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台湾地政学リスクの高まりで金融市場は動揺:リスク回避の円買いも復活

2022/08/02

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ペロシ米下院議長の台湾訪問で米中間の緊張が高まる

ペロシ米下院議長が台湾を訪問する見通しとなったことで、金融市場では米中関係の緊張が一気に高まるという、地政学リスクがにわかに意識され始めている。そうした中、円の巻き戻しも進んでおり、米国での急速な金融引き締めで覆い隠されてきた「リスク回避通貨の円」も蘇ってきている。

アジア歴訪中のペロシ米下院議長が、2日に台湾を訪れる見通しだと多くのメディアが報じている。また、3日に蔡英文総統と会談するとの観測もある。中国は、同氏が台湾を訪問する場合、両国の外交関係に「重大な影響」が及ぶとけん制していた。さらに中国外務省は1日に、ペロシ氏が台湾を訪問した場合には中国人民解放軍が「傍観することはない」と強い警告を発している。

米ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は1日に、ペロシ下院議長の訪台に対する中国の対抗措置として、台湾海峡でのミサイル発射、中国軍機による台湾の防空識別圏(ADIZ)への大規模な侵入、台湾海峡中間線を越えた空・海軍の行動、軍事演習の大々的な公開、などの可能性を指摘している。他方米国は、空母ロナルド・レーガンをフィリピン海、強襲揚陸艦トリポリを沖縄周辺に展開している。

今回の件が米中間の軍事衝突にまで一気に発展はしないとしても、将来、そうした事態が台湾海峡で生じるリスクが一段と高まった、と金融市場は考えるだろう。

金融市場はリスク回避傾向を強める

ペロシ米下院議長の台湾訪問が米中関係の緊張を高める、という地政学リスクが強く意識され、8月2日の東京市場、アジア市場では株価が大きく下落している。他方で、安全資産の国債が買われ金利が下がるという、リスク回避傾向も強まっている。

さらに日本では、先週以来の円の巻き戻しが一段と進んでおり、円は対ドルで2か月ぶりとなる130円台まで円高に振れている(コラム「急速に進んだ円の巻き戻し」、2022年7月29日)。

先週は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め姿勢が変化してきているとの観測や、急激な金融引き締めによって米国経済が景気後退に陥るといった観測から、米国長期金利が低下した。3月以降、米国長期金利の急上昇に連動する形で対ドルでの円安が進行してきたが、足元での米国長期金利の低下を受けて、円の急速な巻き戻しが生じているのである。

ウクライナ問題が浮上する中で円安が進行してきたことから、従来は、地政学リスクが高まる局面では買われる傾向が強かった円の特性が変わった、との見方も浮上していた。しかし実態は、リスク回避での円買いという特性は変わらない中、米国が急速な利上げに動いたことで、米中金利差拡大による円売り傾向が優勢となり、リスク回避通貨という円の特性が一時的に覆い隠されてきた、と考えるべきだろう。

この先、円は3つの要因によってさらに巻き戻しが続く可能性が考えられる。第1は、FRBの利上げペースの鈍化や来年の利下げの可能性を織り込んだ米国の長期金利低下による日米長期金利差縮小、第2は、米国を中心にした世界経済の減速という経済リスクの高まり、第3は、台湾情勢など地政学リスクの高まり、である。

円の巻き戻しが新たな日本経済の逆風に

円の巻き戻しが進むことで、日本経済に逆風となっている物価高懸念が多少緩和される、というプラス面はある。しかし、為替市場が円高に振れれば、株価が大きく下落しやすくなるだろう。今の局面で、円安は企業全体の収益にはマイナスになると考えられるが、日経平均株価など株価指数にはプラスに働いてきたと考えられる。日経平均株価などを構成する企業には大規模な輸出企業が多く含まれていることから、円安によって円換算での輸出代金が増えることで、株価にはプラスに働く。逆に円高が進めば、株価には逆風である。年初来、米国の株価の下落幅と比べると、日本の株価の下落が小幅であったのは、円安進行の影響が大きいだろう。

今後、上記3つの要因から円の巻き戻しが進む場合、株価の下落率は米国などと比べても大きくなるだろう。それは国内での消費者心理に悪影響を及ぼす可能性が考えられる。

物価高を促す大きな懸念材料であった円安進行が一巡しても、今度は、円の巻き戻しが新たな日本経済の逆風となっていくのである。

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