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強まる物価高が国内景気の逆風に(日銀短観・6月調査):物価高対策の再検証を

2022/07/01

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物価高の逆風などから企業景況感は事前予想を下回る

7月1日(金)に日本銀行が公表した「日銀短観6月調査」は、感染リスクの緩和を受けた個人消費持ち直しという強い追い風があったにも関わらず、企業の景況感は事前予想を下回る結果となった。円安にも促された物価高懸念の高まり、中国の「ゼロコロナ政策」が逆風となったのである。日本経済の物価高に対する耐性の弱さを浮き彫りにした調査になった、とも言えるのではないか(コラム、「日銀短観6月調査から日本経済の物価高への耐性を読み解く」、2022年6月29日)。

大企業製造業の景況の現状判断DIは「9」と前回の「14」を下回った。また、事前予想の「13」程度を下回った。大幅な下落が目立ったのは、繊維、木材・木製品、非鉄貴金属などの素材業種だ。原材料価格上昇が続く中、価格転嫁が進まずに収益が悪化していることを反映している可能性があるだろう。また、汎用機械、生産用機械の景況悪化は、「ゼロコロナ政策」による中国向け輸出の悪化を反映しているのではないか。

他方、大企業非製造業の現状判断DIは「13」と前回の「9」から上昇した。ただし、事前予想の6~7ポイントの改善幅を下回った。対個人サービスや宿泊・飲食サービスのDIが大きく上昇したことは、感染リスクの低下を映した個人消費活動の持ち直しを反映しており、予想通りである。

しかし、全体的に改善幅が事前予想を下回った背景には、足元及び先行きの物価高を警戒した、個人消費の抑制傾向があったのではないか。先行き判断DIは「13」と現状から横ばいが予想されている。小売りの判断DIが低下している点などから、物価高がもたらす消費への悪影響が読み取れるだろう。

企業の中長期物価見通しは2%の物価目標に近づく

注目された企業の販売価格判断DI、仕入れ価格判断DIは、いずれも歴史的高水準を維持しており、価格上昇圧力が引き続き強いことを裏付けた。ただし今回の調査では、仕入れ価格判断DIの上昇幅が、販売価格判断DIの上昇幅を著しく上回り、企業の収益環境が一気に悪化の度合いを強めている、といった姿までは示されなかった。

他方やや驚きであったのは、企業の中長期の物価見通しの予想外の上振れだ。企業(全規模全産業)の5年後の物価見通しは、前回から0.3%ポイント上昇修正されて+1.9%となった。いよいよ、日本銀行の物価目標である+2%に近づいたのである。

この物価見通しのもとで、企業は先行き大幅な値上げを実施して、収益を拡大できるとの明るい見通しを強めているのか、それとも長引く物価高が個人消費の低迷をもたらし、経済がスタグフレーション的な色彩を帯びていく、との悲観的な見通しを強めているのか、その見極めが重要である。

ただし、足元の全規模全産業の景況判断はゼロ近傍の中立的な水準にとどまる中、製造業の景況感は物価高が始まった昨年来低下傾向にあることなどを踏まえれば、後者、つまり「悪い物価上昇」の解釈が妥当なのではないか。

いずれにしても、企業の中長期の物価見通しが日本銀行の物価目標である+2%に近づいた点をどのように受け止めるのか、日本銀行はその点を明確に説明することが求められる。

短観を受けた日本銀行の対応は?

日本銀行は、2%の物価目標達成が依然道半ばであることから、物価上昇率が上振れ、また、他国で金融引き締め策が進む中でも、金融緩和を維持する構えを崩していない。そのため、今回短観調査が、日本銀行の政策変更に直接つながる可能性は低いだろう。

しかし、日本銀行は、物価高と円安進行の悪影響を警戒する、個人、企業、野党等からその政策姿勢を批判されている。また、長期金利の上昇を無理に抑え込むことが債券市場、為替市場の混乱を生じさせているのである。

長期金利の上昇を抑えるため、日本銀行は6月に15兆円近くの長期国債の買い入れを余儀なくされた。円安、物価高が進む中で、日本銀行は本来あるべき姿とは逆に金融緩和を強化している、という矛盾した状況に追い込まれているのである。

物価高対策は弱者にピンポイントで

今回の短観は、物価高の問題、そしてそれに対する日本経済の耐性の問題を浮き彫りにしたと考えられるが、政府は、物価高対策の一環として中小・零細の価格転嫁を促すことを目指してきた。

しかし、価格転嫁を促すことは、消費者が購入する財・サービスの価格上昇を促すことにもつながるのである。海外要因による物価上昇は、国内所得の海外流出を意味するが、その負担分を中小・零細企業から大企業、家計に振り替えても、日本全体でみた負担の総額は変わらず、本質的な問題解決にならない。

また、政府が現在実施しているガソリン補助金制度は、企業・家計の負担増加を抑えるものであるが、その財源を国債発行で賄えば、結局のところ、国民の負担となるのである。

海外要因に由来する物価高に対しては、日本経済への打撃を解消する根本的な対策はないとも言えるだろう。そうした中、物価高によってとりわけ打撃を受ける企業、個人を見つけ出し、それらをピンポイントで支援するような施策がより重要となるのではないか。今まで何度も実施してきたような、多くの世帯を対象に配る給付金は、財政負担が大きい一方で、本当に支援が必要な個人に十分な支援が及ばないため、妥当ではない。また、必要に応じてセーフティネットの制度を見直すことも重要であり、社会保障受給の所得基準や所得税率などについて、物価連動制度を広げていくことも一案なのではないか。

政府と日銀が連携して骨太の物価高対策を

さらに政府には、場当たり的な物価対策ではなく、成長戦略を一段と推進することで、経済の潜在力を高め、賃金が上昇する環境を整える政策にも注力して欲しい。出生率の上昇、外国人労働力の活用拡大、インバウンド戦略の再構築など「人」に関わる成長戦略を強化して、デジタル田園都市国家構想、東京一極集中是正、地域経済活性化などの政策と組み合わせることで、日本経済の潜在力向上を図って欲しい。

政府が信頼性の高い成長戦略を打ち出すことができれば、企業の成長期待、個人の賃金上昇期待が高まり、それが物価高に対する経済の耐性を高めるとともに、企業の設備投資拡大などを通じて、日本経済の潜在力向上を比較的早期に実現することを助けるだろう(コラム、「参院選公示:場当たり的な物価高対策よりも賃上げ環境を整える成長戦略強化と金融政策の正常化を」、2022年6月22日)。

他方日本銀行は、金融政策を修正することを通じて、物価安定へのコミットメントを示し、個人の中長期のインフレ期待の上昇を抑えることを目指すべきだ。日本銀行は、0.25%の10年国債金利の上限を頑なに守る現在の姿勢を修正し、長期金利の上昇を一定程度認めることで、債券、為替市場の投機的な動きを抑えることができる。それは、硬直的な日本銀行の政策運営で急速な円安傾向が長期間続くとの個人の懸念を緩和させ、個人の中長期のインフレ期待の上昇を一定程度抑える効果が期待できるはずだ。そしてそれは、日本経済の安定に貢献するのである(コラム、「日銀短観6月調査から日本経済の物価高への耐性を読み解く」、2022年6月29日)。

国内経済のリスクが高まる重要局面に

国内経済情勢が微妙な情勢となる中、個人や企業に先行きの物価上昇見通しがさらに引き上げられると、個人消費、設備投資が一気に抑制され、経済に大きな打撃が及ぶ可能性があるだろう。日本経済は、そのような重要な局面に入っているのである。

そうしたなか、政府は、場当たり的な物価高対策ではなく、賃金が先行き上昇する環境を整えることで、物価高に対する経済の耐性を強める施策が求められる。そして日本銀行は、円安持続への懸念にも促されて、個人、企業の中長期の物価見通しが一段と上振れることを回避するためにも政策調整を行い、政府と連携して物価高対策に取り組むことがますます重要になっている(コラム、「日銀短観に見る物価高の深刻度と物価高対策の検証」、2022年6月30日)。

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