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戦争長期化と制裁への対応でロシアは戦時経済体制に移行

2022/08/01

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戦争継続のため政府が民間企業への統制を強化

ロシアは、ウクライナ侵攻後に短期間で勝利を収めるという当初の計画に失敗し、戦闘は東部ドンバス地方を中心とした長期戦、消耗戦へと発展してきている。他方、先進国からの制裁措置は、ロシア経済に深刻な打撃を与えている。

これらを受けて、ロシア政府は経済活動に対する統制を強化し、戦時経済体制への移行を図っている。それを可能にする2つの法案が、7月に下院で可決された。法案は上院で可決された後、プーチン大統領の署名を経て成立する。

添付文書によると、法案は特に軍を支援し、「武器や軍装備品を修理する必要性の短期的な高まり」に対応する狙いがあるという。政府の戦争継続を可能とするため、物資や労働力を武器製造などに優先的に調達できるよう、政府の権限を強化することが同法の目的である。ロシア軍には兵器枯渇の兆候も出ており、法案はこうした状況を打開する方策の一つとみられる。

第1の法案は、政府が企業に対して国防契約の履行を義務付けることを可能にし、国防省などに契約条件を変更する権限を与えるものだ。つまり、政府の命令によって企業は生産を民間向けから軍需品向けに切り替えるよう強制される可能性がある。また、政府が企業の生産量などを管理できるようにもなる。

ただし軍需品の調達を担当するボリソフ副首相は、この法案は、民間の中小企業を強制的に軍需対応に転換させるようなものではなく、既に防衛部門のサプライヤーリストに掲載されている企業が主な対象になる、と説明している。

2つ目の法案は、政府に労働力の管理を強化する権限を与えるものだ。当局には、「所定の労働時間を超えて夜間や週末、休日に勤務する条件や年次有給休暇の規定」など、労使関係の法的条件を定めることが認められるという。政府が特定の企業の従業員に残業代を支給して、時間外労働を要請することなどが可能となる。これには、国と契約する防衛企業で専門職の人材が不足していることに対応する狙いがある、とボリソフ副首相は説明している。

ボリソフ副首相は同法案について、精密部品などの対露輸出を禁じた欧米の制裁に対処するためのものだとも説明している。またそれは、「特別軍事作戦」の間だけの時限立法だとも述べている。

物不足による物価高を引き起こすか

この2つの法案を通じて、政府は生産資源をより軍需産業に傾け、戦争継続を最優先で進める。他方、政府支出もより軍事行動に関わる分野に比重を移す形に修正される。それは、今後急増することが見込まれる財政赤字への対策でもある。

ロシア紙ベドモスチによると、財務省は輸送インフラや科学技術開発プロジェクトの予算など一部の分野において、今後3年間で1兆6,000億ルーブル(約3兆3,000億円)の支出削減を提案したという。

他方で、社会福祉の支出を大幅に拡大し、来年だけで9,360億ルーブル増の3兆4,000億ルーブルに引き上げることも計画しているという。国民からの戦争支持を獲得するためには、国民への年金増額、給付金支給は欠かせないのである。

制裁措置によって海外からの輸入が強く制限されるもとで、経済活動をより戦時体制に移行させ、軍事関連の生産活動を優先していく過程では、民間製品の不足がより深刻になっていくだろう。それは、ルーブル安による物価高とは異なる、物不足による物価高を招くことになるのではないか。

ロシア国民は、海外製品に加えて国内製品の入手も次第に難しくなり、また物価高にも見舞われることになる。政府からの給付増加などの支援だけで、国民の経済的な不満がこの先抑えられるかどうかは疑問である。

(参考資料)
「[FT]ロシア、戦時経済体制に移行へ 長期戦見据え」、2022年7月11日、フィナンシャルタイムズ
「露経済「戦時」に移行 休日出勤、政府が指示 兵器枯渇…打開狙いか 法成立へ」、2022年7月7日、産経新聞

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