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低所得者に厳しい物価高が続く:6月消費者物価統計

2022/07/22

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コアCPIは年内3%超の可能性も

総務省が22日に発表した6月分消費者物価統計で、コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比+2.2%と前月の同+2.1%から上昇した。これで、3か月連続で日本銀行の物価目標である+2.0%を上回ったことになる。+2.2%は事前予想通りである。

季節調整値の前月比に注目すると、コアCPI、そしてより基調的な物価動向を表すコアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数)は、ともに前月比+0.2%となった。コアコアCPIの前月比は5月分で+0.1%と4か月ぶりに増加幅を縮小させたが、6月分は再び+0.2%となり、基調的な物価上昇圧力のトレンドに変化がないことを裏付けた。

先行きについては、前年の携帯通話料引き下げの影響が剥落する10月のコアCPIが年内のピークと考えられ、現時点では+2.8%と予想される。年末時点では同+2.7%、2022年度平均は+2.4%となる。年明け以降、上昇率は低下傾向で推移することが予想される。

ただしこれは、ドル円1ドル140円程度、WTI原油価格100ドル程度を前提とした見通しであり、ドル円1ドル145円、WTI原油価格120ドルを上回れば、10月にもコアCPIは前年比3%を超える計算となる。

現在の物価高は低所得層により大きな打撃に

足元で進む物価高が日本の家計に与える影響は、決して一様ではない。勤労者世帯の5月分消費者物価総合は、前年同月比+2.2%(全世帯を対象とする消費者物価総合とは異なる)であった。

他方、勤労者世帯数を年間所得別に同数となるように5つに分類(分類の境界となる年間所得水準は、490万円、624万円、775万円、978万円)した場合、その5分位ごとの消費者物価総合の前年同月比は、所得が低い順から第1階級では前年比+2.5%、第2階級では+2.3%、第3階級では+2.2%、第4階級では+2.2%、第5階級では+2.1%となる。所得が低い世帯の方が、物価上昇率が高い傾向がみられる。これは、所得が低い層ほど消費に占める構成比率が高くなる品目で、特に物価上昇が目立っているためだ。

それぞれの品目について、最も所得水準が高い第5階級での消費全体に占める構成比から最も所得水準が低い第1階級での消費全体に占める構成比を引いた数値と物価上昇率(前年同月比)との関係を見ると(図表1)、低所得層での消費の構成比が大きい品目の価格上昇率が、他の品目の上昇率よりも高くなる傾向が確認できる。

図表1 所得別消費構成比の差と物価上昇率

低所得層の消費の構成比が大きい食料、エネルギー関連

上記の所得階層別の消費構成比の差を具体的な品目で見ると、食料、エネルギー関連の消費については、低所得層での消費全体に占める構成比が特に相対的に大きいことが分かる(図表2)。海外での市況の上昇、あるいは円安の影響を受ける傾向が強い、こうした食料、エネルギー関連の物価上昇は、低所得層により大きな打撃を与えているのである。

他方、低所得層の家計により大きな負担となる家賃の価格は、前年比0.0%と全く上昇していないことが、低所得層の家計に助けとなっている。さらに、低所得層の家計により大きな負担となっている携帯の通信費など情報通信費も、現時点では前年比-10.6%と大幅に下落しており、低所得層の家計には助けとなっている。

ただし、今後については、消費全体の19.6%と高い構成比を占める住宅関連の価格が上昇率を高めていけば、食料、エネルギー価格の上昇に苦しむ低所得層の家計に追い打ちをかけるように大きな打撃となる。

図表2 所得別消費構成比の差

物価高対策に金融政策の役割も

自民党内では、秋の補正予算編成を伴う巨額の経済対策の実施を求める声が早くも高まってきている。ただし、今までも繰り返されてきたような、広範囲な個人を対象とする給付金は、真の支援とはならないだろう。個人の負担である国債発行で賄われれば、幅広く個人から集めたお金を幅広く個人にばらまく構図であり、政策的な意味が曖昧だ。

それよりも、物価高騰で特に大きな打撃を受ける一部の国民、事業者を、ピンポイントで支援することが重要だ。上記の分析でも示したように、食料品、エネルギー関連の価格上昇で特に大きな打撃を受ける低所得層に絞った支援策が有効だろう。その場合には、規模も限られることから、補正予算編成をすることなく予備費で十分に賄えるはずだ。

また政府には、成長戦略の強化を通じて労働生産性、潜在成長率を引き上げる取り組みの積極化が望まれる。その結果、賃金や企業の売り上げが先行き増加するとの期待が個人、企業に高まれば、物価高への経済の耐性を高めることになる。

さらに、物価高騰が長期化するとの懸念を高めないことが、経済の安定の観点からは重要だ。それは、金融政策が担うべき領域である。日本銀行には、金融政策の正常化、当面のところは長期金利コントロールの柔軟化を通じて、物価安定に対するコミットメントを示し、「硬直的な金融政策のもとで悪い円安、悪い物価高が長期化してしまう」との個人、企業の懸念を払しょくする取り組みに期待したい。

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