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ロシア国債がデフォルト認定:金融市場への影響は限定的もロシア経済には大きな打撃に

2022/06/02

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クレジットデリバティブ決定委員会がクレジットイベント(信用事由)の判断

デリバティブ(金融派生商品)市場を監督する業界団体、EMEA(欧州・中東・アフリカ)クレジットデリバティブ決定委員会(CDDC)は6月1日に、期限を迎えた外貨建てロシア国債の利子約190万ドルが、猶予期間内に支払われなかったことについて、それがクレジットイベント(信用事由)に該当し、ロシア国債はデフォルト(支払い不履行)に相当すると認定した。

対象となったのは、4月4日に支払い期限を迎えたドル建て国債の利払いである。米国政府は、対ロシア制裁の一環で、ロシア政府が米銀に保有するドル準備を使って米国投資家に債務返済をすることを4月4日に禁じた。そこでロシアはルーブルでの支払いを余儀なくされたが、ロシアは30日間の猶予期間が切れる前の4月末に、国内で保有するドル準備で利払いを行い、デフォルトをなんとか免れていたと考えられていた。

ところがこの際に、約190万ドルの利払いが履行されなかったとして、投資家が、クレジットイベントに該当するかどうかの判断を委員会に要請していたのである。

さらに、5月25日には、米銀がロシア政府の債務返済の手続きを仲介することを認める例外規定を米財務省が失効させたことで、この先に期限を迎えるドル建てロシア国債の利払いをロシア政府が履行する道は閉ざされた。

CDS発動も金融市場への影響は限定的

今回のロシア政府の190万ドル分の不払いが、クレジットイベント(信用事由)、デフォルトに相当すると判断されたものの、ロシア国債すべてをデフォルトとみなすクロス・デフォルトとはならない。ロシアの外貨建て債務は、7,500万ドル以上の不払いがあった場合にのみクロス・デフォルトと判断されるためである。

他方、CDDCがクレジットイベントに該当するとの判断を示したことで、ドル建てロシア国債のデフォルト時にその元本を国債保有者に保証する保険商品(プロテクション)であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)約22億ドル(約2,860億円)が発動されることになる。そこで、CDSを投資家に販売した投資会社に負担が生じるのである。

証券当局への届け出によると、米債券運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント(ピムコ)は、10億ドル超のロシア国債のCDSを販売しているという(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。

2008年のリーマンショック時には、価格が大幅に下落した住宅ローン担保証券(RMBS)などのCDSを大量に販売した証券会社や保険会社が、投資家に支払いができなくなるという事態を招き、金融市場の大きな混乱につながった。ただし今回は、CDSの規模が小さいことから、同様の混乱を引き起こす可能性は小さい。

また、デフォルト認定の影響についても、ロシア国債全体の規模も小さいことや、ロシア国債の市場価格はすでに大幅に下落し、投資家の損失処理も進んでいることから、世界の金融市場に与える影響は限られよう。

他方、1998年にデフォルトに陥ったロシア経済を復活させたことを自身の政策の成果として強調してきたプーチン大統領にとっては、デフォルトはその評価と国内での影響力を低下させかねない逆風だ(コラム「米国財務省はドル建てロシア国債の利払いを認める例外規定を失効」、2022年5月25日)。

通常のデフォルト以上に厳しい

外貨建て国債がデフォルトに陥ると、それを発行した政府は、その後数年間、海外からの資金調達の道が閉ざされるのが普通だ。今回は、その期間がより長期化するだろう。

ロシア政府は、債務返済の意思と能力があるにもかかわらず、米国の不当な制裁措置によって債務返済が邪魔された、いわゆる不可抗力であると主張して、今後もデフォルトではないと主張を続けるだろう。その結果、通常はデフォルト認定と共に始められるはずの債務者(政府)と債権者(投資家)との間の債務再編(リストラ)交渉が始まらないのである。

この交渉を通じて債務返済の条件変更で両者が合意することが、債務者が信頼性を回復して、海外からの資金調達を再開できる起点となる。ところが、ロシア政府はデフォルトを認めないため、リストラ交渉は始まらない。この点から、通常のデフォルト以上に、今回はロシアが海外からの資金調達を再開できる道は険しいと言える。

海外からの資金調達停止はロシア経済の将来を奪う

ウクライナ侵攻の影響で、ロシア政府の財政環境は急速に悪化している。公的部門の資金不足を海外からの買い入れで賄えない場合には、国内の資金調達に依存することになる(凍結措置により外貨準備も使えない)。これは、クラウディングアウト効果を生じさせ、国内での民間投資を強く抑制するだろう。

同様のことを実体経済の面から考えると、海外からの資金調達の道が閉ざされれば、対外収支は均衡が求められる。他方で、戦争遂行のために政府の財政収支が悪化すれば、それは輸入増加を招きやすい。対外収支を均衡させるためには、その他の輸入を強く抑制する必要が生じる。それには、国内の民間経済の需要を強く抑える必要が出てくるのである。

このように、ロシア政府の軍事活動と海外資金調達停止が重なると、ロシア経済には強いマイナスの影響が及ぶことが予想される。さらに、海外資金調達が長期間閉ざされれば、将来にわたってロシア経済の成長の芽は摘まれてしまうだろう。

デフォルト、あるいはロシア政府が海外の投資家の信頼を大きく失い、海外での資金調達の道を閉ざされるという事実上のデフォルト状態は、世界の金融市場にとっては大きなリスクではないが、ロシア経済にとっては大きな打撃となる。

(参考資料)
"Russia's Missed Bond Payment Triggers Default Insurance", Wall Street Journal, June 1, 2022
「ロシア国債「不履行」とCDDC認定、猶予期間分の利払いされず」、2022年6月1日、ロイター通信ニュース

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