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FOMCでは0.75%の利上げ:FRBはインフレとの戦いに加えて金融市場との戦い

2022/06/16

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27年半ぶりの0.75%の大幅な利上げ

米連邦準備制度理事会(FRB)は、14・15日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来約27年半ぶりとなる、0.75%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)を決めた。政策金利(FF金利)の誘導目標は、1.5%~1.75%となった。

FRBは、事前に6月及び7月のFOMCで0.5%ずつの利上げを示唆していたが、先週末に公表された5月消費者物価統計が予想外に上振れ、それを受けて金融市場では0.75%の利上げ実施の観測がにわかに高まっていた。

今までは、FOMC前にFRBが利上げの有無や利上げ幅を金融市場に織り込ませ、政策変更が金融市場にサプライズを生じさせ、金融市場の混乱につながらないように配慮してきた。今回は、FOMC直前に事態が変わったことで、FRBは事前に市場に政策意図を伝える機会が得られなかった。

ただし、0.75%の大幅な利上げは事前に予想されていたため、いわゆる悪材料出尽くしでFOMC後には、株高、債券高(金利低下)が見られている。

市場に催促された形での大幅利上げ

FRBは今回のFOMCで、従来示唆していたように0.5%幅の利上げにするか、あるいは金融市場が織り込んだ0.75%幅の利上げにするかを真剣に議論したとみられる。最終的に0.75%幅の利上げを決めた最大の理由は、FOMCの直前に金融市場が0.75%の利上げを9割程度の確率で織り込んでいたことではないか。金融市場の期待に沿った形の政策決定を行った方が、金融市場に混乱をもたらすリスクを小さくできるからである。

ただしそのことは、FRBの金融政策が金融市場の期待に強く影響を受け、政策に催促された、あるいは金融市場に支配された形の決定となったことを意味するだろう。これは、FRBにとっては看過できないものであり、今後に課題を残したともいえる。

金融市場から政策決定の主導権を取り戻す

3月のFOMCでは0.25%の利上げ、5月のFOMCでは0.5%の利上げ、そして今回6月のFOMCでは0.75%の利上げと利上げ幅は加速している。ここからの単純な類推では、次回7月のFOMCでは1.0%の利上げ実施、との観測が出かねない。金融市場の観測によって金融政策がかく乱されないように、FRBのパウエル議長は、「0.75%幅の利上げが標準にはならない」と釘を刺したうえで、「次の7月会合でも0.5%か0.75%の利上げを行う可能性が高い」と述べたのである。これによって、利上げを継続する意思を示すとともに、利上げ幅が1.0%へとさらに加速する訳ではないこと、今回と同様に0.75%幅の利上げが続くとは限らないこと、を示した。FRBは再び金融政策決定について、金融市場に主導権を握られないよう、情報発信を強化し始めたのである。

一定程度景気を犠牲にして物価上昇を抑える覚悟

FOMC参加者による見通しでは、FF金利の予想中央値は、2022年末が前回3月時点の1.9%から3.4%へ、2023年末時点では2.8%から3.8%へと大幅に引き上げられた。ただし、2024年末の見通しは3.4%、中長期の平均は2.5%となっており、2023年あるいは2024年にはFRBが利下げに転じる見通しが示されている。

これは急速な利上げを進めてインフレリスクを抑え込んだ後には、比較的迅速に金融緩和に転じて、景気失速を回避する、つまり物価の安定回復と景気の安定維持を共に達成する狙いを反映していよう。

今回の見通しでは、物価見通しは大幅には上方修正されていない一方、成長率見通しは大きく下方修正されている。2022年末、2023年末の成長率はおおむね1%にとどまる。このことは、急速な利上げによって景気をある程度犠牲にし、いわゆるグロース(成長)リセッションを受け入れながら、インフレ抑制を目指すというFRBの姿勢を表している。一時的に景気減速と物価上昇率の上振れが共存するスタグフレーション的な状況を甘受しつつも、最終的には景気と物価の安定を達成することを目指しているのである。

市場の期待と市場動向が景気に大きく影響

しかし、こうしたFRBの思惑通りに進むかどうかは不確実だ。足元の急速な利上げが想定以上に景気を冷え込ませてしまうリスクも十分にあるだろう。実際足元では、住宅販売、自動車販売など金利敏感な分野で下振れ傾向がみられ、消費者心理の悪化も見られ始めている。

さらに、FRBの利上げが物価上昇圧力を抑え込むには十分でなく後手に回っているとの観測が強まれば、市場のインフレ期待が高まり、それを受けた長期金利上昇が株式などのリスク資産価格の調整を促して、金融市場を動揺させる。それは景気の下方リスクを高めてしまうだろう。また、急速な利上げが景気を悪化させるとの懸念が市場に強まれば、それも景気の下方リスクを高めてしまうのである。

他方で、金融市場が景気減速懸念を強めれば、インフレ期待が低下し、それは実質金利(名目金利―期待インフレ率)の大幅上昇を招く。その結果、実質金利で決まる部分が大きいFRBの利上げの効果が急に高まって、やはり景気の下方リスクを高めかねない。

このように、FRBが景気後退を回避しつつ物価の安定を回復できるかどうかは、金融市場の期待に大きく左右されるのである。この点から、FRBはインフレとの戦いに加えて金融市場の期待のコントロールという難しい戦いにも挑まなければならない。ただしこれを成功させることは容易ではなく、いわばナローパスではないか。

利上げ見通しが上方修正されるフェーズはそろそろ後半戦か

足元では、米国の長期金利上昇が急速な円安進行をもたらしている。ただし、FRBの利上げが続くかぎり、米国の長期金利は更に上昇し、一段と円安が進むというわけではない。市場の予想を上回って、先行き急速、大幅な利上げが行われるとの期待が生じることが、長期金利の一段の上昇と円安をもたらすのである。

FRBの利上げは来年にかけてなお続くとしても、先行きの利上げ見通しの上方修正がいつまでも続く訳ではない。実際の利上げは序盤戦だが、先行きの利上げ見通しの上方修正のフェーズはそろそろ後半戦に入ったのではないか。

遅くとも9月のFOMCでは、政策金利は2.25%~2.5%とFOMC参加者が中立と考える水準、そして前回の利上げ局面でのピーク(2018年)の水準に達する。それ以降は、FRBは景気、金融市場の安定にも配慮し、より慎重な利下げ姿勢に転じる可能性も考えられる。その場合には、米国の長期金利そして円安の流れも一巡するのではないか。

目先は、米国の利上げ見通しがなお上方修正される可能性が残されていることから、秋頃までにドル円レートは140円程度までの円安進行の余地がある、と現状では考えておきたい。

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