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日銀は円安進行にどう対応すべきか

2022/07/19

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為替政策は日本銀行の守備範囲ではない

世界規模で進む歴史的な物価高騰のもと、ひとり異例の金融緩和策を維持し、他の中央銀行とは異なる独自路線を邁進する日本銀行の金融政策が、悪い円安を助長している、との批判的な見方が国内では強まっている。

他方で日本銀行は、世間の反発に配慮して、「円安は経済にプラス」とのひところの主張を控えるようになったものの、為替をターゲットとする政策はとらないとして、円安是正を理由に金融政策を見直す考えがないことを強調している。

日本銀行法は、為替政策が日本銀行の守備範囲ではないことを示している。日本銀行法第40条第2項は「日本銀行は、その行う外国為替の売買であって本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とするものについては、第三十六条第一項の規定により国の事務の取扱いをする者として行うものとする」としている。

日本銀行は、外国中央銀行等又は国際機関との協力の観点から外貨建て資産を売買することはあるが、為替相場の安定を目的とする売買、つまり為替介入については、政府が意思決定するものであり、日本銀行はあくまでも政府(財務省)の委託を受けて、為替介入の実務を行うのみである。

金融政策を決定する際に為替動向を考慮に入れることは適切

他国では、中央銀行が、為替介入の決定権を含め為替政策を担っているところもある。日本でも、1998年の旧日本銀行法の改正の際には、為替政策を日本銀行の業務に含めるかどうかが議論されたが、最終的には見送られた。それは、物価の安定を使命とする政策と為替の安定を使命とする政策は、時に矛盾することがあるとの考えによるものだ。双方を日本銀行の使命とすると、物価高が進むもとで通貨高が進む場合などに、日本銀行がどのような金融政策を行えば良いか難しい判断を迫られることになる。

通貨の対内的価値(=物価)、通貨の対外的価値(=外国為替)を明確に分け、日本銀行が担うのは前者のみとしたのである。為替政策は、国同士の激しい対立の温床になるなど、外交政策の領域に深く関わっていることから、中央銀行ではなく政府が主に担うのは適切ではないかと思う。

ただし、通貨の対内的価値(=物価)、通貨の対外的価値(=外国為替)は長い目で見れば不可分のものであることから、金融政策を決定する際に、為替動向を考慮に入れることは適切なのではないか。

為替が円高に振れる際には日銀に金融緩和を求める声がしばしば高まった

為替政策の法的側面とは別に、過去には日本銀行が為替にもっと配慮した政策をするように、政府あるいは世論の要請が高まる局面は多くみられた。為替が円高に大きく振れる際には、それがもたらす経済、物価への悪影響に配慮して、日銀に金融緩和を求める声がしばしば高まったのである。

最近ではリーマンショック後に1ドル70円台まで円高が進んだ際がその例だ。黒田体制の下で進められてきた現在の異例の金融緩和は、そうした外部からの声に応えたもの、と整理できるのではないか。

現在はそれとは逆に、円安が進行するもとで、金融緩和の修正を求める声が高まっている。為替はにわかに方向を変えることもしばしばであり、円高方向に振れれば再び日銀に金融緩和の強化を求める声が高まる可能性がある。このような移り気な世論に合わせて、短期的な為替動向に振り回される形で金融政策を行うのは妥当でない、と日銀が考えるのも理解できるところだ。

円安対応でなく副作用軽減のために金融政策の修正、正常化が今必要に

ただし、現状は、2%の物価目標に強く結びついた柔軟性を欠いた日本銀行の政策姿勢、本来は市場で決まる長期金利を強くコントロールしようとする硬直的な政策姿勢が、為替や債券市場に動揺をもたらしているのである。そして、こうした金融市場の動揺は、経済活動にも悪影響を与えることになる。これらは異例の金融緩和が生み出す副作用だ。

それに加えて、異例の金融緩和の効果と副作用を比較考慮した場合には副作用が勝ると考えることから、政策の柔軟化、正常化を進めることが妥当なのである。円安に対応して政策の修正を行うのではなく、副作用の軽減のために金融政策の修正、正常化が今必要だ。

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