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台湾有事の経済損失試算:国内GDP1.4%下落

2022/08/04

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台湾向け輸出の停止で日本のGDPは0.90%押し下げられる

ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけに台湾情勢は緊迫の度を強め、米中間の対立が一気に強まっている。いわゆる台湾有事が生じ、中台間そして米中間で軍事的な衝突が引き起こされるとともに、米中間で激しい経済制裁の応酬がなされる場合には、それらが世界経済に与える打撃は甚大だ。それは、ロシアのウクライナ侵攻と対ロシアの経済制裁による世界経済への打撃よりもさらに深刻なものとなるだろう。

以下では、台湾有事によって台湾と日本との間の貿易が途絶えてしまうことによる日本経済への打撃という、より範囲を限定したリスクについて検討してみたい。

台湾は日本の輸出先としては、中国、米国、韓国に次ぐ第4位であり、輸出全体の5.0%(2021年度)を占めている。仮に日本から台湾向けの輸出が停止すれば、日本の名目GDPはその直接効果だけで0.90%押し下げられる。

台湾製半導体輸入停止で日本のGDPは0.48%押し下げられる

他方で、台湾からの輸入品が停止する場合、それが国内品に代替されれば日本のGDPにプラスの効果が生じるものの、それ以上に、サプライチェーンの混乱を通じて日本の経済活動に深刻なマイナスの効果が生じることが懸念される。その代表格は半導体である。

2021年に日本が輸入した半導体の46.7%は台湾製である。日本では製造ができない高性能のロジック半導体の多くを、日本は台湾に依存している。現在、日本で利用される半導体の33%は、台湾からの輸入品である。

そこで、高性能半導体を用いていると推察される8分野に注目しよう。具体的には自動車部品、玩具(ゲーム機など)、パソコン、携帯電話、家電、液晶パネル、医療用機器、ロボット、である。

台湾からの半導体の輸入が止まることで製品の一部が作れなくなり、この8分野の生産がそれぞれ33%減少する場合を考えると、日本の名目GDPは0.48%押し下げられる計算となる。これを、台湾向け輸出が停止する経済効果と合計すると、GDPの押し下げ効果は年間1.38%となる。

10%円高でGDPは0.46%押し下げられる

さらに、台湾有事が起これば、円高進行など金融市場にも悪影響が及ぶ。仮に円高が10%進む場合には、日本のGDPは1年間で0.46%減少する計算となる(内閣府、短期日本経済マクロ計量モデル・2018年版による)。これを上記の数値と合計すれば、台湾有事によって日本のGDPは1.84%減少する計算となる。

日本の潜在成長率が0%台前半から半ば程度とみられることを踏まえると、こうした台湾有事による経済への打撃は、日本経済を一気に景気後退に陥れるのに十分な規模である。

さらに、台湾有事が中国の貿易にも悪影響を与え、また、米中間で経済制裁の応酬がなされるような場合には、日本もその影響を大きく受ける可能性が高い。輸出の約23%と台湾向け輸出の5倍近くを占める中国との間の貿易が大きく縮小すれば、日本経済に破壊的な打撃を与えることになるだろう。日本企業の中国ビジネスは抜本的な見直しを迫られるかもしれない。

上記では、台湾有事が日本と台湾との貿易を停止させる場合の日本経済への影響に限定した試算を示したが、事態がさらにエスカレートし、日中間の貿易に大きな支障が生じる、あるいは他国の経済への打撃の日本への波及効果などを考慮に入れた場合、日本経済に及ぶ打撃は文字通り計り知れないものとなるだろう。

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