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問われる世界のリーダーによるG7サミットの意義:グローバル・インフラ投資パートナーシップ発足へ

2022/06/27

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改めて意義が問われるG7サミット

G7サミット(主要7か国首脳会談)が、6月26日にドイツ南部エルマウで開幕した。世界経済が抱える喫緊の課題は、エネルギー価格高騰、食料価格高騰と新興国での食料危機への対応である。いずれもウクライナ問題と対ロ経済制裁が深く関わる問題だ。そして、それらへの対応は、先進国のみならず主要新興国との協調体制のもとで初めて有効となるだろう。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻、先進国による対ロ制裁を契機に、先進国と新興国との間には一気に軋轢が強まっている。そのため、G7は有効な対策を打ち出すことが難しくなっており、この点は今回のG7サミットでも改めて浮き彫りとなっているのではないか。

例えば、ウクライナ産の小麦に依存するアフリカ・中東諸国の国々は、価格高騰のみならず、戦争の影響でウクライナ産の小麦の入手が難しくなっている。そうしたもとで、多くの国が輸出制限を実施していることが、食料危機をより深刻化させているのである。

国際食料政策研究所(ワシントン)によると、ウクライナ侵攻以降、新興国を中心に合計26か国が食料や肥料に対して全面的な禁止措置のほか、税制措置や特別認可制度などの輸出制限を導入している(コラム「ウクライナ問題は空前の食料危機と貧困・飢餓問題に発展」、2022年6月17日)。しかしこうした問題への対応は、先進国の集まりである今回のG7サミットでは、議論の中心とはなっていない。

また、以下に見るように、G7サミットではバイデン米大統領が途上国へのインフラ整備支援を打ち出したが、これは、中国の「一帯一路戦略」に対抗するものだ。世界経済が抱える課題に対応するというよりも、先進国の利害に強く関わる政策だ。

世界のリーダー達が、国を超えて世界全体が抱える諸問題への対応を推進する、という本来のG7の意義は後退してしまっているのではないか。

対ロシア追加制裁措置を発動へ

G7サミットでは、対ロ追加制裁が議論されている。ブルームバーグによると、(1)ロシア向けの信託や会計、監査などのサービス提供の禁止、(2)ロシアの約70の個人・団体の資産凍結を追加、(3)軍事関連団体への輸出禁止の拡大、などが議論されているという。

さらに、ロシア産石油の取引価格に上限を設ける案も浮上しているという。先進国はロシアからの原油輸入の禁止・制限措置を決めているが、その結果、原油の供給制限から原油価格が上昇し、その結果、ロシアの原油輸出収入に大きな打撃となっていない、との問題がある。

フィンランドに拠点を置く独立系の「エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)」がまとめた報告書では、ロシアの戦費は1日あたり約8億7,600万ドルと見積もられている。一方、CREAは、ロシアはウクライナにおける紛争が始まった2月24日から6月3日までの100日間に、化石燃料の輸出で970億ドルの収入があったとしている。1日に換算すれば9億7,000万ドル程度である。つまり、ウクライナ侵攻から100日間で見れば、ロシアの戦費は化石燃料の輸出による収入で賄われたことになる。

ただし、ロシア産石油の取引価格に上限を設けることは容易ではない。米ブルームバーグによると、取引価格を一定水準以下に抑えることを、石油タンカーでの船舶保険の利用条件とする案が浮上しているという。しかし、そうした枠組みが本当に有効に働くかどうかは疑問だ。 実際には、ロシア産原油の輸出を抑制することに一定程度働く一方、一段の価格高騰を招くことにはならないか。

「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」は中国の「一帯一路」に対抗できるか

バイデン米大統領はG7サミットで、途上国へのインフラ整備を支援する新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」の発足を表明した。同氏は2021年6月のG7サミットでインフラ支援の枠組みの導入を提唱していたが、その具体策を示した形だ。

これは、G7が連携して2027年までに官民合わせて6,000億ドル(約81兆円)という巨額の拠出を目指すものだ。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するのが狙いである。

PGIIの重点分野は、気候変動▽デジタル技術▽ジェンダー平等▽健康・医療――の4つとされる。米国だけで今後5年間で2,000億ドルの投資を想定しており、日本も今後5年間で民間資金も含め650億ドル(約8兆7,800億円)以上を投資すると岸田首相が表明した。

岸田首相が表明した金額は巨額であるが、実際には大半は民間資金を活用するものだろう。民間がそれに応じるかどうかはわからない。

また、先進国による新興国のインフラ投資は、人権、環境などの観点から基準が厳しく、低所得国がその枠組みを利用できないことも少なくないだろう。そうした問題への対応も合わせて進めないと、中国の「一帯一路」に競り勝っていくことは簡単ではないかもしれない。

(参考資料)
”G-7 Latest: Leaders to Commit to Indefinite Support for Ukraine、G-7 Latest: Leaders Address Soaring Inflation", Bloomberg, June 27, 2022
"US Resuscitates Bid at G-7 to Counter China’s Belt and Road", Bloomberg, June 27, 2022
「G7、ロシア産石油に価格上限案 戦費調達の抑制狙う」、2022年6月27日、日本経済新聞電子版
「G7、途上国へのインフラ支援の新枠組み発表 「一帯一路」に対抗」、2022年6月27日、毎日新聞速報ニュース

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