フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 OECDは物価見通しを2倍に上方修正:ウクライナ侵攻は世界経済と国際協調体制に深刻な打撃

OECDは物価見通しを2倍に上方修正:ウクライナ侵攻は世界経済と国際協調体制に深刻な打撃

2022/06/09

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

The Price of War(戦争の代償)

前日の世界銀行に続き、6月8日には経済協力開発機構(OECD)が、世界経済見通しを公表した。「The Price of War(戦争の代償)」という副題が示すように、報告書では、ウクライナ侵攻が世界経済と物価に与える影響に焦点が当てられている。そして、ウクライナ侵攻を行ったロシアに世界経済悪化の責任がある、との主張も込められており、政治色もおびた異例の報告書となった。

コーマンOECD事務総長は、「景気減速の直接の原因は、ロシアの理不尽かつ不当な侵略戦争であり、世界中で実質所得が減少、成長率が低下、雇用機会も減少している」と述べている。

2022年の世界の成長率見通しは、昨年12月時点の前回見通しの+4.5%から、今回は+3.0%へと1.5%ポイントの大幅下方修正となった。特にロシア産エネルギーに強く依存してきた欧州は、対ロ制裁措置に伴うエネルギー調達の支障の影響を大きく受けることから、2022年のユーロ圏の成長率見通しは前回から1.7%ポイント下方修正され+2.6%、2023年については0.9%ポイント下方修正され+1.6%となった。

さらに、欧州へのロシア産天然ガスの供給が完全に停止した場合には、2023年のユーロ圏の成長率は1%以上の下方修正となる、とOECDは試算している。

他方、日本の2022年の成長率見通しは前回から1.7%ポイント下方修正され+1.7%となった。対ロ制裁措置の影響を最も受けるユーロ圏と同幅の下方修正となったのは、日本経済がエネルギー価格上昇の悪影響を大きく受けることに加え、ゼロコロナ政策などの影響で下振れが顕著な中国経済の影響を強く受けるためだろう。

物価高騰と新興国の食料危機

ウクライナ問題を受けてOECDの成長率見通しは大きく下方修正されたが、同時に物価上昇率見通しは大きく上方修正されている。2022年のOECD加盟国の物価上昇率は前年比+8.5%と、前回見通しの+4.2%から一気に2倍への引き上げられたのである。

先進国ではオランダの+9.2%、英国の+8.8%の2国のみが、OECD平均を上回っている。つまり、物価高は先進国よりも新興国でより顕著となっているのである。2022年の物価上昇率見通しで上位を占めるのは、トルコの+72.0%、アルゼンチンの+60.1%などである。

物価高に関連して、新興国での食料危機についてもOECDは強く警鐘を鳴らす。ローレンス・ブーンOECDチーフエコノミストは、「見通しは厳しく、世界はすでにロシアによる侵略の代償を支払わされている」としたうえで、「飢饉は世界が支払うべき代償ではない」と主張する。

食料危機の問題が生じたきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻である。ロシアの侵攻により、ウクライナの黒海沿岸の港が封鎖されていることが、それをより深刻化させている。ウクライナは「ヨーロッパの穀倉」と呼ばれ、小麦の供給で世界4位であるが、港の封鎖によって小麦の輸出が滞り、世界的な小麦価格の高騰をもたらしているのである。その打撃を特に強く受けているのはアフリカ諸国だ。

OECDによると、例えばマダガスカルやチュニジアはトウモロコシ輸入の半分以上をウクライナに頼るほか、モンゴルやアゼルバイジャンは肥料輸入のほとんどをロシアに依存している。

「食料保護主義」の広がりと国際協調の後退

さらに、食料危機のリスクを増幅しているのは、各国での輸出規制の動きである。米シンクタンクの国際食糧政策研究所の食料・肥料輸出規制調査(Food & Fertilizer Export Restrictions Tracker)によると、現時点で食料輸出規制措置を導入したのは20カ国に及び、輸出許可制度と合わせると、世界の食料市場の約10%に政策的な制限が及んでいることになる。輸出規制を導入している国には、ロシアやその友好国であるベラルーシ、カザフスタンに加えて、インド、トルコ、イランも含まれている。

自国の食料確保を優先する「食料保護主義」が広がることで、低所得国がより食料を確保することが難しくなり、食料危機のリスクが高まる。さらにこうした動きは、食料のみならず、貿易全体に保護主義が広がるきっかけともなり、世界貿易、ひいては世界経済の低迷をもたらすリスクをはらむ。

このような局面でこそ、国際協調が強く求められる。しかし、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、G20(主要20カ国地域)や国連では、先進国と新興国の対立の構図が強まっており、世界が抱える諸問題に国際協調を通じて対応する力が著しく低下してしまっているのである。

ロシアのウクライナ侵攻は、世界経済に直接的に大きな打撃となるばかりでなく、各国の国際協調を通じた問題解決力も大きく損ねており、それが経済問題をより深刻化させているのが現状だろう。

(参考資料)
「先進国物価22年に8.5%上昇 OECD予測、従来の倍に」、2022年6月8日、日本経済新聞電子版
「食料輸出規20カ国に」、2022年6月9日、日本経済新聞

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ