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大幅利上げとなる7月FOMC後は予想物価上昇率の動きが重要に

2022/07/25

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FF金利が節目の水準まで上昇し9月のFOMCが転機か

7月26・27日に米連邦準備制度理事会(FRB)は米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する。6月に続いて0.75%の大幅利上げ(政策金利引き上げ)の実施が予想されている。さらに大きな幅の1.0%利上げの可能性も残されている。

今回0.75%の利上げが実施されると、政策金利であるFF金利の誘導目標は現在の1.5%~1.75%から2.25%~2.5%にまで引き上げられる。これは、2018年の前回の利上げのピークの水準である。この水準は、今回の利上げの局面で一つの節目となるだろう。前回の利上げのピークの水準であるだけではなく、FOMCの参加者が経済に中立的と考えている水準であるためだ。

この点から、9月のFOMC以降は、FRBの利上げ姿勢は今までよりも慎重となり、利上げ幅も小さくなってくることが予想される。そうなれば、先行きの短期金利の見通しで決まる米国長期金利の上昇も一巡し、それと連動する傾向が強い円安にも歯止めがかかってくるだろう(コラム「円安はどこまで進む?: 1ドル140円は通過点か」、2022年7月20日)。

金融市場は、来年3月にFF金利は3.25%~3.5%程度まで引き上げられ、そこで今回の利上げ局面のピークになると現時点では予想している。その場合、FF金利のピークは、前回の利上げ局面のピークよりも1%高い水準に達することになる。

ちなみに、FF金利が3%台前半に達すれば、FRBが注目する短期金利と残存期間18か月国債金利がほぼ並ぶ、あるいは逆イールドが生じることが予想され、そうなればFRBは利下げも視野に入れ始めるだろう。

9月のFOMCから来年3月までの間にFOMCは5回開催される。この間の追加の利上げ幅が金融市場の見通しで1.0%程度ということは、金融市場は、9月のFOMC以降毎回0.25%ずつの巡航速度の利上げを予想しており、さらに、利上げを見送るFOMCがあることも予想していることになる。

この点から、9月のFOMC以降は、FRBの利上げペースはそれ以前から大きく変化し、かなり鈍化することが予想されているのである。そして金融市場は、来年3月以降に、緩やかな利下げを予想している。

利上げが緩やかな景気後退を招く可能性

今回の利上げ局面が、前回の利上げ局面と大きく違うのは、物価上昇率が非常に高くなっていることであり、それを受けてFRBが、景気を犠牲にしても物価の安定回復を優先する姿勢で臨んでいることだ。

10年物価連動債に織り込まれた予想物価上昇率(期待インフレ率)は現在2.5%程度である。前回の利上げ局面のピークでは2.0%程度だった。FF金利から予想物価上昇率を引いた実質金利は、前回の利上げ局面のピークは0.25%~0.5%、今回の利上げ局面のピークは、それよりも0.5%高い0.75%~1.0%程度となる。経済活動への影響は、名目金利ではなく実質金利で決まる傾向が強いことから、今回の利上げ局面の方が景気抑制効果は大きいことになる。

前回の利上げでは、景気後退を招かない形のソフトランディングが実現できた。しかし、それよりも実質金利が高くなる今回の利上げ局面は、緩やかな景気後退を招く可能性がより高いのではないか。

また景気減速の兆候が広がってくれば、予想物価上昇率は従来のトレンドである2%程度まで低下する可能性があり、その場合には実質金利がさらに上昇して、景気抑制効果がにわかに高まるリスクもあるだろう。

予想物価上昇率が上振れ金融市場が混乱するリスクに注意

以上がメインシナリオであるが、リスクシナリオとして考慮しておかねばならないのは、物価上昇率に低下傾向が確認できない中、金融市場の予想物価上昇率が現状の2.5%から最近のピークの3%程度、あるいはそれ以上まで上振れする場合だ。FRBはその分、利上げ姿勢を積極化させ、FF金利のピーク水準がより切り上がる可能性が金融市場に意識される。予想物価上昇率の上振れと先行きの利上げ見通しの上方修正は、長期金利を現状の3%程度からさらに押し上げることになるだろう。

その場合、長らく低金利環境に慣れていた金融市場の前提が崩れ、金融市場が大きく動揺する可能性が高まるのではないか。金融市場が混乱すれば、それが経済に与える悪影響を見越して、予想物価上昇率は再び低下する可能性が考えられる。さらに、景気を犠牲にしても物価の安定回復を優先する姿勢であるFRBも、金融市場あるいは金融システムの安定までは犠牲にできないことから、再び利上げ姿勢を慎重化する、場合によっては利下げを検討するだろう。

以上の点から、金融市場の予想物価上昇率が上振れる場合でも、長期金利(2年~10年程度)が現状の3%程度から上昇し、それに応じて対ドルでの円安が140円を超えて進むのは、比較的短期間にとどまるのではないか。

それでも、長期金利の上振れが金融市場の混乱をひとたび生じさせてしまえば、経済の悪影響は強まり、緩やかな景気後退ではなく厳しい景気後退、いわゆるハードランディングに陥る可能性が高まるだろう。今後の米国の金融政策、債券、株式市場、そして景気の動向を占う際には、実際の物価の行方だけではなく、市場の予想物価上昇率の動きが非常に重要になるだろう。

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