フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 激震が収まらないステーブルコイン市場

激震が収まらないステーブルコイン市場

2022/06/14

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

テザーの優位が次第に薄れる方向に

5月に突如起こったステーブルコイン「テラUSD」暴落の激震が、ステーブルコイン市場でなお続いている。テラの暴落は、ステーブルコイン全体への信頼感を大きく損ねることになったのである(コラム「ステーブルコイン『テラUSD』が暴落」、2022年5月17日、「ステーブルコインを規制する初めての法律が成立」、2022年6月6日)。

テラの暴落をきっかけに、ステーブルコイン市場の勢力図にも変化が生じている。現在、ステーブルコイン市場で最大の時価総額となっているのはテザー、それに次ぐ第2位はUSDコイン、第3位はバイナンスUSDだ。暴落以前は、テラが3位だった。

しかし、テザーの優位は次第に薄れてきており、資金が他のステーブルコインや他の資産に移っているとされる。テザーが十分な資産を保有しておらず、テラのように取り付け騒ぎが起きるリスクが意識されているためだ。

テラは資産の裏付けを持たないタイプのステーブルコインであったが、テザー、そしてUSDコイン、バイナンスUSDは、資産の裏付けを持つ「担保型」ステーブルコインである。

テザーは、その発行額と同等規模の準備を維持することでドルと連動する仕組みであり、その裏付け資産はコマーシャルペーパー(CP)、銀行預金、貴金属、国債などで構成されている。しかしテザーは裏付け資産の投資について詳細を明らかにしていない。そこで、十分な裏付け資産を保有していない、あるいは直ぐにテザーを換金できないのではないか、との不安をユーザは以前から抱いてきたのである。

その結果、テザーはテラの暴落以前から、投機筋の間で空売りの対象となっていた。テザーの発行に合わせて準備金が積み立てられるとしても、その資産が目減りすると、テザーの発行額に対して準備が不足するという事態が生じる。この点で投機筋が注目したのは、準備金の中でリスク資産であるCPの中身だった。

テザーが保有するCPの大半が経営不安を抱える中国の不動産開発業者のものであり、その価値はすでに大きく下落しているとの見方が浮上していた。テザーのCPの保有額は2021年末時点で計240億ドルと、テザーの準備金の3分の1弱を占めていた。恒大問題などを受けて、中国不動産市場の冷え込みや過剰債務を巡る懸念が高まり、中国の開発業者の発行する債券の格付は引き下げられてきた。

強まるステーブルコイン、暗号資産市場、金融市場の連動性

またテザーは2021年末時点で準備資産の約6%、金額にして約50億ドル相当を「その他の投資」で保有していることを公表している。これらの投資には、まだ実績を出していない仮想通貨のスタートアップ企業が発行した株式や、デジタルトークンが含まれるとみられている。これらはリスクが大きく、価格が大きく下落すれば目減りしてしまう。

テザーの準備資産の状況は不明だが、一般に準備資産の裏付けを持つ「担保型」ステーブルコインでは、発行者は準備資産を運用することで利益を上げることができる。より利益を高めるためには、リスクの高い資産(暗号資産を含む)に投資する必要があるが、その場合には、金融市場が混乱して価格が下落して準備資産が目減りし、ステーブルコインの発行額に対して準備資産が不足する。それを受けてユーザはステーブルコインを換金しようとする。換金に応じるために、発行者は広範囲な資産を売却することを迫られ、それが金融市場を混乱させることになる。

このようなメカニズムのもとで、ステーブルコイン市場、暗号資産市場、伝統的な金融市場の連動性は強まっているのである。

テラ暴落がパンドラの箱を開けたか

価格変動の激しい暗号資産の投資家は、様々な暗号資産を入れ替え、ポートフォリオを変化させて収益拡大を狙う。その際に、銀行預金などに替えることなく、資金を待機させる受け皿となるのが、ドルなど法定通貨に対して価値が安定しているステーブルコインである。暗号資産市場の中の安全資産の役割を果たしているのが、ステーブルコインだ。

そのステーブルコインに対する信頼が揺らげば、暗号資産全体への投資にも逆風となる。また、ステーブルコインが換金されれば、その発行者が保有する暗号資産も売られることになり、その価格が下落するのである。

こうして、テラ暴落をきっかけに、ステーブルコイン、暗号資産全体の動揺がなお続いている。テラ暴落がパンドラの箱を開けてしまったかのようである。

(参考資料)
"Tether Cedes Territory to Rival Stablecoins as Crypto Investors Diversify", Wall Street Journal, June 10, 2022
"Short Sellers Bet Tether, Crypto’s Central Bank, Is Vulnerable to a Run", Wall Street Journal, April 5, 2022

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ