米国景気後退見通しが強まる:FRBは景気を犠牲にして物価安定の回復を目指すか?
米国景気後退の確率予想は44%まで上昇
米ウォールストリート・ジャーナル紙の最新の調査によると、エコノミストらは向こう1年の間に米国が景気後退に陥る確率を44%にまで引き上げた。これは、通常であれば景気後退入り直前、あるいは景気後退期間中の調査で得られる数値である。1月の調査ではその確率は18%、4月調査では28%だった。
同紙は2005年の半ばからこの調査を継続的に実施しているが、景気後退が始まった2007年12月と2020年2月に、その確率はそれぞれ38%、26%だった。それよりも現時点での景気後退の確率予想は高いのである。
景気後退の確率予想が急速に引き上げられた背景には、予想以上に長期化する物価高騰と米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げ見通しがある。エコノミストは、現時点で景気後退の明確な兆候を見出している、というよりも、歴史的な物価高騰と歴史的なペースでの金融引き締めが、米国の成長に急ブレーキをかけると予想しているように見える。
「二兎追う者は一兎も得ず」を避けるため景気を犠牲にして物価安定を優先するか
今年年末時点での政策金利(FF金利)の予測の平均値は3.3%である。現時点の1.5%~1.75%からさらに1.5%~1.75%までの利上げが予想されているのである。これは、年内4回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.5%幅の利上げがまだ2回から3回実施されるという見通し、と考えられる。
急速な利上げによって物価の高騰を抑え込む一方、景気はそれほど悪化させず、減速しても失速はさせない「グロースリセッション」をFRBは目指している、と広く考えられている。これは物価の安定と景気の安定の双方を求める「二兎追う」政策である。
しかしそれはナローパスであり、中途半端な金融引き締めによって物価高騰が長期化し、それがいずれ経済を著しく悪化させる形となり、結局、「二兎追う者は一兎も得ず」に陥りやすい。そこで、「二兎追う」ことをあきらめるとすれば、FRBは、景気を犠牲にしても物価安定確保を優先するのではないか。
現状では、物価安定の回復に向けてバイデン政権とFRBの政策姿勢の方向性は一致している。しかし、今後米国景気の減速が顕著になれば、11月の中間選挙を前に、景気を優先するバイデン政権と物価安定を優先するFRBとの間に軋轢が生じ、FRBの政策が政治介入を受ける可能性も出てきかねない。
世界的な物価高騰も景気を犠牲にしなければ収まらないか
足元の米景気には、既に変調が見られる。今年1-3月期の米国の実質GDPは前期比年率1.5%のマイナス成長となった。これは輸入急増による一時的な現象と考えられていたが、4-6月期の成長率見通しについても、急速な下方修正が予測機関の間で進んでいる。アトランタ連銀のGDPNow trackerによれば、4-6月期の実質GDP成長率は横ばいである。
急激な物価高と長期金利の大幅上昇の影響で、米国経済は既に景気後退期に入った可能性もゼロではない。そうでないとしても、既に米国景気の減速の兆候が広がっているとすれば、44%という景気後退確率の予想もおかしなものではない。
世界的なエネルギー価格、食料品価格の高騰を、供給拡大を通じて抑え込むことは、短期的には難しい。結局は、FRBが景気を犠牲にしても物価安定を回復する姿勢を続ける中、米国景気、世界景気が顕著に減速し、需要の後退が価格高騰に歯止めをかける姿となりやすいのではないか。言い方を変えれば、歴史的な物価高騰は、景気を犠牲にしない限り、短期的には抑え込むことは難しいのではないか。
WTI原油先物価格が2008年に1バレル140ドルまで急騰した後、リーマンショックによる金融・経済の悪化を受けて急落に転じたという経緯と似たような道を先行き辿る可能性が出てきた。
(参考資料)
"Recession Probability Soars as Inflation Worsens", Wall Street Journal, June 20, 2022
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