フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 夏のボーナス大幅増加も個人消費への影響は限られる

夏のボーナス大幅増加も個人消費への影響は限られる

2022/06/23

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

春闘で基本給の大幅引き上げができなかったことの代替措置か

大手企業の今夏のボーナスは、予想外の大幅増加となる見通しだ。経団連が21日に発表した夏のボーナスの妥結額(第1回集計)によると、回答した105社の平均支給額は92万9,259円と、昨年夏比で13.81%の大幅増となった。増加自体が4年ぶりのことであるが、その増加率は現行の集計方法になった1981年以降で最高だった。ボーナスの増加が、物価高の逆風に晒される個人消費を活性化することも期待されている。

夏のボーナスが予想外に大幅増加の見通しとなった背景には、新型コロナウイルス問題による先行きの強い不確実性の高まりを受けて、過去2年間、企業がボーナスの支払いを抑えてきたことの反動があるものと考えられる。

また、政府が春闘での賃上げを企業に強く求めたものの、企業は中長期の人件費増加、収益環境の悪化につながりかねない基本給(ベア)の大幅引き上げに慎重な姿勢を崩すことは難しかった。いわばその代替措置としてボーナスを大きく引き上げた、といった側面もあったのではないか。

中小・零細企業も含めればボーナスの増加率はもっと低い

しかし、これはあくまでも大手企業のボーナスのことであり、日本の企業、労働者全体の中ではごく一部の話であることに留意が必要だ。昨年夏のボーナスの平均水準は、労働省が公表している毎月勤労統計によると、事業所規模5人以上で30.2万円である。ところが経団連が公表している大手企業では、昨年夏のボーナスの平均水準は81.7万円と両者の間に大きな開きがある。

収益環境が良好な大手企業では、今夏のボーナスは大きく増える見通しだが、中小・零細企業も含めた企業全体では、増加率はもっと低くなる可能性が高い。

基本給(ベア)年間0.5%増加と同程度の経済効果か

また、毎月勤労統計ベースで見ると、夏のボーナスの支給額は、年間の現金給与総額全体の7.8%しかない。今夏のボーナスが仮に大手企業と同様に13.81%増加しても、年間給与総額は1.08%しか増加しない。

それでも、基本給(ベア)が0%台半ば程度しか増加していないとみられる中では、夏のボーナスが年間給与をそれなりに押し上げる、と考えることもできるだろう。しかし、基本給の増加とボーナス(一時金)の増加とでは、同額であっても個人消費に与える影響は異なるのである。一般に、一時金は貯蓄に回る比率が高くなる。

かつての定額給付金制度の場合には、支給額の25%が消費に回った、と内閣府は試算している。他方、基本給が増加する場合には、増加分の半分程度が消費増加に回ると考えられる。この点から、夏のボーナスが13.81%増加することは、基本給(ベア)が0.5%程度増加することと同じ景気浮揚効果になる、と考えることができる。

個人消費4,700億円、年間GDPを0.09%押し上げる

さらに、13.81%増加はあくまでも、ごく一部の大手企業の数値である。中小・零細企業も含める企業全体では、その半分の増加率にとどまると仮定する場合には、その景気浮揚効果は、年間の基本給のわずかに0.3%の増加に相当するに過ぎない計算となる。

このように、夏のボーナスが、中小・零細企業も含めたベースでは、大手企業の13.81%の半分のペースで増加すると仮定した場合、年間給与総額は0.54%増加する。これは、個人消費を0.16%程度増加させる(消費の所得全体の弾性値を0.3程度と想定)。これは個人消費を4,700億円、年間GDPを0.09%押し上げる計算となる。

夏のボーナスの増加は、7-9月期を中心に個人消費をやや上振れさせる可能性はあるものの、年間を通してみればその影響は限られる。2%を超える消費者物価上昇率という逆風を撥ねつけて、個人消費を増加させていくには力不足である。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn