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外貨建てロシア国債はいよいよクロス・デフォルトに

2022/06/27

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ロシアは大統領令でルーブルでの利払いを正当化

6月23日及び24日に、ドル建てロシア国債が利払い期限を迎えた。その規模は、23日は約2億3,500万ドル、24日は約1億5,900万ドルである。ロシア政府はこれらをルーブル建てで支払い、「支払い義務は果たされた」と主張している。しかし、いずれも支払い猶予期間後にデリバティブ(金融派生商品)市場を監督する業界団体、EMEA(欧州・中東・アフリカ)クレジット・デリバティブ決定委員会(CDDC)によってデフォルト(債務不履行)と認定される可能性が高いだろう。猶予期間はそれぞれ30日、15日だ。

米財務省は、米国の銀行が米国の投資家に対してロシア国債の償還・利払いの業務を行うことを認める特例措置を5月25日に失効させた。そのため、ロシア政府は、米国の投資家に対して、ドル建てロシア国債の利払いをドルで行うことができなくなったのである。

その後5月27日にロシア政府はドル建て債で7,125万ドル、ユーロ建て債で2,650万ユーロの利払い期限を迎えた。ロシア財務省は同国の連邦証券保管振替機関(NSD)に外貨資金を移管したとしているが、この米財務省の特例措置失効によりこれより先の手続きは進まなかったと見られ、30日の猶予期間が終了する6月末頃にデフォルトと認定されると考えられる。

今回の6月23、24日の利払い期限では、ロシア政府はルーブルでの支払いを行った。前日の22日にロシア大統領府は、国債のデフォルト回避策として、「外貨建てロシア国債の債務は外貨建て債務の価値と同等額のルーブルで履行された場合、適切に履行されたと見なされる」とする大統領令を成立させ、プーチン大統領が署名した。法令によると、為替レートは支払い日におけるロシア国内の為替市場のレートに基づいて算出されるという。

ただし、この大統領令はロシア国外では有効なものではない。もともと契約に定められていないルーブルの支払いによって、債務返済が履行されたとは認められない。

6月1日にクレジット・デリバティブ決定委員会はデフォルト認定

一方、クレジット・デリバティブ決定委員会は既に6月1日に、期限を迎えた外貨建てロシア国債の利子約190万ドルが、猶予期間内に支払われなかったことがクレジットイベント(信用事由)に該当し、ロシア国債はデフォルトに相当すると認定していた(コラム「ロシア国債がデフォルト認定:金融市場への影響は限定的もロシア経済には大きな打撃に」、2022年6月2日)。

対象となったのは4月4日に支払い期限を迎えたドル建て国債の利払いである。当初ロシア政府はルーブルでの支払いを行ったが、30日間の猶予期間が切れる前の4月末に、国内で保有するドル準備で利払いを行い、デフォルトをなんとか免れていたと考えられていた。

ところがこの際に、約190万ドルの利払いが履行されなかったとして、投資家が、クレジットイベントに該当するかどうかの判断を委員会に要請していたのである。

7月上旬にもクロス・デフォルトの認定か

この際、ロシア政府の190万ドル分の不払いが、クレジットイベント(信用事由)、デフォルトに相当すると判断されたものの、外貨建てロシア国債すべてをデフォルトとみなす「クロス・デフォルト」とはならなかった。ロシアの外貨建て債務は、7,500万ドル以上の不払いがあった場合にのみクロス・デフォルトと判断されるためである。

5月27日に期限を迎えたドル建て債7,125万ドルがデフォルトと認定されれば、合計の不払い額は7,315万ドルに達するが、それでもクロス・デフォルトとみなされる基準の7,500万ドルにはわずかに足りない。

そこで、6月23日、24日に期限を迎えた、ロシア政府がルーブルで支払ったドル建て国債利払いのそれぞれ約2億3,500万ドル、約1億5,900万ドルについて、30日間、15日間の猶予期間が過ぎてた後、クレジット・デリバティブ決定委員会が早ければ7月上旬にもデフォルトと認定すれば、外貨建てロシア国債すべてをデフォルトとみなすクロス・デフォルトが適用されるのである。

世界の金融市場の影響は限られるがロシア経済には打撃

ただし、クロス・デフォルトが適用されてもロシアの外貨建て国債の規模は小さく、投資家側の対応も進んでいることから、金融市場に与える影響は限られるだろう。

また、クレジット・デリバティブ決定委員会がクレジットイベントに該当するとの判断を示したことで、ドル建てロシア国債のデフォルト時にその元本を国債保有者に保証する保険商品(プロテクション)であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)約22億ドル(約2,860億円)すべてが発動されることになる。そうなれば、CDSを投資家に販売した投資会社に負担が生じるのである。ただしこれも規模が限られることから、支払いは円滑になされ、金融市場に大きな混乱をもたらすことはないだろう。

ただし、既にロシア政府に対する海外投資家の信用は失墜しており、海外でドル建て国債を発行できる道は閉ざされているデフォルト認定は、そのダメ押しとなる。海外資金を調達できないことは、ロシア経済は国内の資金のみで賄われることを意味する。他方、戦争によりロシアの財政は急速に悪化していくとみられることから、財政支出に国内資金が吸い取られる形で、消費や設備投資といった民間経済活動は著しく打撃を受けることが避けられないのではないか(コラム「ウクライナ侵攻と制裁のもとでロシア経済はさらに悪化していく」、2022年6月16日)。

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