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2022/08/12

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脱炭素の計画策定や情報開示を求める提案には引き続き比較的高い賛成票

2020年に環境NGO団体は、みずほフィナンシャル・グループに対して、「パリ協定の目標に沿った投融資計画の策定」を求める株主提案を出した。これが34.5%という予想を上回る高い賛成率を得て以降、6月の株主総会では「脱炭素」関連の株主提案が注目を集めるようになっている。

ウクライナ問題を受けて、今年は銀行、企業に対して「脱炭素」を求める株主提案を出しにくい側面もあったとみられる。エネルギー価格高騰、エネルギー不足、電力ひっ迫などの問題が次々と深刻化したことで、脱炭素を急ぐことがこうした問題をより悪化させてしまう可能性があるためだ。もちろん長い目で見れば、クリーンエネルギーの投資拡大や利用拡大はエネルギー不足への対応策となるが、短期的にそれを進めて脱炭素を急げば、エネルギーの安定確保を困難にしてしまいかねない面がある。

ただし今年の6月株主総会で、気候変動を巡る株主提案の勢いは落ちていないようだ。三菱UFJ信託によると、気候変動への対応を巡る株主提案は7社に提出された。そのいずれもが否決されたが、注目される特徴としては、脱炭素の計画策定や情報開示を求める提案には比較的高い賛成が集まった、ということが挙げられる。

銀行の融資など企業行動に直接関わる提案は支持されにくい

今年は三井住友FGに環境関連の株主提案が提出されたが、メガバンクに環境関連の株主提案が提出されるのはこれで3年連続である。過去2回のみずほFG、三菱UFJFGへの株主提案も否決されていた。

パリ協定に沿った中・短期の脱炭素計画の策定・開示の株主提案の賛成率は、三井住友FGで27.0%、J-POWERで25.8%、三菱商事で20.1%と比較的高水準だった。他方、環境NGOが三井住友FGに対して出した、「国際エネルギー機関(IEA)による脱炭素シナリオと一貫性のある貸付」を求める株主提案は、賛成率が9.5%と1割を切った。計画策定や開示に関する提案とは逆に、銀行の融資など企業行動に直接関わる提案は、支持されにくくなっているのである。

株主が企業の具体的な脱炭素の行動について適切な判断を下すことは難しいか

脱炭素に向けた取り組みは、各国で異なる。再生可能エネルギーによる発電コストが各国で異なることや、原発利用に関する国民の認識なども異なるためだ。さらに、電力会社の脱炭素は、国の方針によって強く規定されている。銀行が石炭火力発電所関連の投資に対する融資について、一律に停止を求められるようなことがあれば、徐々にCO2排出量を低下させる技術を導入しながら移行していく取り組みが妨げられ、むしろ脱炭素に逆行してしまう可能性もあるだろう。

こうした問題点を十分に理解しながら、株主が企業の具体的な脱炭素の行動について適切な判断を下すことは実際には難しいだろう。そうした提案が支持されなくなってきているのだとすれば、それは総じて望ましいことなのではないか。

脱炭素に関して強硬な株主提案に警鐘も

今年5月には、米国の資産運用大手ブラックロックが、「規範的、規制的で企業を制約するような気候変動の株主提案は、長期的な株主価値の向上につながらない」という趣旨の見解を示している。脱炭素に関して強硬な株主提案に警鐘を鳴らしたものである。こうしたブラックロックの方針が、日本の6月株主総会にも影響を与えたのかもしれない。

脱炭素に関する株主提案には市場メカニズムを活用しながら脱炭素を促し、脱炭素社会への移行を助けるという重要な役割がある。ただし、市場メカニズムだけで脱炭素社会への移行が達成できる訳ではない。

株主が企業に高い球を投げるだけでなく、自身の役割とその限界を踏まえたうえで株主提案、あるいはそれへの投票行動を行うようになってきたのだとすれば、それは成熟化と言えるのではないか。

(参考資料)
「「脱炭素」株主提案、ウクライナ危機で潮流に変化/政策かかわる判断、投資家には不向きとの声」、2022年7月14日、東洋経済オンライン、奥田 貫
「検証22年総会(上)報酬開示、賛成4割超も、投資家、内容精査し判断 株主提案、気候変動は3割前後」、2022年7月13日、日本経済新聞

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