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ロシアとウクライナは世界で武器の争奪戦

2022/06/21

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ロシアはウクライナの武器購入を妨害か

ウクライナのゼレンスキー大統領は16日に、欧米から支援される武器が多いほど、より早くロシアから領土を奪還できると述べ、改めて一層の武器供与を欧米諸国に求めた。そうした中、バイデン米政権は15日に、ウクライナに対して追加で10億ドル(約1,300億円)相当の武器を供与すると決めた。その中に、ウクライナが求めていた地上配備型対艦ミサイルシステム「ハープーン」2基を盛り込んだ。ウクライナから海外への穀物輸出を阻み、世界の食糧危機を作り出しているロシア軍による黒海封鎖を打破し、穀物輸送の航路を確保する狙いがある。

ところで、ウクライナは欧米に武器供与を求める一方で、世界の武器市場で武器を自らも調達している。そこでは、ロシアと熾烈な武器の奪い合いが起きていると、ウォールストリート・ジャーナル紙は報じている。

同紙によると、現在ウクライナ政府は防空システム、装甲車、砲弾、その他の弾薬などを、第3国から手に入れようとしている。ウクライナ東部でロシアに対する劣勢を挽回するためである。ウクライナが入手しようとしているそうした兵器の多くは、ウクライナ軍で長らく利用されてきた旧ソ連製やロシア製の装備だ。そうでなければ、ウクライナの兵士が兵器を十分に使いこなすことができないからだ。

ロシアは米国に次いで世界第2位の武器輸出国である。旧ソ連製あるいはロシア製兵器は、ロシアが直接海外の国に売却しているが、米国やその他の西側諸国で登記しているブローカーによって売買されることも多いという。海外に旧ソ連製あるいはロシア製兵器が多く存在しているため、ウクライナは海外からそれを調達し、国内でロシアとの戦闘に利用している。

ところが、世界の市場でウクライナが旧ソ連製やロシア製の兵器を購入しようとすると、ロシアがより高い価格で買い取るなどして、それを妨害する動きが広がっているという。両国間の激しい戦いは、武器を巡ってウクライナの外でも起こっているのである。

また、ロシア政府は、ロシア製システムを利用している国に対して、将来ロシア製システム向けの部品やサービスを提供しない可能性をちらつかせつつ、ウクライナに兵器を売却しないように働きかけている。また、ウクライナ政府向けの武器供給を停止するようブローカーに求めているとみられる。

世界の武器市場はひっ迫の度合いを強めていくか

こうした状況を受けて、ウクライナを支援する先進国では、ウクライナが海外で武器を調達することを助けることを模索する動きも出てきた。ベン・ウォレス英国防相は、米英両国がロシア製の兵器やその他の装備の在庫を保有する23か国を調査し、それらを購入してウクライナに渡すことができないか探っていると述べている。

このように、ウクライナ国外で旧ソ連製ロシア製兵器を巡るウクライナとロシアの争奪戦には、欧米諸国も関与し始めており、より熾烈な争いとなっている。欧米諸国では、ウクライナに対する手持ちの旧ソ連製やロシア製の兵器の供与が進む中で、それが不足するようになっている可能性が考えられる。あるいは、ウクライナにそれらを供与することで、自国の防衛力が低下することを警戒する国も増えている可能性があり、そうした国は海外からの武器調達を増加させるだろう。

こうして、ウクライナ紛争が続く中、世界の武器市場はひっ迫の度合いを強めていくだろう。死の商人とも呼ばれる世界の武器のブローカーのビジネスには、強い追い風となってきたのである。

(参考資料)
"In Ukraine War, Global Arms Market Emerges as a New Front(世界の兵器市場、ウクライナ戦争の新たな前線に)"、Wall Street Journal, June 17,2022
「米、ウクライナに対艦ミサイル供与 穀物高抑制へ輸送支援 黒海封鎖打破狙う」、2022年6月17日、日本経済新聞

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