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行き詰まった日銀のイールドカーブ・コントロール

2022/07/19

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副作用軽減を図ったイールドカーブ・コントロールが新たな副作用を生む構図に

足元で生じている円安進行や国債市場の混乱は、「10年近くにわたって続けられてきた日本銀行による異例の金融政策の弊害が表面化したもの」と整理できるだろう。

2016年9月に日本銀行は、10年物国債の金利に目標値を設定し、国債買い入れを通じてイールドカーブ全体を望ましい水準に誘導するイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入した。1942年から1951年にかけて米連邦準備制度理事会(FRB)が実施して以来、世界には例のない政策だった。しかしそれは、2%の物価目標を達成するための緩和強化ではなく、異例の金融緩和がもたらす副作用の軽減を目指す「事実上の正常化策」であったと考えられる。

2016年1月に日本銀行が導入を決めたマイナス金利政策は、長期・超長期の金利の大幅低下を招き、銀行や生保・年金などの国債運用収益に大きな打撃を与えるという弊害を生んだ。他方、日本銀行による長期国債の大量買入れは、日本銀行のバランスシートを肥大化させ、将来の利上げ局面での日本銀行の財務悪化のリスクを高めた。さらに、国債の流動性を低下させ、市場機能を損ねるリスクを高めたのである。そして流動性低下が国債市場の混乱につながる可能性を高めた、と考えられる。

イールドカーブ・コントロール導入の目的は、2%の物価目標達成ではなく、こうした副作用の軽減を図ることだったと考えられる。その「事実上の正常化策」までもが大きな副作用を新たに生むようになり、金融市場に混乱をもたらしているのが現状だろう。それは、金融政策全体の行き詰まりを象徴した動きともいえるのではないか。

日本銀行は国債買い入れの拡大を強いられた

6月には、10年国債金利が0.25%の変動レンジの上限を上回ることを回避するために、日本銀行は臨時の国債買い入れオペ、指値オペを通じて、16兆円超の長期国債の買い入れを強いられた。その結果6月の長期国債保有残高は、前年同月比で28.9兆円増加と、2019年6月以来3年ぶりの大幅増加となった。また、国債残高に占める日本銀行の保有比率は初めて50%を超えた。

国債買い入れの抑制というイールドカーブ・コントロール導入の狙いはここにきて、一気に崩れてしまったのである。それは、市場で決まる長期金利を完全にコントローすることが本来無理であることを露呈したと言えるのではないか。また、変動レンジの上限を守るという形でターゲットを明示すると、市場の投機的な攻撃の対象になりやすいことも改めて明らかになったのである。

イールドカーブ・コントロールの構造的な欠点が表面化

世界的に物価高圧力が強まっている一方、多くの国ではドルに対して自国通貨安が進んでおり、物価を一段と押し上げている。そうした中、中央銀行は、自国通貨の安定も意識して金融政策の引き締めに動くのが普通の対応であり、実際、多くの中央銀行がそうしている。

しかし、2%の物価上昇率を安定的に実現するという達成可能性が低い物価目標に強く結びついた、硬直的な金融政策を行っている日本銀行は、例外的に金融緩和策を修正していない。そればかりか、長期国債の買い入れを大幅に増加させ金融緩和を事実上強化してしまっているのである。

長期金利のコントロールを目指すイールドカーブ・コントロールのもとでは、経済・金融環境の変化によってそうした矛盾した政策の実施を強いられるのである。それは、イールドカーブ・コントロールが本質的に持っている構造的な欠点が表面化したものだ。

副作用の軽減を図って2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入して以降、長期国債の買い入れ抑制を進めてきた日本銀行にとっては、足元での長期国債買い入れ拡大は望ましいものではなく、そして政策の矛盾を露呈するものとなっているのである。

変動レンジの拡大よりも毎営業日指値オペの文言削除が起点か

投資家によって長期国債が売り込まれ、国債市場が動揺していること、悪い円安の進行を許しているとの批判を受けていることに加えて、意図しない国債の買い入れ拡大を強いられ、政策的な矛盾が生じていることは、日本銀行としては見過ごすことはできないだろう。

こうした点を踏まえると、7月20・21日の次回政策決定会合での可能性は高くないとしても、向こう数か月のうちに日本銀行が、10年国債金利が変動レンジの0.25%を超えて一定程度上昇することを容認する柔軟化策の実施に踏み切る可能性は、50%程度はあるのではないか。

その際には、政策決定会合で決定され対外公表文に書き込まれている「10 年物国債金利について 0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する」という4月に加えた文言を削除することが起点となるだろう。

他方、変動レンジの拡大は、現実的な対応ではないのではないか。市場の攻撃をかわすには、明確なターゲットをなくすことが有効だ。そのうえで、タイミングも金利水準も柔軟にして機動的に指値オペを実施することで、0.25%を完全な上限とはしないという日本銀行の意図を市場に伝え、一定程度の長期金利の上昇を円滑に誘導できるようになるのではないか。他方で、急激な長期金利の上昇を回避するために、引き続き指値オペを弾力的に利用していくだろう。

黒田体制下の日本銀行が「逃げ切る」可能性も

日本銀行が、常に変動する為替をターゲットにして金融政策を決定することは妥当でない。しかし、2%の物価目標に結び付いた金融政策運営、あるいはイールドカーブ・コントロールのもとでの10年国債の金利上昇回避など、硬直的な政策姿勢が円安進行など金融市場を不安定化させ、経済の安定を損ねているのが現状である。この点から、本格的な正常化策実施の前に、まずは長期金利の上昇を一定程度容認するイールドカーブ・コントロールの柔軟化を日本銀行は実施すべきだ。

ただし、米国で金融引き締めペースが鈍化するとの見方が浮上し、また来年にかけての景気悪化と金融緩和の観測を背景に、米国の長期金利の上昇が一巡あるいは低下に転じれば、円安圧力も軽減される。その場合には、日本銀行は「逃げ切る」形で、イールドカーブ・コントロールの柔軟化を実施しないだろう。その可能性も50%程度はあるのではないか。その場合、政策の柔軟化、本格的な正常化は、2023年4月の黒田総裁退任後に先送りされることになる。

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