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政府は追加の物価高対策実施へ:輸入小麦売り渡し価格据え置きで個人に総額7,000億円、一人当たり5,600円の恩恵

2022/08/15

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政府は輸入小麦売り渡し価格の20%程度上昇を回避へ

岸田首相は15日の物価・賃金・生活総合対策本部で、追加の物価高対策を、9月上旬をめどに取りまとめるよう指示した。その中で、1兆円の地方交付税交付金を増額し、その活用を含めて電気代の効果的な負担軽減策を講じる考えも示している。

政府の追加の物価高対策については、西村経済産業相が14日のNHKの番組で、9月末に期限を迎えるガソリン補助金の延長に前向きな考えを示した。また同日に山際経済再生担当相は、物価高騰への対策として、生活が苦しい人たちへの新たな給付金支給を検討する可能性に言及している。

さらに政府は、製粉会社に売り渡す政府の輸入小麦の価格について、改定が予定される10月以降も据え置く方向で調整している。これも追加の物価高対策の一環である。

輸入される小麦は、政府が商社を通じて買い取り、その後、製粉会社などに売り渡す仕組みになっている。政府は4月と10月の年2回、過去6か月の平均輸入価格から小麦の売り渡し価格を改定する。

農林水産省は今年3月に、4月からの輸入小麦の政府売り渡し価格を、前回から17.3%引き上げて1トン当たり7万2,530円とすることを決めた。これは、過去2番目に高い水準だ。しかしこの価格引き上げは、ウクライナ問題の影響をほぼ受けていない。これは、昨年夏の高温と乾燥による米国、カナダ産小麦の不作の影響が大きかったのである。ウクライナ問題の影響を受けるのは、10月の売り渡し価格の改定からである。従来の算出方法に従えば、10月の売り渡し価格はさらに20%程度上昇する見込みだ。しかし政府は、それを回避して価格を据え置く考えである。

総額6,998億円、一人当たり5,600円程度のお金が浮く計算

家計調査統計によると、個人消費に占めるパン、麺類、小麦粉、菓子などの小麦関連製品の支出は、個人消費全体の2.38%程度である。輸入小麦の政府売り渡し価格の据え置きによって、小麦関連製品の価格が20%上昇することを半年間回避できるとすれば、それによる個人の負担減少分(浮くお金)はその間の消費全体の0.48%に相当する。半年分で計算すれば、総額は6,998億円となる。一人当たりで計算すると5,600円である。

輸入小麦の政府売り渡し価格の据え置き措置は、低所得者を中心に個人消費の下支えに一定程度効果を発揮すると評価できる。ただし、物価高を直接抑えるよりも、賃金上昇を上回る物価高が長期化するとの消費者の懸念を緩和することの方がより重要であり、その役割を担うのは金融政策である。日本銀行は中長期的な物価の安定について、強いコミットメントを打ち出すべきだろう。また、金融政策の柔軟性を高める政策調整を通じて、日本銀行の金融緩和姿勢が変わらないことで、物価高を助長する悪い円安が長く続いてしまうとの個人の懸念の緩和に注力すべきだ。

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