ロシアの原油、天然ガス報復制裁と欧州の景気後退リスク
ロシアは報復制裁をちらつかせる
G7(主要7か国)がロシア産原油の取引価格に上限を設定することを議論する中、ロシアのプーチン大統領は、先進国の追加制裁には報復制裁で応じる構えを示している。
プーチン大統領は、ロシアに対する制裁措置は確かにロシア経済に打撃を与えるが、既に物価高騰に苦しむ先進諸国はそれ以上の打撃を被る、と8日に発言している。また、追加制裁が行われれば、世界のエネルギー市場は破壊的な結果を生む、と先進国を脅している。この発言は、G7がロシア産原油の取引価格に上限を設定するという追加制裁を行う場合、ロシアは原油輸出量を削減することで、世界の原油価格を押し上げ、先進国に打撃を与えることを検討している、との懸念を先進国で生じさせている。
ロシアは既に欧州に対して、天然ガスの輸出削減を報復制裁として実施している。6月にはロシアとドイツとを結ぶ海底パイプライン、ノルドストリーム1を通じたドイツへの天然ガスの供給を、6割削減している。そして11日には、ノルドストリーム1による欧州への天然ガスの供給が停止した。運営会社は21日までの「定期点検」としているが、実際にはロシア政府による報復制裁の可能性が高い。そのため、21日が過ぎても再開されない可能性が考えられる。
また先週には、黒海の港からロシアの友好国であるカザフスタンが原油を輸出することを30日間停止する命令を、ロシアの裁判所は出している。
欧州は厳しい冬を覚悟
国際エネルギー協会(IEA)は、今年の冬に、ロシアからの天然ガスの供給は完全に止まる事態に備えるよう、欧州に呼び掛けている。フランスのルメール経済・財務相も10日に、「ロシア産天然ガス供給の完全停止を覚悟しよう。それが現時点で最も可能性の高いシナリオだ」とした。そのうえで、欧州の景気後退リスクはエネルギー危機の行方次第、との考えを示している。
欧州連合(EU)は、運輸・通信・エネルギー担当大臣による理事会合を7月26日に開き、冬季のガス備蓄確保に向けた危機管理計画を協議する。しかし、ロシア産天然ガスのEU向け供給を完全に停止すれば、その分を他地域からの調達で完全に補うことは難しくなる。冬場にかけて、EUの経済は厳しい状況に追い込まれる可能性が高い。
浮上する欧州の景気後退見通しと目前に迫るドルユーロのパリティ
ブルームバーグが11日に公表したエコノミストへの調査(7月1日~7日)の結果によると、物価上昇率が歴史的水準にある中で、さらに天然ガスが不足することで、景気後退(リセッション)のリスクが高まっている、との見方が示された。
向こう1年間にユーロ圏経済が景気後退に陥る可能性については45%と5割に近づいた。ウクライナ問題前にはその確率は20%、6月時点の調査では30%であったことから、7月調査では景気後退の予想確率が一気に高まったことを意味している。ドイツ経済については景気後退の予想確率は55%と5割を超えた。
景気後退の見通しが強まっている背景には、物価高騰を受けて欧州中央銀行(ECB)が利上げ(政策金利引き上げ)姿勢をにわかに強めたこともある。エコノミストらは、現在-0.5%の政策金利が、年末までに0.75%、来年3月には1.25%まで引き上げられると予想している。
欧州経済の先行きに対する金融市場の悲観論を反映しているのが為替市場だ。12日には、ユーロが対ドルで20年ぶりの安値を付け、パリティ(等価)、つまり1ユーロ=1ドルに近づいた。ECBも9月に利上げに踏み切る見通しだが、米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げにはペースが追い付かない、との観測もユーロ安を後押ししている。
米国ではFRBの急速な金融引き締め策が、来年にも米国の景気後退を招くとの観測が強まっている。しかし、ロシアとの間で制裁合戦が高まると、ロシアからのエネルギー供給に依存してきた欧州の景気により大きな打撃が及び、米国に先立って欧州地域が景気後退に陥る可能性が出てきたのである。
(参考資料)
"Putin threatens energy catastrophe", Financial Times, July 9, 2022
"Euro-Zone Recession Risk Seen Rising Even as Inflation Peak Near", July 11, 2022
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