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ウクライナ侵攻半年の世界経済:景気を犠牲にした物価安定の回復とロシア経済・戦争継続への逆風が視野に

2022/08/22

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ウクライナ侵攻をきっかけに世界は利上げ競争に突入

今年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から、間もなく半年が経とうとしている。ウクライナでの戦闘状態は当初の予想を覆して長期化し、現状では膠着感が強まってきている。そうしたなか、世界経済の先行きについては、侵攻から半年が経ってますます不透明感が強まっている。

ウクライナ侵攻が世界経済に与える打撃は、戦争そのものよりも、先進国による対ロシア制裁措置がロシアのエネルギー供給を制約し、エネルギー価格の高騰をもたらしたこと、それを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が急速な利上げ(政策金利引き上げ)を実施して、さらに他国の利上げを誘発しているところが大きい。

足元では深刻なエネルギー不足問題や南欧の財政問題などを抱えるユーロ圏でも、7月に欧州中央銀行(ECB)が事前予想を上回る大きな幅での政策金利の引き上げを決めた。

このように、米国の急速な金融引き締め姿勢が他国にも波及している背景には、為替動向が深く関係している。日本を除く多くの国が、物価高を助長してしまう自国通貨安を何とか避けたいと考えている。そうした中、米国で急速な利上げ(政策金利引き上げ)が行われると、ドル全面高が進み、他国は対ドルでの自国通貨安に見舞われる。それを回避するために、多くの国がこぞって急速な金融引き締めに乗り出し、自国通貨を引き上げて他国に物価圧力を押し付ける競争をしているのである。

こうした急速に進む通貨切り上げ競争、利上げ競争は過去にあまり経験したことがなく、世界経済に大きな打撃を与えるのではないかと思われる。

世界経済の悪化で物価の安定を取り戻す流れに

足元では、原油価格に下落傾向が見られており、物価高騰も最悪期を越えつつあるとの見方が広がり始めている。他方で、世界の利上げを主導するFRBは、景気を犠牲にしてでも高い物価上昇が定着することを避ける覚悟である。そうした姿勢の下では、FRB及び他国での金融政策の転換は遅れやすい。

さらにそうしたもとでは、景気に影響する実質短期金利(名目短期金利ー期待インフレ率)は高止まりないしは上昇し、追加で景気抑制効果を発揮することになってしまう。過去には、景気減速や金融市場の混乱を受けて、FRBは急速な金融緩和に転じ、それが事態の改善に大きく貢献してきた。近年では、リーマンショックやコロナショック後の対応がそうである。しかし歴史的な物価高を受けてFRBのインフレ警戒が非常に強い中、今回はそのような対応にはならないだろう。

FRBは今まで歴史的なペースで利上げを進めてきたが、金融引き締めによる経済への影響が大きく出てくるのは、むしろこれからである。FRB金融引き締めが米国および世界経済を悪化させてしまうオーバーキルのリスクは相応に高い。ただし、経済の悪化によって、世界は何とか物価の安定を取り戻す流れとなるだろう。

エネルギー価格上昇が制裁下でのロシア経済を支え戦争継続を助けた

ロシア経済は、ウクライナ侵攻直後に予想されたほどには現状では悪化しておらず、そのために、経済の悪化が戦争継続の強い制約とはなっていないように見える。しかし、世界の中で孤立感を強めるロシア経済は、時間が経つほど厳しさを増していき、先行きじり貧となる可能性は引き続き高いだろう。

先進国から経済制裁を受け、ロシアの主要輸出品目であり、また政府の歳入を支えているエネルギー関連の輸出が減少した。しかし、資源大国であるロシアのエネルギー関連輸出の減少は、世界のエネルギー需給をひっ迫させ、原油や天然ガスなどの価格上昇を招いた。そうした価格上昇によって、当初は、戦費が賄われていたのである。

フィンランドに拠点を置く独立系の「エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)」の報告書によれば、ウクライナ侵攻から100日間で見れば、ロシアの戦費はエネルギー輸出による収入で賄われたことになる(コラム「ウクライナ侵攻と制裁のもとでロシア経済はさらに悪化していく」、2022年6月16日)。

いずれロシア経済・財政の悪化が戦争継続の障害に

しかし、先進国の対ロシア制裁が段階的に強化されていく中、国防費の急増によりロシアの財政収支は-2,600億ルーブル超と、月次ベースで初めて赤字に転じている。もはや、エネルギー輸出で戦費は賄われない状況になってきているだろう(コラム「進むロシアの財政悪化とバラマキ政策」、2022年7月14日)。

外貨建て国債が事実上のデフォルト(債務不履行)に陥る中、ロシアは海外からの資金調達の道が閉ざされている。さらに外貨準備のほとんどは海外で凍結されてしまった。そのもとでは、対外収支はバランスする必要がある。そうした中で、輸出が制裁措置によって縮小を強いられれば、それに合わせて輸入も縮小することを強いられる。そうなれば、生活に必要な輸入品は減少し、物不足がインフレ圧力を高めるだろう。さらに、輸入部品、原材料が減少する中、ロシア国内での生産活動にも悪影響が及んでいく。それは軍需産業についても同様である。

そうした中で、ロシア政府が戦争を続行し、財政の悪化が進めば、それは国内民間部門から資金を調達する形で賄われることになり、結果的に民間企業の設備投資や個人消費を著しく悪化させることになるはずだ(コラム「ウクライナ侵攻と制裁のもとでロシア経済はさらに悪化していく」、2022年6月16日)。

世界経済の減速懸念を背景に、既に原油価格は下落傾向を見せ始めている。これは、ロシア経済、財政に一段と打撃となっているはずだ。さらに、欧州でロシア産天然ガスからの脱却が進められている中、冬場の需要期を過ぎれば、天然ガスの価格も下落に転じるだろう。そうなれば、ロシア経済の苦境は一段と強まり、いよいよ戦争の継続にも大きな障害となってくるのではないか。

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