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再燃する円安進行と悪い円安への警戒

2022/06/06

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5月雇用統計後に円安傾向が強まる

為替市場では円安傾向が再び強まっている。6月6日の為替市場では一時130円99銭と131円目前まで円安が進み、1カ月ほど前の5月9日につけた直近ピークの131円35円に接近した。足元で円安が再燃している背景にあるのは、米国で急速な金融引き締めが当面続くとの見通しが強まる中、米国の長期金利が再び上昇し、日米の長期金利差が拡大していることだ。

円安が直近ピークを付けた5月9日には、米国10年国債金利も3.1%と同じく直近ピークを付けていた。その後、物価上昇率のピークアウトの期待、成長鈍化懸念、株式市場の調整などを受けて一時2.7%程度まで下落したが、足元では再び3%直前まで上昇している。

先週末に発表された5月分の米雇用統計では、失業率は前月と同水準の3.6%となる一方、非農業雇用者増加数は前月比39万人増と、昨年4月以来最も低い伸びとなった。さらに時間あたり賃金上昇率は前月比+0.3%、前年同月比は+5.2%と、前月の同+5.5%から鈍化した。また、労働参加率は前月の62.2%から62.3%へ若干上昇した。

FRBは9月まで0.5%の大幅利上げを続けるとの観測

このように、5月分雇用統計は米国の労働需給が緩やかに緩和へ向かっており、賃金上昇率も鈍化傾向を辿っていることを確認させるものとなった。しかしそれでも米国経済は依然堅調であり、またインフレ圧力を明確に抑え込むほど労働市場が弱くなっていないことも示している。その結果、米連邦準備制度理事会(FRB)が急速な利上げ(政策金利引き上げ)を当面続けるとの期待を金融市場は強め、それが米長期金利の一段の上昇につながっているのである。

FRBは5月には2000年以来となる0.5%の大幅利上げを実施した。6月、7月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.5%の利上げを続ける可能性が、既に金融市場に織り込まれている。一部で主張されている0.75%幅の利上げはFRB内ではまだ支持を集めていないが、9月のFOMCまで4回連続で0.5%幅の利上げが行われるとの期待が市場に織り込まれつつあり、これが足元での長期金利の上昇とドル高につながっている。

原油高とECB利上げ観測も円安を後押し

さらにWTI原油先物価格は6日に直近最高値の1バレル120ドル台に一時乗せた。OPECプラスが増産幅の拡大を決定したが、EU(欧州連合)のロシア産原油の輸入禁止措置の影響などで、先行き原油需給が一段とひっ迫するとの見方が、背景にあるとみられる。原油価格の一段の上昇が、米国での物価上昇率の低下を遅らせ、FRBの急速な利上げを後押しする。

また、足元では欧州中央銀行(ECB)の利上げ観測が強まっている(コラム「ECBがマイナス金利政策を終了へ。日本銀行の政策にも影響」、2022年5月25日)。7月にはECBは利上げを開始することが見込まれる。それを織り込んで足元ではユーロ高傾向がみられる。足元でユーロ円は140円台と、直近最高値を更新している。円はドルばかりでなく、利上げを始めるユーロに対しても下振れており、円全面安の様相を呈している。

再び高まる悪い円安批判

6月6日に日本銀行の黒田総裁は、金融緩和を修正する考えがないことを改めて強調している。日本の金融政策の修正の可能性が近い将来には小さい中、対ドルでの円安の流れを変える可能性があるのは、米国の金融政策姿勢の修正である。

FF金利が2.25%~2.5%まで上昇することが見込まれる9月のFOMC辺りで、環境が許せばFRBは利上げのペースを調整することが見込まれる。それは米国の長期金利の上昇と円安ドル高の流れに歯止めを掛ける可能性があるだろう(コラム、「悪い円安は一巡との判断はまだ早計。注目は今秋か」、2022年5月26日)。

しかしその時点に到達するまでにはまだ時間があり、その間は円安がさらに進行する余地があるだろう。円安進行は、足元での原油価格の一段の上昇と相まって、日本の物価上昇率を押し上げる可能性が高い。米国などではコアCPI(消費者物価)の前年比上昇率にピークアウトする兆しがみられるが、日本では当面コアCPI(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、4月の同+2.1%から2%台後半に向けて一段と上昇することが予想される。

その結果、物価高を促す悪い円安を助長しているとして、日本銀行の円安容認姿勢、金融緩和堅持の姿勢は政府や企業、国民から一段と強い批判を浴びるリスクが残されているのではないか。

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