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上限5万人への水際対策緩和によるインバウンド需要増加分は年率1,140億円

2022/08/23

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9月にも入国者数の上限を5万人に引き上げへ

政府は新型コロナウイルス問題の水際対策について、早ければ9月に1日の入国者数の上限を、現在の2万人から5万人へと引き上げることを検討している。 オミクロン株の感染拡大を契機に、政府は昨年12月に入国者の上限を1日5,000人から3,500人へと引き下げた。その後、3月には入国者の上限を1日5,000人に戻し、さらに4月には1万人、6月には2万人へと段階的に引き上げてきた。

以下では、今回の水際対策の緩和措置による経済効果について試算してみたい。やや長い目で見れば、外国人観光客のような短期滞在者よりも、留学生など長期滞在者の方が大きな経済効果を生むことになる(コラム「水際対策緩和の追加経済効果は年換算8.1兆円。インバウンド戦略の再構築を成長の起爆剤に」、2022年5月16日)。

ただしここでは、短期の効果に注目し、日本政府観光局 (JNTO)が推計している「訪日外客」が増加した場合に外国人消費額、いわゆるインバウンド需要がどの程度増えるかに焦点をあてた。「訪日外客」は外国人入国者から永住などの外国人を除く、これに外国人一時上陸客などを加えた入国外国人旅行者と定義されている。

緩和措置でインバウンド需要は年率換算で1,143.4億円増加

2019年には3,188万人の訪日外客によって4兆8千億円のインバウンド需要が生み出された、とJNTOは推計している。訪日外客の一人当たりの需要額がこの時点から変化していないと仮定する場合、入国者数上限引き上げ前の今年7月時点では、月間218.2億円のインバウンド需要が生じた計算となる。

他方、9月から上限が2万人から5万人へと引き上げられる場合、インバウンド需要は月間313.4億円と試算される。年率換算、つまりその状態が1年間続いた場合には、3,761.4億円である。緩和措置によってインバウンド需要は7月と比べて月間95.2億円分増加する計算だ。年率換算で1,143.4億円増加する計算だ。

既に指摘したように、留学生など長期滞在者の学費や生活費などの支出額は非常に大きく、その効果を加えれば、水際対策の緩和措置による経済効果はもっと大きくなる。

ただし、水際対策によって長らく待機を迫られていた留学生など長期滞在者の入国ペースは早晩大きく落ちていくはずだ。その結果、長い目で見れば、外国人観光客によるインバウンド需要の重要性は高まっていくことになる。それを持続的に拡大させていくことは、日本経済の成長に大きな追い風となる。

(図表)水際対策緩和による訪日外客数増加の経済効果

インバウンド戦略の再構築を急げ

新型コロナウイルス問題前の2019年には、外国人観光客による国内での支出、いわゆるインバウンド需要が年間4.8兆円増加し、名目GDP成長率を+0.9%も押し上げた。インバウンド需要を再び増加させることは、重要な成長戦略の一つと言える。足元での円安もインバウンド需要再拡大の追い風になるだろう。

インバウンド需要の拡大を日本経済の潜在力向上につなげるには、それが持続的であるとの事業者の期待を高めることが重要だ。持続性に不安があると、つまり長続きしないと考えると、ホテルの新設など企業の新規の投資は増えず、潜在成長率の向上につながらない。その分、宿泊先の手配が難しくなり、日本人の観光客が外国人観光客に締め出されて不満が高まる、といった事態も生じ得る。

新型コロナウイルス問題前の外国人観光客は、中国と韓国に偏っていた。これでは、日本と両国との間の外交関係が悪化すると両国からの観光客が一気に減少し、外国人観光客全体が減少してしまうリスクがある。実際、観光にかかわる多くの事業者は、そうした不安を持ち続けていたのである。

そこで、より幅広い国・地域から訪日観光客を呼び込むことが、インバウンド需要の持続性への期待を高め、企業の新規投資を促して、生産性向上、潜在成長率上昇といった日本経済の潜在力の向上に貢献するのではないか。

また、東京一極集中の是正、デジタル田園都市構想などの政府の政策と連動させ、外国人観光客を地方に誘導して地域活性化につなげることも重要だろう。外国人観光客の受け入れも再開しようとする今、日本経済の潜在力に大きな影響力を与えるインバウンド戦略の再構築は、喫緊の課題である(コラム「訪日外国人観光客の受け入れ再開:インバウンド戦略の再構築を急げ」、2022年5月27日)。

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