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推進法成立を受けて本格稼働を始める経済安全保障政策

2022/07/29

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「経済安全保障推進室」(仮称)の発足

半導体など重要物資のサプライチェーンの確保▽基幹インフラ設備の事前審査▽先端技術開発▽特許の非公開、の4つの柱で構成された経済安全保障推進法が5月に成立した。これを受けて、岸田政権の目玉政策の一つである経済安全保障政策がにわかに動き始めた。

政府は、8月1日に内閣府内に「経済安全保障推進室」(仮称)を発足させる。これは、昨年11月に経済安全保障推進法の法制化に向けて内閣官房に設置した「経済安全保障法制準備室」を改称、発展させるものだ。職員も現状の約50人程度から、経済産業省など関係省庁から出向する人員を増やしていく方向である。推進室は、関係省庁間にまたがる問題の調整や対応にあたり、国家安全保障局(NSS)とともに、経済安全保障政策の司令塔機能を果たしていくことになる。

「特定重要技術」のAI、バイオ技術など先端20分野を特定

政府は7月19日に、経済安全保障推進法に基づいて政府が重点的に支援する「特定重要技術」の基本指針案を示した。政府は9月下旬に基本指針を閣議決定する見通しだ。

その中で、調査研究を進める対象となる20分野が列挙された。AI、バイオ技術、脳コンピューター技術、極超音速、ロボット工学、ゲノム学を含む医療・公衆衛生技術、量子情報科学、宇宙関連技術、サイバーセキュリティーなどである。

関係省庁や有識者でつくる会議がこの20分野からさらに技術を絞り込み、選定した特定重要技術の分野ごとに研究者を公募する。研究開発は政府機関や民間企業、シンクタンクなどで構成する官民協議会が支援し、5千億円規模と見込まれる「経済安全保障基金」から資金を支出する。仮に研究者に秘密の漏洩や盗用があれば、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。

中国への対抗を念頭に、国力を左右する次世代技術への政府の関与を強め競争力を高める狙いがある。

「特定重要物資」の指定に4つの要件

経済安全保障推進法の柱の一つは、半導体など重要物資のサプライチェーンの確保である。「重要物資」に指定されれば、それを扱う事業者は国の支援が得られる。

政府は上記の基本指針案の中で、「重要物資」の4つの要件を明記した。それは、(1)国民の生存に必要不可欠、(2)供給が特定国に偏り外部に過度に依存している、(3)輸出停止などにより供給途絶の蓋然性がある、(4)供給途絶の実績があるなど特に必要と認められる、である。この4つの要件のすべてを満たせば重要物資に指定される。半導体、医薬品、レアアース(希土類)などが想定されている。重要物資を供給する企業への国の調査権が認められ、調査に対応しなければ罰則が科される。これについても、「経済安全保障基金」から資金が支出される。

国産クラウド開発促進へ

経済産業省は7月20日に、経済安全保障の観点から国産クラウドサービスの開発促進を加速させる方針を明らかにした。現在日本のクラウドサービスは、米IT大手3社の寡占状態にあるのが現状だ。政府の機密情報や行政が扱う個人情報については、危機管理上、国産サービスで扱う必要があるとの判断のもと、国内事業者によるソフトウエア開発や設備投資を後押しして育成を急ぐ考えだ。政府は経済安全保障推進法に基づき、国内の新興企業や大手事業者との官民連携の協議会を発足させる方針である。

公正取引委員会の報告書によると、2020年度の国内シェアはアマゾン・コム子会社が40~50%を占め、マイクロソフトが10~20%、グーグルが0~5%となっており、米IT大手3社で圧倒的なシェアを握っている。

経済安全保障の観点から特に警戒するように、クラウドサービスを通じて中国に情報が漏洩するリスクは現状では低いが、米国企業のサービスを使って運用すると情報漏えいのリスクを管理しづらく、またサイバー攻撃などが起きた際、迅速に対応できない可能性もある。

クラウドには、専用回線で利用者を限る「プライベートクラウド」と、多くの企業などがデータを保管する「パブリッククラウド」がある。政府が示した運用方針では、3段階ある区分のうち、防衛装備や外交交渉の資料を含む最高レベルの「機密性3」と、情報が漏えいすると国民の権利を侵害する恐れがある「機密性2」の一部の情報を原則、パブリックとプライベートを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」での利用を推奨すると定めている。海外のサービスとの連携を図りながらも、重要なデータについては国産で管理する「ハイブリッドクラウド」を目指す考えである。

日米経済版2プラス2でも経済安全保障政策の協力を議論

経済安全保障推進法に基づく日本の経済安全保障政策は、日米協力においても強化される。日米両政府は7月29日に、外務・経済閣僚による「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)を初めて開催する。日本から林外相と萩生田経産相、米国からブリンケン国務長官とレモンド商務長官が出席する。ここでは、半導体を含む先端技術の保護など経済安全保障分野での協力の抜本強化策が協議される。また、日米の先端技術の流出を防ぐための方策や高速・大容量通信規格「5G」や基幹インフラの安定性のルール作りなどでの連携強化も議論される。さらに蓄電池やその原料となる重要鉱物の調達を巡っても協力を推進する。まさに経済安全保障推進法に沿った形で、中国・ロシアなどを念頭に経済安全保障政策の協力が推進されるのである。

また初会合では、米国主導の経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の推進も確認される。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を意識した、第三国におけるインフラ協力の推進も議題となる見通しである。

国益を考えて執行には慎重さも必要に

自民党経済安全保障対策本部の会長を務める高市政調会長は、5月に成立したばかりの経済安全保障推進法の拡充を急ぐために、2023年の法改正を目指す考えを示した。公明党の反対などで盛り込むことができなかったとみられる安全保障分野を巡る機密情報への官民のアクセスを限定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度を法改正で導入する考えを述べている。

以上のように、5月の経済安全保障推進法成立を受けて、足元では経済安全保障政策が一気に本格稼働してきた感がある。ただし、そうした政策は、民間企業活動への政府の関与を強め、民間企業の自由な活動を妨げてしまう側面もある。さらに、海外への依存を低下させる自前主義は、高い製造コストから企業収益の圧迫や消費者の負担増加を招く恐れもある。また追加的な財政支出の増加が、国民負担を高める側面もある。

これらはすべて、経済活動には悪影響を与え、結果的に国益を損ねてしまう弊害のリスクを抱えている。ウクライナ問題を受けて政府は経済安全保障政策の推進を一層強化してきているが、弊害にも十分配慮した慎重な政策運営を心がける必要もあるだろう。

(参考資料)
「自民・高市政調会長、経済安保法「23年改正」 拡充急ぐ」、2022年7月24日、日本経済新聞電子版
「日米の経済版2プラス2、経済安保協力を抜本強化へ・・・議題案が判明」、2022年7月24日、読売新聞速報ニュース
「経済安保 推進室、来月1日発足 政府調整 各省庁の司令塔機能」、2022年7月24日、産経新聞
「経済安保「重要技術」選定へ AI・宇宙・バイオなど20分野」、2022年7月20日、産経新聞
「経済安保「重要物資」指定に4要件 政府、自民に方針提示」、2022年7月20日、日本経済新聞
「国産クラウド 開発促進へ 経産省 経済安保を重視」、2022年7月21日、静岡新聞
「経済安保法案:「特定技術」候補20分野 政府が経済安保指針案」、2022年7月20日、毎日新聞
「国産クラウドの開発促進へ―経産省、経済安保を重視」、2022年7月20日、共同通信ニュース
「行政データ管理の国産クラウド 政府、今秋に開発着手」、2022年7月19日、日本経済新聞電子版
「行政データ保管の「政府クラウド」、セキュリティー対策強化へ…日本独自で暗号化技術を高度化」、2022年7月19日、読売新聞速報ニュース

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