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日本銀行の正常化策は経済悪化、財政危機を招くか

2022/07/20

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異例の金融緩和が経済、物価に与えた影響は限定的

日本銀行がイールドカーブ・コントロールの下で目標としている10年国債金利の上昇を一定程度容認する政策調整、あるいは短期金利を引き上げてマイナス金利政策を解除する正常化策については、金利の上昇がもたらす経済、財政、日本銀行の財務への悪影響が大きいために実施は難しい、との見方もある。しかしそれは正しくないだろう。

こうした議論が成立するのは、日本銀行が長短金利を2~3%も引き上げる場合であるが、日本経済の現状を考えれば、政策の調整、正常化によってそれほど大幅な金利の上昇が生じる、あるいは日本銀行がそれを意図する可能性は考え難く、実際には起こりえない。

日本経済の潜在力、いわゆる成長できる実力を測る潜在成長率(日本銀行推計)の動きをみると、日本銀行が現在の異例の金融緩和策を導入した2013年頃から足元までほぼ一貫して潜在成長率は低下傾向を辿ってきた。現状は前年同期比+0.1%とほぼ0%である。

日本銀行の金融緩和がなければもっと潜在成長率は低下していた、との指摘もあるが、異例の金融緩和が潜在成長率の低下を食い止めるほどの力を発揮しなかったことは確かである。また、物価上昇率のトレンドも、労働生産性上昇率、潜在成長率の影響を大きく受けると考えられることから、過去10年近くにも及ぶ日本銀行の金融緩和は、経済そして物価に目立った効果を発揮しなかったのである。

政策調整、正常化でも金利の上昇幅は限られる

こうした経緯を踏まえると、政策金利を現状の-0.1%から政策導入前の+0.1%に戻す正常化策を実施し、また、長期金利のコントロールをやめることで10年国債金利が現状+0.25%から政策導入前の+0.8%程度に戻るとしても、逆に経済・物価への顕著な悪影響が生じるとは考えにくい。ただし、正常化の過程で急速な円の巻き戻しが生じる可能性があり、それが経済に影響を与える可能性は残る。

過去10年間で潜在成長率のトレンド、物価上昇率のトレンドがともに低下した可能性を考えると、日本銀行が長期金利のコントロールをやめても、10年国債金利は政策導入前の+0.8%程度まで戻らない可能性も考えられる。もちろん、その時点での米国の長期金利の水準などの影響も受ける。

日本銀行が長期金利のコントロールを修正し、その上昇を一定程度容認しても、経済ファンダメンタルズで決まる長期金利が大幅に上昇してしまい、コントロール不能に陥る可能性は低い。10年国債利回りの上昇幅はせいぜい0.1%~0.2%程度ではないか。その上昇が経済に与える悪影響は極めて小さいだろう。また、市場の混乱によって長期金利の上昇幅が大きくなるリスクが生じれば、日本銀行は指値オペを使ってそれをけん制できるのである。

6月には市中の金利が日本銀行の指値オペの水準を上回って推移する時期も見られ、指値オペで金利の上昇を完全に抑えることはできないことは明らかになった。しかし、市中金利が指値オペの水準から乖離する幅は限られることから、上昇を抑える効果があることは確かである。

また、将来的に日本銀行が長期金利のコントロールをやめても、10年国債金利の上昇は政策導入前の+0.8%程度が目途となろう。現状からは0.5%程度の上昇である。これについても、経済に与える影響は限られる。

小幅な金利上昇が財政、日銀の財務に与える悪影響は大きくない

財務省は、金利が1%上昇すれば、国債の元利払いに充てる国債費は3.7兆円上振れする、と試算している。上昇幅が上記の0.1%~0.2%、あるいは0.5%とすれば、国債費の増加幅は各年0.4兆円~1.8兆円である。毎年1兆円規模で社会保障費が増加を続けていることや、政府が防衛費を5年間で5兆円程度増加させることを検討している点などを踏まえると、この程度の国債費の増加で、一気に財政危機が起こるとは思えない。

日本銀行が政策の修正、正常化を実施する際に、金融市場への悪影響を軽減する観点から財政環境の改善が望まれるものの、政府が実効性の高い財政健全化策を実施しない限り、財政危機のリスクに配慮して、日本銀行が政策の修正、正常化を実施できないと考えるのは誤りである。

また、日本銀行が将来、政策金利(付利金利)を引き上げると、日本銀行の利払い費が増加し、経常赤字あるいは債務超過に陥る可能性が考えられる。しかしそうした事態は、政策金利を+0.1%程度まで引き上げても起こらない。

この点から、日本銀行が自らの財務リスクに配慮して、正常化策を実施できないと考えるのもまた誤りだ。日本銀行はその意思さえあれば、いつでも政策修正、正常化策を実施できるのである。

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