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決定会合は現状維持も日銀のYCC柔軟化はいずれ避けられないか

2022/06/17

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世界で取り残される日本銀行

6月16・17日の金融政策決定会合で、日本銀行は大方の事前予想通りに金融政策の現状維持を決めた。 日本銀行と同様にマイナス金利政策を導入しているスイス中銀が利上げに動き、また欧州中央銀行(ECB)も7月に利上げを開始し、9月までにマイナス金利を解除する見通しである中、現状維持を続ける日本銀行の金融政策が、世界の中で取り残されていく印象が一段と強まっている。

これは、物価高を助長する悪い円安を加速させるとの懸念を政府、企業、家計の間で強めることになり、日本銀行の政策運営に対する批判的な見方が国内で高まっている。そうした批判をかわす狙いから日本銀行は、今回の対外公表分に「金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある」との文言を加えた。

長期利回りの厳格なコントロールの枠組みは末期症状か

今週は、米国での利上げ加速観測の高まりから、日本の国債市場でも利回り上昇傾向が強まり、10年国債利回りは日本銀行が変動レンジの上限として死守してきた0.25%をあっさりと上回る局面がしばしば見られた。また、先物取引の影響も受けて、日本銀行が直接の目標水準を決めていない10年から7年程度の利回りの上昇傾向が顕著となり、このゾーンで異例の逆イールドが生じたのである。

これに対して日本銀行は、臨時国債買いオペや、残存期間7年程度の10年国債の指値オペを追加で実施するなど、あらゆる手を尽くして利回り上昇の抑制に奔走した。ただし、足元での市場の動きを見ると、10年国債利回りの変動レンジの上限を死守することはもはや難しくなってきており、枠組みは末期症状の様相を呈している。

イールドカーブ・コントロール(YCC)のもとで、日本銀行が利回りの上限を厳格に維持する姿勢を見せていること、つまり厳格なターゲットを設定していることが、市場に明確な攻撃対象を提示してしまっているのである。ファンダメンタルズから乖離した割高な水準に為替レートを固定することで、それが市場の攻撃対象となってしまい、固定為替レートの放棄、通貨切り下げに追い込まれていく典型的な通貨危機と似た構図である。

そもそも、市場で決まる長期金利を日本銀行がコントロールしようとするYCCという枠組み自体に無理がある。物価高や円安が進みむしろ金融政策を引き締め気味に調整すべき時期に、長期国債利回りを固定しようとすれば、国債買い入れ増加を通じて逆に緩和を強化することを強いられる。これは、YCCが本来抱えている構造的な欠点だ。これが今回露呈してしまった。

日本銀行は「逃げ切り」にも期待か

日本銀行が10年国債利回りの変動レンジの上限を死守する姿勢を改め、厳格なターゲットを外して緩やかな利回り上昇を一定程度認める柔軟姿勢に転じれば、市場の投機的な動きは弱まり、急激な円安進行のリスクを低下させることもできるだろう。しかし今回の会合で、日本銀行がそうした修正を決めなかった背景は2つ考えられる。

第1に、米国では物価上昇圧力の緩和傾向はまだ確認されていないが、一方で、住宅、自動車などの金利敏感セクター、消費者心理の弱さを示す指標も出てきている。さらに、米国株式市場は不安定性を増しており、米連邦準備制度理事会(FRB)が予想以上に利上げ加速するフェーズは終盤に入った可能性がある。

利上げ自体は今後も続けられるとしても、利上げ見通しの上方修正が起こらなくなれば、米国の長期金利の上昇は一巡し、その影響から対ドルでの円安進行も一巡する可能性が出てくる。そうなれば、日本銀行は日本国債売り、円安の市場の攻撃と、悪い円安を巡る国内での批判の双方をかわすことができる。いわば「逃げ切る」ことができるのである。それに期待して、日本銀行は政策の修正を今回は見送った可能性が考えられる。ただし、日本銀行が期待する姿が実現する保証はない。

第2に、このタイミングで長期国債利回りのコントロールを柔軟化すれば、日本銀行が市場の力に屈した印象が強くなるため、少し事態が落ち着いてから柔軟化を実施することを検討している可能性もある。

長期国債利回りの一定程度の上昇を容認できる

このように日本銀行は「逃げ切る」ことができる可能性がある一方で、今後数か月のうちに、長期国債利回りのコントロールを柔軟化する可能性がより大きいと現時点では考えられる。

自らが保有する長期国債の含み損が拡大することを恐れて、日本銀行は長期利回り上昇を容認しない、との見方もあるが、日本銀行が保有する国債は時価ではなく償却原価法で処理されており、日本銀行が償還前に売却しない限り損失は生じない。実際には償還まで持ち切る可能性が高いことから、含み損の拡大はそれほど深刻な問題ではない。

他方、政府の利払い負担が増加し、財政環境を悪化することを懸念して長期国債の利回り上昇を日本銀行は容認できない、との指摘もあるが、これも正しくないだろう。利回りが大幅に上昇すれば問題だが、0.1~0.2%程度の上昇による政府の利払い負担増は限られる。

ただし民間銀行の財務への影響に配慮して、見直し後も日本銀行は長期国債利回りの大幅上昇は回避するように最大限努める可能性は高い。

YCC見直しでも0%目標、上下±0.25%程度のレンジは維持か

今後YCCを見直す場合でも、0%の目標は維持する可能性が高い。また、上下±0.25%程度のレンジも変えないのではないか。仮に利回りが0.3%まで上昇しても、それは「程度」の範囲内と説明できる。

今となってみれば、日本銀行が毎営業日指値オペを導入したことが、政策を見直すことのハードルを上げてしまった、自ら退路を断ってしまった感が強い。それがなければ、現場のオペレーションを通じて、長期国債利回り上昇の容認姿勢を市場に段階的に織り込ませることも可能だったはずだ。

そこで、政策修正を行うためには、決定会合で決めた「10年物国債の0.25%での毎営業日指値オペ」という枠組みを見直すことがまず起点となるだろう。毎営業日、あるいは0.25%での指値オペ、との制約を外し、より柔軟な枠組みに替えていくことが予想される。0.25%以上の水準での指値オペを実施して、0.25%というターゲットを事実上外していく一方、利回りの急激な上昇を抑える姿勢は維持する。ただし、ターゲットさえ外せば、市場の投機的な動きは収まる方向となるのではないか。

こうした調整によって日本銀行は、円安にも配慮した姿勢を示したことを暗に政府や国民にアピールし、政策批判をかわすこともできるだろう。それを今後数回の定例の決定会合、あるいは臨時会合で決めることになる可能性が考えられる。

黒田体制の下では、日本銀行が短期金利の引き上げ、いわゆるマイナス金利政策の解除に手を付ける可能性は低い。それは紛れもない正常化策となるためだ。他方、YCCの見直しは、正常化策ではなく柔軟化策との説明ができる。さらに柔軟化によって債券市場や為替市場が安定すれば、それは日本経済にもプラスであり、ひいては2%の物価目標達成を助けるとの説明も可能だ。

政策の柔軟化に現在ことさら強く抵抗しているように見える黒田総裁も、長期国債利回りの上昇を一定程度認める柔軟化措置であれば、最終的に受け入れるのではないか。

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