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参院選公示:場当たり的な物価高対策よりも賃上げ環境を整える成長戦略強化と金融政策の正常化を

2022/06/22

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物価高への対応は成長戦略強化と金融政策修正で

本日6月22日に参院選が公示される。これに先立ち、21日には与野党9党首による党首討論が行われた。前回衆院選ではコロナ対策が最大の争点となったが、今回はウクライナ問題によって一段と高まった物価高対策が最大の争点となる。党首討論では、各党の党首が相手を指名して質問したが、全18問のうち半分の9問が物価高と経済に集中した。

各党ともに独自の物価高対策を打ち出したが、財源確保を欠いた「バラマキ的」な色彩が強い。新規国債発行の増加を伴う物価高対策は、結局、国民負担を高めることになり、根本的な問題解決とはならない。

対処療法的、場当たり的な物価高対策ではなく、賃上げ期待を高めることと、個人の中長期のインフレ期待上昇を回避することを通じて、物価高に対する日本経済の耐性を高める腰を据えた取り組みが重要だ。具体的には、生産性向上、潜在成長率向上につながる成長戦略、特に出生率上昇など人に関わる成長戦略の強化が求められる。さらに、政府の政策ではないが、日本銀行が金融政策の正常化あるいは修正を行うことで、物価安定へのコミットメントを示すことや、日本銀行が物価高につながる円安を今後も放置するとの人々の懸念を打ち消すことが重要な物価高対策となる。

財政健全化を議論すべき

物価高対策では、各党ともに財源確保を伴わない「バラマキ的」な色彩が強い政策を打ち出した。自民党は、4月に決めた事業規模13.2兆円の経済対策で、ガソリン補助金、生活困窮者向け給付金、食料価格安定策などを打ち出している。さらに、節電ポイント制度支援、飼料・肥料の価格安定を通じた農業支援などの追加策を岸田首相は新たに打ち出した。これらによる追加的な景気刺激効果は、最大でもGDPの+0.4%程度に限られると考えられる(コラム「政府の追加物価高対策の評価と節電ポイント支援策の課題」、2022年6月21日)。

他方、野党からは消費支援策として消費税率の時限的引き下げや廃止の提案が相次いだ。一時的な性格が強い物価高に対して、税収基盤を中長期的に大きく損ねてしまう消費税減税や廃止で対応するのは適切ではない。それは、将来の国民負担への配慮を欠く無責任な姿勢と言えるのではないか。与党は消費税率の引き下げを否定しており、評価できる。

ただし、党首討論では財政健全化が真正面から議論されることはなかった。財政環境の悪化を放置すれば、将来にわたって国民負担は高まり、それが将来の消費増加期待を損ねる形で企業の設備投資、雇用、賃上げの姿勢を一段と慎重にさせてしまう。その結果、物価高に対する消費者の耐性も低下させてしまうのである。

日本経済の潜在力低下を一段と加速させかねない財政環境の野放図な悪化を食い止め、中長期の視点から財政健全化を進める議論を、選挙戦を通じて各党には大いに期待したい。

日本銀行は政策修正を通じて物価安定へのコミットメントを示すべき

日本経済の潜在力が低迷を続ける中、先行き賃金が上昇するとの期待は高まらない状況である。こうした中、エネルギー価格、食料品価格の高騰による足元の物価高が長引くとの見方が強まれば、個人は消費を抑制し、防衛的な行動をにわかに強めるリスクがある。現在は、そうしたリスクが顕在化しかねない重要な時期にあるのではないか。海外要因を主因にする物価高への政策的な対応には、短期的には決定打はない。こうした局面では金融政策に期待できる部分が大きいはずだ。

4月に前年比+2.1%に達した日本の消費者物価上昇率(除く生鮮食品)は、欧米と比べれば低いが、日本の基準(日本経済の実力)に照らせばかなり高く、日本経済に大きな打撃となり得る。このような局面では、金融政策は引き締め方向に転じるのが普通であろう。

日本銀行は現実味を欠く2%の物価目標の位置づけを修正したうえで、金融政策の正常化に転じるべきだ。それを通じて、物価安定へのコミットメントを示し、個人の中長期のインフレ期待の上昇を抑えることを目指すべきだ。

実際には、日本銀行が近い将来に本格的な正常化策を実施する可能性は低いが、債券、為替市場に混乱をもたらしている、長期金利コントロールを柔軟化する可能性はあるだろう(コラム「決定会合は現状維持も日銀のYCC柔軟化はいずれ避けられないか」、2022年6月17日)。0.25%の10年国債金利の上限を守る姿勢を修正し、長期金利の上昇を一定程度認めることで、債券、為替市場の投機的な動きを抑えることができる。

日本銀行はそうした政策を正常化ではなく柔軟化と説明するだろうが、硬直的な日本銀行の政策運営で急速な円安傾向が長期間続くとの個人の懸念を緩和させ、個人の中長期のインフレ期待の上昇を一定程度抑える効果が期待できるはずだ。

金融政策正常化の経済への直接的な悪影響は小さい

党首討論で自民党の岸田首相は、金融政策は現状維持が適切との考えを示した。政策金利の引き上げは、中小企業に打撃となる点を指摘した。他方、立憲民主党の泉代表は、円安修正のために日本銀行は政策金利を引き上げるべき、との考えを示した。

仮に、日本銀行が政策を修正して短期、長期金利を引き上げるとしても、景気、物価に与える直接的な悪影響は限られるはずだ。短期金利を引き上げるとしても、米国のような急速な引き上げは考えられず、現状の-0.1%と0%あるいは+0.1%などに引き上げるにとどまるだろう。正常化策が急速な円高につながる場合には、株価下落も伴い短期的には景気に逆風になり得るが、そうしたマイナス面よりも、為替の安定、中長期のインフレ期待の安定を通じた経済へのプラス効果が勝るだろう。

成長戦略強化で物価高の逆風を日本経済の潜在力向上につなげる

既に述べたように、政府は場当たり的な物価高対策に注力すべきではない。野党も主張している生活困窮者への給付金支給も繰り返すべきではない。それは一時的な効果しかもたず、いたずらに財政環境を悪化させるものだ。生活困窮者への対応は、一時的な給付金の支給ではなく、必要に応じて常設のセーフティーネット制度の見直しを通じて行うべきだ。

政府には、成長戦略を一段と推進することで、経済の潜在力を高め、賃金が上昇する環境を整える政策に注力して欲しい。骨太の方針で示された「人への投資」など4つの重点投資にさらに肉付けをすることが喫緊の課題だ。また、出生率の上昇、外国人労働力の活用拡大、インバウンド戦略の再構築など「人」に関わる成長戦略を強化して、デジタル田園都市国家構想、東京一極集中是正、地域経済活性化などの政策と組み合わせることで、日本経済の潜在力向上を図ってほしい。

政府が信頼性の高い成長戦略を打ち出すことができれば、企業の成長期待、個人の賃金上昇期待が高まり、それが物価高に対する経済の耐性を高めるとともに、企業の設備投資拡大などを通じて、日本経済の潜在力向上を比較的早期に実現することを助けるだろう。

新型コロナウイルス問題にウクライナ問題が重なり、日本経済の逆風が強まっている。政府には、成長戦略を強化することで、こうした逆風を日本経済の潜在力向上につなげていく姿勢が求められる。

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