フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米国の利上げが高める新興国のデフォルト、通貨危機のリスクとブーメラン効果

米国の利上げが高める新興国のデフォルト、通貨危機のリスクとブーメラン効果

2022/08/26

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新興国市場に3つの強い逆風

新興国のデフォルト(債務不履行)、通貨危機が、世界の経済・金融市場を揺るがす大きなリスクとして浮上してきた。

低所得国を中心に新興国の市場は、足元で3つの強い逆風に晒されてきた。第1が、新型コロナウイルス問題である。感染対策に財政支出を傾けた結果、政府の対外債務返済が滞る事態が生じている。デフォルトのリスクが意識されて、G20では低所得国の債務問題への対応を議論し続けている。

第2がウクライナ問題によって加速したエネルギー、食料価格高騰の影響である。エネルギー、食料を輸入に頼る新興国では、輸入金額の増加で対外収支が悪化し、それが通貨安を誘っている。外貨準備を取り崩して輸入代金に充てる国では、外貨準備の不足が対外債務のデフォルトリスクを高め、それが通貨安を加速させている。

第3が、物価高を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げによって、新興国から資金が巻き戻され、新興国の通貨安を助長している。対外収支の悪化、財政の悪化、外貨準備の不足などの弱点を抱える国では、FRBの利上げによってデフォルト、通貨危機のリスクが増幅されているのが現状だ。

外貨準備の減少と通貨の大幅下落

国際通貨基金(IMF)によると、新興・開発途上国の外貨準備高は今年1~6月に3,790億ドル(約52兆円)の大幅減少を記録した。これは、リーマンショック(グローバル金融危機)が発生した2008年以降で最大の落ち込みとなった模様だ。各国は外貨準備を取り崩して、エネルギー・食料の輸入代金に充て、また、インフレ圧力を高める自国通貨安を回避するために外貨準備を為替介入に充てている。

5月に外貨建て債務がデフォルトに陥ったスリランカは、燃料などの輸入代金支払いに必要なドルがほぼ尽きた状態だ。ナイジェリアも深刻な外貨不足に陥っており、同国中銀はドルの海外流出を避けるために、外国航空会社が4億6,400万ドルを本国に送金するのを阻止するという異例の措置を講じたという。

パキスタン、エジプト、トルコ、ガーナも同様に外貨準備不足から通貨危機に陥るリスクが浮上している。パキスタンとガーナでは、外貨準備高がそれぞれ年初から33%、29%減少した。

より規模が大きい新興国でも、外貨準備の減少から通貨の大幅下落が見られる。経済調査会社CEICによると、チェコの外貨準備は年初から15%減、ハンガリーは19%減となっている。両国はロシアによるウクライナ侵攻後のロシア産天然ガスの価格高騰や調達難の打撃を大きく受けてきた。そしてハンガリーフォリントは、対ドルでの下落率が年初から30%近くにも達している。

IMFによる支援も増加

国際金融協会(IIF)の統計によると、新興国市場では3月から5か月連続で資本の純流出が続き、その合計は393億ドルに達した。資金純流出は、2005年に統計を取り始めてから最長期間に達している。

また、輸入代金や政府債務などの対外債務返済に行き詰った国は、IMFに支援を求めている。IMFによる支援残高は7月末に2019年末比で47%増加している。

パキスタンとバングラデシュもIMFに支援を要請した。パキスタン政府はIMFから支援を受ける条件として、財政支出で抑えていた軽油価格を100%、電力価格を50%引き上げた。バングラデシュ政府もガソリン価格を51%、軽油価格を43%引き上げた。こうした厳しい条件を受け入れることでIMFの支援を取り付け、デフォルトを回避しているが、その代償として国内では物価高騰が一段と強まり、国民からの強い反発を招いている。

新興国の状況がFRBの金融政策に跳ね返ってくるブーメラン効果も

新興国のデフォルト、通貨危機のリスクを高めてきたエネルギー価格の高騰については、原油価格が低下傾向を示すなど、一時期よりも落ち着いてきた感はある。そうした中、米国の金融政策の行方が新興国市場の将来を占う観点から大きな注目点となってきている。FRBが急速な利上げを続ければ、新興国からの資金流出が加速し、アジア通貨危機時のように新興国市場の混乱が、世界の金融市場の混乱につながりかねない。ただし、そうした事態に至れば、FRBの利上げにブレーキがかかることにもなるだろう。

FRBは、自国の経済と物価の動向を睨んで現在金融政策を決めているが、この先は、新興国市場の動向に突如足元を掬われる事態に陥ることも考えておくべきだろう。FRBの金融政策運営が新興国の金融市場に大きく影響し、それが自身の政策に大きく跳ね返ってくるという、いわゆるブーメラン効果である。

(参考資料)
"Emerging Markets Burn Through Currency Reserves as Crisis Risks Grow(新興国の外貨準備が急減、高まる危機リスク)", Wall Street Journal, August 25, 2022
「低所得国、株・債券・通貨トリプル安 IMF支援残高最大に-インフレ直撃で危機拡大」、2022年8月15日、日本経済新聞電子版
「新興国で「ドル流出」・・・連鎖金融危機に緊張」、2022年8月8日、中央日報

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ