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日銀の長期国債利回りの厳格なコントロールは限界に近いか

2022/06/15

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日本の国債市場の混乱は深まり日銀の長期国債利回りコントロールはより困難に

米国の利上げ加速観測が強まる中、日本の国債市場が混乱に陥っている。米国の長期国債利回り上昇の影響から、日本銀行は10年国債の利回りを、変動レンジの上限である0.25%以下にとどめることが難しくなってきている。さらに、指値オペで10年国債の利回りを力づくで抑え込む中、10年以下の国債利回りとの間に逆転現象もみられている。現状では、7年から10年は逆イールドとなっている。日本銀行が抑え込んでいる10年国債よりも短い年限の国債現物市場あるいは先物市場が、いわば市場の激しい攻撃の対象となっているのである。

国債先物9月物は、2013年4月以来の大幅下落となり、大阪取引所は一時的に売買を停止する措置「ダイナミック・サーキット・ブレーカー」を発動した。日本銀行は、通常の毎営業日指値オペに加えて、先物の決済に使われやすいチーペスト銘柄(受け渡し適格割安銘柄)に当たる10年債356回債についても、0.25%の利回りで無制限に購入する連続指し値オペを16、17日に実施すると発表した。先物市場での国債価格(利回り)の安定を狙った措置である。

イールドカーブ・コントロール見直しの可能性

今週に入って日本銀行は、臨時国債オペ、全年限オペ、2段階の指値オペ実施など、あらゆる手を尽くして、国債利回りの上昇を食い止める措置を講じている。しかし、こうした混乱は、米国の長期金利が大きく上昇するもとでは、国債利回りの上昇を抑えるイールドカーブ・コントロールを維持することが難しくなってきている証左と言えるだろう。日本銀行が取引全時間で、国債無制限買い入れの指値オペを随時実施しない限り、10年国債利回りを上限の0.25%以下に常に抑えることは難しくなった。

現状では日本銀行は手を尽くして国債利回りの上昇を抑える姿勢を見せていることから、16・17日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロールを見直すことはしない可能性の方が高いと思われる。

しかし、米国の長期国債利回りがさらに上昇し、日本の国債利回りにも上昇圧力がかかる状況が続けば、7月から11月の決定会合あるいは臨時会合で、日本銀行はイールドカーブ・コントロールの見直しに追い込まれる可能性を見ておきたい。日本銀行にとっては、長期国債利回りの上昇を抑え込むことが技術的に難しくなっていることと、そうした政策が円安を加速させているという国内での批判の高まりの双方が、政策修正を決断させる要因となろう。

日本銀行の金融緩和は、イールドカーブ・コントロールに限らず、市場に強く介入し、市場機能を低下させることで政策効果を上げることを目指すものだ。その副作用が、国債市場の混乱や急激な円安という形で現在表面化していると考えることができるだろう。

「通貨危機」に似た状況

現在の日本の国債市場は、固定為替制度を持つ国が海外から投機的な自国通貨の売り圧力に直面する、「通貨危機」に似た状況にも見える。当局が介入してファンダメンタルズから乖離した水準で為替レートをコントロールすることの限界を透かされ、市場からの激しい攻撃に合うのである。

現在の日本の国債市場では、日本銀行が長期国債利回りの0.25%という上限を死守しようとする姿勢が市場の攻撃対象となっている。日本銀行が上限を死守できなくなれば、長期国債利回りが上昇、価格が下落して、ショート筋は大きな利益を上げることができるのである。

これに対する有効な対抗策は、利回りの上限を死守する姿勢を見直し、市場実勢に応じて利回りが上昇することを容認することである。こうした政策修正を行うためには、決定会合で決めた毎営業日指値オペを見直すことがまず起点となるだろう。それを今後の定例の決定会合、あるいは臨時会合で決めたうえで、利回りの上限を緩めるオペレーションを日本銀行が見せていくのではないか。上下0.25%程度としている変動レンジを修正しなくても、「程度」の範囲内との解釈で、0.25%を超える10年国債の利回り上昇を容認していくのではないか。

今となってみれば、日本銀行が毎営業日指値オペを導入したことが、政策を見直すことのハードルを上げてしまった感が強い。それがなければ、オペレーションで長期国債の利回り上昇の容認姿勢を市場に段階的に織り込ませることも可能だったはずだ。

イールドカーブ・コントロールの構造的欠点が浮かび上がる

日本銀行はイールドカーブ・コントロールを見直すことを決める背景には、市場の攻撃にさらされて、それが維持できなくなる、というだけでなく、指値オペや臨時オペなどを続ければ、国債の買い入れ額が大幅に増加し、金融緩和を強化することになってしまうという問題もある。

物価高や円安が進みむしろ金融政策を引き締め気味に調整すべき時期に、長期国債利回りを固定しようとすれば、逆に緩和を強化することを強いられるのである。これは、イールドカーブ・コントロールが本来抱えている構造的な欠点でもある。

欧州国債市場にも動揺が広がる

ところで、米国長期国債利回りの急騰は、日本だけでなく、欧州の債券市場にも大きな打撃となっている。欧州中央銀行(ECB)は、15日に臨時の理事会を開く。米国の長期国債利回りの急騰の影響で、イタリアの国債利回りも大きく上昇している。周縁国の国債市場を安定化させ、金融政策正常化が加盟国間での分断化を生じさせないよう、7月1日に国債買い入れを停止する前にECBは、イタリアなど周縁国での国債を買い入れる特別な制度を発表するのではないか。

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