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国際経済フォーラムで強気姿勢を崩さなかったプーチン大統領

2022/06/20

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先進国の対ロ制裁は失敗と主張

ロシアのプーチン大統領は17日、北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、先進国による「対ロ制裁は失敗した」とし、ロシア経済は正常化している、と強気の見通しを示した。さらに、先進国が「プーチン・インフレ」などとロシアの責任として批判する世界的な食料やエネルギーなどの価格上昇、低所得国での食料危機などの問題は、大幅な金融緩和など先進国の「無責任なマクロ経済政策」の結果である、と主張した。その上でウクライナ侵攻を正当化し、軍事活動を続ける強気の姿勢をアピールした。

この国際経済フォーラムはロシア版ダボス会議とも呼ばれる年1回開かれるイベントであり、ロシアの友好国の指導者やロシアと経済協力を望む企業経営者などが集まる。過去には安倍元首相も参加した。ただし今回は、ウクライナ侵攻の影響によって海外要人の参加は大幅に減り、ビデオメッセージを寄せた中国の習近平国家主席、カザフスタンのトカエフ大統領、インドの閣僚らに限られた。

国際経済フォーラムでのプーチン大統領の講演は、サイバー攻撃の影響で1時間程度予定から遅れて行われた。プーチン大統領は先進国による対ロ制裁を「狂気であり、無分別だ」と批判、「ロシア経済を砕こうとする目的は成功しなかった」と主張した。

ロシアの物価安定は経済安定の反映ではない

実際のロシア経済は、海外企業の事業停止・撤退、海外からの資金調達の制限、戦費拡大による財政悪化の影響が、民間経済活動を強く抑制し、ロシア経済は先細りの状況と考えられる(コラム「ウクライナ侵攻と制裁のもとでロシア経済はさらに悪化していく」、2022年6月16日)。しかし、プーチン大統領はロシア経済について、楽観的な見方を崩さなかったのである。

プーチン大統領は、ロシアの物価が足元では安定していることを強調した。週次で公表される消費者物価は、一時はルーブル安の影響で前週比2%程度の急上昇を示していたが、足元では横ばいないしはわずかに低下している。世界で物価高が進む中、ロシアでは足元で物価が上昇していないのは奇妙だが、これは海外からの輸入品が大幅に減少していることや、価格統計の影響を反映したものであり、経済の安定を裏付けるものではないだろう。

他方、ロシアとは対照的に、欧米諸国が物価上昇で苦しんでいることについて、「自分の手で自国の経済に深刻な打撃を与えている」とし、それは金融緩和による「無責任なマクロ経済政策」の結果であり、ウクライナ侵攻とは「関係ない」とプーチン大統領は主張した。さらにロシアは世界への食糧供給を拡大できると主張したのである。

ウクライナ侵攻を改めて正当化し戦争継続の意思を示す

ウクライナ侵攻については、2014年のクリミア併合以降にウクライナを軍事支援してきた欧米の脅威が背景にあることを強調したうえで、ウクライナ侵攻を「自国を守る権利を持つ主権国家の国連憲章に基づく決定だ」と正当化し、「すべての任務は間違いなく達成されるだろう」と述べた。またプーチン大統領は、ウクライナが「一線」を超えた場合には、同国の「意思決定中枢」を攻撃する可能性もあると述べた。これはウクライナのゼレンスキー大統領らの殺害を示唆しているとみられ、米欧側にウクライナへの兵器供与を停止するよう警告する狙いがあるとみられる。

また、「ロシアは核兵器で誰も脅していないが、主権を守るためにロシアが何を持ち、何を使用するかを誰もが知るべきだ」とも述べ、核使用の可能性をちらつかせた。

対ロ制裁による経済の苦境が、ロシアにウクライナ侵攻をやめさせる力になる、との先進国側の期待を打ち砕き、プーチン大統領はロシア経済の強さと戦争継続の意思を示したのである。

ロシア経済の成長には中国との接近が必要か

中国の習国家主席はビデオメッセージの中で、「一方的な制裁、極限までの圧力行使は排除すべきだ」と欧米を批判した。さらに、「ロシアも含めた世界各国とともに成長の機会を享受したい」とロシア寄りの発言をしている。ロシア大統領府は、習国家主席が15日にプーチン大統領と行った電話会談の中で、ロシアの行動の「正当性」を確認した、とも説明していた。

プーチン大統領は、「冷戦の勝者と宣言した米国は、地上への神の使いと公言している」、「欧米の一部の国のエリートは、世界の政治と経済の欧米支配が永遠に変わらないと考えているが、永遠のものはない」として先進国への反発を露わにした。これは中国の認識とも一致しており、両国が将来的により接近していく可能性は十分に考えられるところだ。

ただし現状では、中国は制裁反対の姿勢ではロシアに同調しつつも、ウクライナ侵攻自体に対する評価を明確にしないなど、一定の距離感は維持したままだ。現状でのロシアへ接近は、米国など先進国のみならず、広く国際世論の批判を浴びることになるためだ。

プーチン大統領は、軍事同盟ではない欧州連合(EU)へのウクライナ加盟を容認する姿勢を見せる一方で、それはウクライナの「半植民地化」を意味するとした。プーチン大統領は強気姿勢を維持するが、海外からの資金調達、支援が得られない中で戦争を続ければ、ロシア経済は一段と悪化していくことになる。海外企業のロシア国内での事業停止・撤退の痛手も今後本格的に出てくる。 そうしたなか、ロシアは中国に一段と接近し、経済面では中国の「半植民地化」することを受け入れないと、この先、経済の発展は望めなくなるのではないか。

(参考資料)
「<ウクライナ侵攻>プーチン氏、ウクライナのEU加盟容認 「西側の半植民地に」」、2022年6月18日、毎日新聞速報ニュース
「プーチン氏、ウクライナ「中枢」への攻撃示唆 EU加盟「反対せず」」、2022年6月18日、産経新聞速報ニュース
「米欧の対ロシア制裁、プーチン氏「狂気であり無分別だ」…サイバー攻撃で会合1時間超遅れか」、2022年6月18日、読売新聞速報ニュース
「プーチン氏「制裁は失敗した」 食糧高騰「欧米のせい」」、2022年6月18日、日本経済新聞電子版
「食糧高騰「欧米の失敗」 プーチン氏、演説で批判 習近平氏ら、ビデオで参加」、2022年6月18日、朝日新聞

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