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政府の追加物価高対策の評価と節電ポイント支援策の課題

2022/06/21

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物価高への国民の不満の高まりを受け追加策を検討

ロシアのウクライナ侵攻の影響などによる物価高騰への対策を話し合う「物価・賃金・生活総合対策本部」の21日の初会合で、岸田首相は4月に発表した事業規模13.2兆円に盛り込まれた物価高対策を着実かつ迅速に進めていく考えを示した。そのうえで、節電ポイント制度の支援を通じた家計の電力費負担軽減や飼・肥料費高騰に苦しむ農業への支援制度を新たに導入する考えを発表した。

足元の各種世論調査では、岸田政権への支持率の下振れ傾向が目立つ。物価高そして政府の物価高対策への国民の不満が強く反映されていると考えることができるだろう。そこで、参院選を前にして、追加的な物価高対策を政府は検討し始めた側面があると考えられる。米国をはじめ、世界各地でも物価高に対する不満が政府の支持率低下をもたらしている。他国と異なり、金融政策を通じた物価抑制が期待できない日本では、その分、政府の積極対応がより求められているのが現状だろう。

4月の経済対策では、物価高対策として元売り業者によるガソリン補助金制度の拡充策が導入された。ただし、この制度の対象となるガソリン、灯油の購入額は、家計のエネルギー関連消費全体の3分の1に満たない。電気・ガスの購入費の方が格段に大きいのである。その結果、既存の補助金制度では、エネルギー価格上昇による家計の負担増の一部しか対応していない、との批判も出ていた。

節電ポイント制度支援は脱炭素政策との整合性に配慮を

こうした批判に応えて、政府は電力費負担軽減措置を新たに検討し始めたと考えられる。スマートフォンのアプリやスマートメーターなどを活用し、需給が逼迫した時に節電した契約者に電力小売りが付与する電力各社のポイントに、政府が上乗せする案などが想定される。

これは、電力料金上昇による家計、企業の負担軽減を狙うとともに、節電を促すことで、夏と冬に懸念される電力需給逼迫の回避につなげる狙いもある、いわば「一石二鳥」の政策である。

ただし同制度については、追加的な節電の余地について利用者の間で差がある、あるいはスマホなどを使って節電ポイント制度を利用できない人が高齢者を中心に出てくる、などといった不公平感の問題を生じさせよう。

また、脱炭素政策との整合性にも留意する必要がある。節電による不要な電力消費の削減は、脱炭素政策の観点からも望ましいが、他方で脱炭素政策のもとでは、化石燃料の利用を減らして電力の利用拡大を個人に促している側面がある。それはガスに替わって電気を利用する調理、灯油ストーブでなく電気暖房器具の利用、またガソリン車に代わる電気自動車の利用などである。

仮に個人が、節電ポイントを得るために、冬場に電気ストーブの代わりに灯油ストーブを使う、電気自動車の利用の代わりにガソリン車を利用するようになれば、節電効果は高まる一方で、脱炭素政策には逆行してしまう。

政府は、節電ポイント制度の狙いを丁寧に国民に説明し、脱炭素政策との整合性に十分配慮することが求められるだろう。

追加対策の景気浮揚効果は最大で2.2兆円、GDP0.4%程度か

追加的な物価対策の財源としては、今年度予算の一般予備費5.5兆円を活用することが予想される。一般予備費5.5兆円の全額がこれに充てられ、半分が家計への支援、半分が企業への支援に用いられる場合を想定しよう。さらに家計の消費の弾性値を0.5、企業の投資の弾性値を0.3と仮定すると、追加的な物価対策の景気浮揚効果は2.2兆円となり、1年間のGDPの0.4%となる。これは追加策の経済効果の最大値、と考えることができる。

円安にも助長された物価高騰という経済の逆風に対して、そのごく一部を緩和する効果が期待できるのみである。

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