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世界の食料危機と中国の海外土地購入

2022/07/07

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ウクライナ問題で深刻化する食料危機

ウクライナ問題をきっかけに、世界の食料品価格は急騰し、低所得国での食料危機問題を引き起こしている。ブルームバーグによると、食料価格(卸売価格)は4月に前年比で18%上昇し、ここ50年近くで最大の上昇率となった。フランスでは、小麦価格が2020年以降2倍へと上昇している。

飢餓の危険も高まっており、国連は今年中に、世界の人口の2.9%に相当する最大3億2,300万人が深刻な食料危機に陥る、と警告している(コラム「ウクライナ問題は空前の食料危機と貧困・飢餓問題に発展」、2022年6月17日)。

先般、ドイツで開かれたG7サミット(主要7か国首脳会議)では、ウクライナ侵攻が飢餓の危機を劇的に悪化させたとして、「ロシアは重大な責任を負っている」と指摘した。

現在、ウクライナ国内には2千万トン以上の小麦が滞っているという。先進国及びウクライナは、ロシアが黒海を封鎖し、ウクライナから海外への食料輸出が大幅に減少していることが、食料危機の原因であるとしてロシアを強く非難している。他方ロシアは、ウクライナが機雷を敷設したために輸送ルートがふさがれてしまった、と反論している。

6月30日にウクライナは、ロシア軍が制圧していた黒海の重要拠点であるズメイヌイ島をミサイル攻撃した、と発表した。他方ロシア国防省は、軍部隊を島から撤退させたと表明した。このズメイヌイ島は黒海の主要港への船舶の出入りを監視できる重要拠点であり、ロシアは2月のウクライナ侵攻直後にそこを制圧していた。さらにウクライナ軍が4月にロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を沈没させた後は、ロシアはその機能を代替するために、島を軍事拠点としていたのである。

ただしこれによって、黒海を経由したウクライナの食料輸出がすぐに正常化することにはならないだろう。なお運航の安全が保障されないからである。そこで、ロシア、ウクライナ、トルコ、それに国連も加えた4者による安全航行に関する協議の開催が浮上してきている。

他方で、先進国及びウクライナは、陸路による代替輸送の増加にも努めている。バイデン米大統領はウクライナと接する欧州地域に臨時の穀物倉庫を新設することを明らかにした。陸路での輸送は手間がかかり、費用がかさむため、ウクライナ侵攻前には、ウクライナの穀物の約90%は港湾から輸出されていた。

中国の海外での土地購入に高まる警戒

ウクライナ問題と食料危機をきっかけに、中国の海外での土地購入について注目が集まっている。米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)の研究員エリザベス・ブラウ氏によると、2013年に中国共産党傘下の「新疆生産建設兵団(XPCC)」は、ウクライナで非常に肥沃な農地の9%を50年のリース契約で入手したという。この農地は、ウクライナの国土面積の5%にも相当する。

中国勢はここ数年、米国、フランス、ベトナムなどでも農地を購入している。中国は2011年から2020年までの期間、世界で700万ヘクタール近い農地を購入したのである。中国の人口は世界の21%を占めているが、国内で生産性の高い農地は7%しかない。国内での農地不足が、中国の海外での農地購入拡大の背景にあるのだ。

ただし、中国企業が海外で購入した土地を、農地として利用しているとは限らない。コンゴ民主共和国では、中国がパーム油の生産のために10万ヘクタールの土地を取得する許可を前政権から得たという。この土地の開墾は、有害な森林破壊をもたらしかねない。さらにジンバブエでは、中国が購入した土地で、自国に逆輸入するための牛肉を生産している。こうした動きが広がれば、世界の農業生産の増加を妨げ、低所得国での食料危機を促すことに将来的になっていくかもしれない。

中国の海外での土地購入は、環境や食料供給の観点から問題視されているだけでなく、安全保障の観点からも問題視されている。日本では、北海道や九州などの土地が外国人や外国法人によって買収が進んでいることへの懸念を受けて、2021年6月に「重要土地利用規制法」を成立させた。2022年度中に施行される。これは、自衛隊の基地など日本の安全保障上、重要な地域での土地利用を規制する法律だ。

一方米国では、中国、ロシア、イラン、北朝鮮企業による米国の農地取得を禁止する法案が、現在、下院歳出委員会で審議中である。2020年には共和党の上院議員らが、外国勢による農地取得について精査を義務付ける法案を提出していた。

ウクライナ問題は、中国あるいは権威主義的な国々が海外で土地を取得する動きに対して、食料問題、環境問題、そして安全保障問題など様々な観点から先進国がより警戒を強めるするきっかけとなっているのである。

(参考資料)
"Why Does China Own So Much of Ukraine? (ウクライナの広大な農地、中国の手に)", Wall Street Journal, June 30, 2022
「<社説>世界食料危機 黒海での輸送妨げるな」、2022年6月30日、東京新聞速報版
「露、黒海封鎖拠点から撤退 ウクライナ「勝利」表明 穀物輸出巡り重要局面」、2022年7月1日、中国新聞

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