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ステーブルコインを規制する初めての法律が成立

2022/06/06

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ステーブルコインの発行者を限定し流通を担う仲介者は登録制に

5月にステーブルコイン・テラがドルとの連動性を失い価格が暴落したことで、法定通貨に対して安定した価格を維持する設計の暗号資産(仮想通貨)であるステーブルコインに対する規制強化の動きが、世界で一気に強まっている(コラム、「ステーブルコイン『テラUSD』が暴落」、2022年5月17日、「暗号資産(仮想通貨)が金融システムを不安定化させるリスクを警戒し始めたECB」、2022年5月30日)。

そうしたなか日本では、海外に先駆ける形でステーブルコインを規制する初めての法律となる改正資金決済法が、6月3日に参院本会議で可決、成立した。法改正の大きな狙いは、投資家保護とマネーロンダリング(資金洗浄)対策の強化である。政府は他の暗号資産と比べ、ステーブルコインがマネロンに使われやすいと考えているのである。

改正法は①ステーブルコインの規制、②マネロンの共同監視システムの規制、③高額送金が可能な電子ギフト券などのマネロン対策の3本柱となる。

メールで番号を送るなどの方法で送金する電子ギフト券やプリペイドカードも規制の対象となる。1回の送金額が10万円、1カ月の合計が30万円を超える場合に対象となり、発行者には本人確認手続きなどが義務づけられる。

そして、ステーブルコインの発行・管理をする「発行者」と流通を担う「仲介者」の役割が明確に分けられることになる。発行は、規制・監督が届きやすい銀行や資金移動業者、信託会社に限定される。一方、「仲介者」は登録制とし、モニタリングなど従来よりも厳しいマネロン対策を求められる。金融庁は必要に応じて事業者に立ち入り検査を実施し、業務改善命令などの行政処分を行う。

対象となるのは「担保型」

ステーブルコインは大きく分けて2種類ある。法定通貨建ての安全資産、その他の暗号資産(仮想通貨)、コモディティの裏付けを持たせることで価値を安定させている「担保型」とそうでない「無担保型」だ。そして「無担保型」には、金融工学を駆使して自動的に価格を法定通貨に連動させる(アルゴリズム無担保型)、あるいは参加者の利益動機を利用して法定通貨に連動させる仕組みが組み込まれている。価格が暴落したテラは後者のタイプだ。

今回の日本の法改正で新たに主な規制の対象となるのは、前者の「デジタルマネー類似型ステーブルコイン」である。テラのようなアルゴリズムで価格調整する「暗号資産型ステーブルコイン」は法律上、暗号資産に分類され、それを扱う業者は暗号資産交換業者として金融庁の審査を経て登録する必要がある。

テラ暴落を機に世界でステーブルコイン規制強化の動き

以前、日本が仮想通貨の規制の枠組みを他国に先駆けて導入したのと同様に、ステーブルコインの規制、法整備も日本が先行することになった。しかし、日本では他国のようにステーブルコインの取引は多くない。今回の規制は、将来日本でステーブルコインの取引が増えていくことを見越し、それに先手を打つ予防的な措置と言えるだろう。

米国では、ステーブルコインの中でも安全資産などで価値が担保されている「担保型」への規制が従来は中心に議論されていた。安全資産の裏付けがあると説明しながら、実際には十分な資産を持っていないことを疑われるステーブルコインがあったためだ。バイデン大統領は3月に、デジタル資産に関する大統領令に署名したが、そこでは、どこに準備金を置いているか明確でない「担保型」ステーブルコインの発行体に焦点が当てられていた。準備資産を十分持っていないことが露呈すれば、価値が一気に下落し、保有者に大きな損失を出しかねないためだ。

ただし、テラの暴落を受けて、アルゴリズム無担保型のステーブルコインについても、にわかに規制強化の対象とする動きが強まっている。

欧州では金融システム安定の観点から規制強化の動きも

日本では、他国に先駆けてステーブルコインへの規制、監視の枠組みを整えた、という印象が強いが、既にステーブルコインの取引が広がっている米国は、ステーブルコインの具体的な設計に踏み込んだ規制強化に向かっているのではないか。その点で、米国で最も重視されているのは、やはり投資家保護の観点である。

他方で欧州中央銀行(ECB)は、機関投資家が保有するステーブルコインが増えていることや、その価格と伝統的な金融商品との連動性が強まっていることから、ステーブルコインが金融システムに与える影響にも警戒を強めている。欧州では、投資家保護の観点に加えて、金融システムの安定維持の観点からも、ステーブルコイン規制の議論が高まっているのである(コラム、「暗号資産(仮想通貨)が金融システムを不安定化させるリスクを警戒し始めたECB」、2022年5月30日)。

このように、国ごと、地域ごとに狙いや重点に異なる点を残しつつ、テラの暴落もきっかとなってステーブルコインの対する規制強化はグローバルに進められていく方向にある。


(参考資料)
「ステーブルコイン、投資家保護に軸足 海外勢参入難しく」、2022年6月3日、日本経済新聞電子版
「改正資金決済法が成立 暗号資産のマネロン対策強化」、2022年6月3日、日本経済新聞電子版
「改正資金決済法が成立―デジタル通貨の利用者保護」、2022年6月3日、共同通信ニュース

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