状況をみると、暗号資産を保有する家計の割合は、オランダの14%程度からフランスの6%程度まで開きはあるが、平均すれば10%程度に達している。個人の暗号資産の保有はかなり進んでいるのである。

家計の所得階層別に暗号資産の保有額をみると、興味深いことに所得が低い世帯と所得が高い世帯の双方で保有が多いという、U字型の構造が確認できる。また、金融リテラシーで見ると、それが高い層と低い層の双方で暗号資産の保有比率が高いという傾向もみられる。個人投資家保護の観点からは、低所得層、そして金融リテラシーが低い層が暗号資産を多く保有していることは見逃せない問題である。

他方、機関投資家も暗号資産の保有を増やしている。欧州の機関投資家で暗号資産を一定規模保有する割合は、2020年の45%から56%にまで上昇してきた。その結果、暗号資産が金融システムのリスクを高めている可能性がある。実際、伝統的金融商品と暗号資産との相互関連性は高まっているのである。

レバレッジと暗号資産融資

さらに同報告書は、暗号資産投資のレバレッジ比率が非常に高い点や、暗号資産の貸し出しが増えている点に警戒を示している。暗号資産取引所は、投資家に貸出を行い、自己資本を大きく上回る規模の暗号資産投資を可能にさせている。ある大手暗号通貨取引所は、最大で125倍までのレバレッジを顧客に提供している。そのもとでは、価格下落時に、個人投資家が巨額の損失を負う可能性があるだろう。

また、保有する暗号資産を貸し出すことで利息を得る、暗号資産融資が急速に拡大している。これは投資家にとっては一種の預金であり、それを通じて投資家が得られる利子率は、銀行預金から得られる利子率を大きく上回っている。テラの場合にはそれが20%にも達していたのである。これについては、現状では明確な規制が導入されていない。

テラの問題を受けて、暗号資産に対する金融当局の規制が、欧米で一気に導入、強化される兆しが見られ始めている。米証券取引委員会(SEC)は、主に投資家保護の観点から暗号資産への規制を検討してきた。しかし、個人投資家だけでなく、機関投資家の暗号資産の保有も増加し、また伝統的金融商品と暗号資産の価格の連動性が強まる中、ECBは、金融システムの安定の観点からも暗号資産への規制・監督の強化の必要性を強く訴え始めたのである。

テラの問題は、金融当局による暗号資産への規制強化の範囲とその程度を一気にスケールアップしつつある印象だ。

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