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24年ぶりの安値が近づく円安と政府・日銀会合声明文の狙い

2022/06/13

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四半世紀ぶりの円安水準が近づく

円安が歴史的な節目となる水準に再び接近してきた。先週のドル円レートは134円台半ばと、2002年以来20年ぶりの水準まで円安が進んだ。あと一歩円安が進み、2002年の高値である1ドル=135円15銭を超えると、今度はいよいよ1990年代以来24年ぶり、つまり四半世紀ぶりの円安水準と局面が変わる。

ところで、円安が日本経済にプラスかマイナスか、という論争が続いている。日本銀行は為替の過度の変動は望ましくないとする一方、円安自体は基本的には経済にプラス、との評価を崩していない。

6月8日に経済同友会が発表した「円安が日本経済に与える影響」についての調査によると、企業経営者の52.1%は「ややマイナスの影響」、21.6%は「マイナスの影響」と回答している。合計で7割強がマイナスとの判断である。また、現在の円安が自社の業績に与える影響については、「影響なし」が42.7%、「増益」が25.9%、「減益」が31.4%となっている。

現在の円安は、日本経済、企業経営共にマイナス、との回答が優勢となっているのである。そのうえで、自社にとって望ましい円相場については、「110円~115円未満」のレンジが最も回答数が多い、いわゆる最頻値となった。現状は、その望ましい水準よりも20円以上円安の水準にある。

これらの点から、現状は「悪い円安」の状態にある、というのが企業経営者のコンセンサスと言えるだろう。

政府・日銀の会合で異例の声明文を公表

こうした中、6月10日の午後4時から、財務省、金融庁、日本銀行は、国際金融資本市場に関する情報交換会合、いわゆる「3者会合」を開いた。この会合は、為替市場が大きく変動する局面で過去に何度も開かれ、会合を開くという事実で市場をけん制することに最大の狙いがある。

ただし今回は、会合後に声明文が公表されており、この点で、市場けん制の度合いが従来よりも一歩踏み込んだ印象がある。2016年から始まった3者会合で、会合後に声明文が発表されるのは今回が初めてだ。

声明文では急速な円安の進行を「憂慮している」と明記した上で、「必要な場合には適切な対応を取る」との表現が入った。これをやや踏み込んだ表現との評価もあるかもしれないが、そこまでではないだろう。

米国の賛同が得られない中、政府(財務省)が唯一持っている為替政策の手段である為替介入(円買い介入)は封じられている状況にある。米財務省は10日に公表した半年に一度の「外国為替政策報告書」で、年明けの急速な円安に触れたうえで「為替介入は事前に適切な協議をした上で、極めて例外的な状況のみ」で認められるという従来の表現を踏襲している。日本の為替介入をけん制しているのである。

そうしたなか、声明文の表現を強めても、政府(財務省)が実効性のある政策が打ち出せない状況に全く変わりはないのである。

政府・与党からの批判に先手を打ったか

為替市場に唯一影響を与えることができる政策は、金融政策の変更である。しかし、日本銀行は、為替市場への影響を意図して金融政策を修正することを強く否定している。今回の声明文にも、金融政策の対応についての言及はない。

国会では、政府の物価高対策の効果が大きな争点の一つとなっている。来月の参院選でもそれは争点となるだろう。そうした中、為替市場で円安が一段と進めば、それは物価高を助長し、政府の物価高対策の効果を損ねてしまう。

異例の金融緩和を続ける日本銀行の政策が悪い円安を生んでいるとの批判が、再び政府内、与党内で高まりかねない状況になってきた。それに対して日本銀行が先手を打ち、批判をかわす狙いが、3者会合の開催や声明文の公表にあったのではないか。

それでも、日本銀行が実際に政策修正を行う可能性は低いことから、ドル円レートは早晩、四半世紀ぶりの円安水準に達することになるだろう。

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