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景気減速下で続く米国労働市場堅調の謎

2022/08/31

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失業しても次の仕事を見つけるのは比較的容易

米国の実質GDP成長率は今年1-3月期、4-6月期と2四半期連続で前期比マイナスとなり、簡易的な景気後退の定義に入った。他方、労働市場では新規雇用の増加、労働市場ひっ迫が続いており、米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融引き締め姿勢を緩めない大きな理由の一つとなっている。

米国の労働市場は流動性が高く、解雇と新規雇用がともに高水準で維持されている。各州で支給される失業給付の新規申請件数は、この春に半世紀ぶりの低水準を記録した。しかし夏場に入って増加に転じている。8月13日までの週の申請件数は、季節調整済みで25万件である。これは新型コロナウイルス問題が発生する前の2019年の平均値、21万8,000件を大きく上回っている。このことは、人員削減が増加していることを意味しており、景気の減速を裏付けるものだ。

他方、失業給付を新規ではなく継続的に申請している失業保険継続受給者数の増加ペースはかなり緩やかだ。8月6日までの週の継続受給者数は約140万人と、2019年の平均170万人を下回っている。

この2つの数字が意味しているのは、人員削減は増えている一方、失業者が比較的容易に次の職場を見つけ再雇用されている、ということである。業種、企業によって状況は異なるが、企業の雇用意欲は引き続き堅調なのである。

企業は人手不足に危機感

労働省によると、7月時点で失業者の平均失職期間は8.5週間と、前年同月の14.4週間から縮小している。過去の景気後退時には、失業者のうち27週間以上の長期失業者の比率が大きく高まることが特徴的であったが、現状はそうはなっていない。

1月には失職期間が5週間未満の短期失業者の割合が、27週間以上の長期失業者の割合を上回ったが、その後格差は広がっており、7月には失職期間が5週間未満の短期失業者の割合は全体の37%と、長期失業者の約2倍にも達している。

企業側は、新型コロナウイルス問題で労働者を一時解雇したが、事態の改善を受けて労働者を再雇用しようとしたものの、思うようにそれができなかった。一度職を離れた人が、再び労働市場に戻ることに慎重だったためだ。そこで企業は強い危機感を持って、高い賃金を提示しながら人手不足の穴を競って埋めようとしている。景気の先行きに不確実性が高まってきてもなお、企業の雇用意欲が衰えてないのは、このような背景があるからではないか(コラム「雇用統計の指標性が問われる(7月米雇用統計)」、2022年8月8日)。

新型コロナウイルス問題発生後、労働力人口の減少、非労働力人口の増加

失業率は6月まで4か月連続で3.6%の水準で下げ止まっていたが、7月には3.5%と新型コロナウイルス前の水準まで低下した。労働需給ひっ迫の背景には、新型コロナウイルス問題発生を契機に、失職後も職探しをせずに労働市場からの退出を決めた人が増えて、労働力人口の減少、非労働力人口の増加がある。

2020年2月以降、米国の労働力人口は約50万人減っている。労働力人口の減少は、世界的に見られる現象だ。ドイツでは約35万人、英国では約55万人、減少している。各国政府が入国制限を導入して新型コロナや変異株の流入を防ごうとしたことが、移民の流入を減らし、労働力人口の減少をもたらした面がある。

それに加えて、新型コロナへの感染を避けるなどの理由から、高齢者が労働力人口から退出したことも労働力人口減少の背景にある。米国では65歳以上の労働参加率は約23%で、2020年初めの26%から低下している。若い世代の一部は、子どもや家族の世話を理由に労働市場からの退出を決めている。

ポストコロナの新しい産業構造の姿を見極めるため働き手は様子見か

他方、再び働きに出ることをためらう人が多い背景には、ポストコロナの新しい経済、新たな産業構造の行方を見極めようと様子見をする傾向が強いこともあるのではないか。新型コロナウイルス問題は、外食、旅行関連など感染リスクが高いサービス支出から、巣籠り消費で需要が高まるモノ、例えば家具、家電、日用品、家、自動車などへの財支出へと恒常的に消費をシフトさせ、これが産業構造の転換を促しているのが現状と考えられる。

しかしこうした新たな産業構造の転換はなお移行期にあり、最終的な姿はまだ見えてこない。現時点で拙速に再就職先を決めると、うまく勝ち組の企業には入れず、将来失職の憂き目にあう、また、賃金が下がるようなことがあるかもしれない。

そこで、ポストコロナ経済、新たな産業構造の姿が固まるまで、再就職を控える人が多い可能性が考えられる。

雇用統計を重視することでオーバーキルのリスク

このように、新型コロナウイルス問題の影響により、企業側、労働者側の双方の要因から、強い新規雇用と労働需給ひっ迫が生じている面があるだろう。ただし、それらは決して持続的なものではなく、いずれは収束していく移行的な現象だろう。

こうした観点に照らすと、米国での雇用関連の統計は、新型コロナウイルス問題によってかく乱されており、経済実態を必ずしも正確には反映していない可能性が考えられる。つまり、雇用関連の指標性は落ちているのである。

他方で、FRBの政策は、労働関連統計に引きずられる傾向が強い。その結果、この先、景気を実勢以上に強めに判断し、大幅な金融引き締めによって最終的には景気を殺してしまう「オーバーキル」のリスクは高まっているのではないか。

(参考資料)
"The Surprise in a Faltering Economy: Laid-Off Workers Quickly Find Jobs(解雇後すぐに再就職 米景気減速の意外な現状)", Wall Street Journal, August 26, 2022
"Weak Growth, Tight Job Markets Are a Global Phenomenon(低成長と人手不足、世界的な現象に)" , Wall Street Journal, August 8, 2022

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