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米労働需給ひっ迫緩和の兆候もFRBの積極利上げ姿勢は直ぐには変わらず(8月米雇用統計)

2022/09/05

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コロナの影響が薄れ労働需給ひっ迫は緩和か

米国労働省が9月2日に発表した8月雇用統計は、新規雇用の比較的堅調な増加が続く中、労働供給の増加によって労働需給のひっ迫が緩和され、賃金上昇率が頭打ちとなるといった兆候が見られた。しかし、これは景気減速あるいはインフレリスク後退の明確なサインとはまだ言えず、米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利上げ姿勢に修正を迫るものとはならない可能性が高い。FRBは9月20~21日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.50%あるいは0.75%の利上げを実施する可能性が引き続き高い。

8月の非農業部門雇用者増加数は31万5,000人と事前予想の平均値30万人程度を若干上回った。他方、7月分は52万8,000人増から52万6,000人へと若干下方修正される一方、6~7月分合計では10万7,000人の下方修正となった。過去3か月の雇用者増加数は平均37万8,000人と、新型コロナウイルス問題前を大幅に上回る水準だが、昨年に比べると減速している。

他方、予想外なことに、失業率は7月の3.5%から3.7%へと0.2%ポイントの大幅上昇となり、労働需給の緩和を示唆したのである。失業率の上昇は今年1月以来のことであり、半年ぶりの水準に達している。

堅調な新規雇用が続く中で失業率が上昇したのは、労働供給(労働力人口)が増えたためだ。労働参加率は62.4%と、7月の62.1%から大きく高まった。働き盛りの世代を中心に、職探しの動きが強まったとされる。

雇用・所得環境の下支え効果が薄れれば利上げの影響で米国景気は悪化へ

また、8月は賃金の上昇率も鈍化し、平均時給は前月比+0.3%と前月の同+0.5%を下回った。前年同月比上昇率は+5.2%と7月からほぼ横ばいだったが、3月の+5.6%がピークとなった可能性が高まっている。このように、労働供給の増加によって労働需給を示す失業率が顕著に上昇し、労働需給のひっ迫緩和が賃金上昇率の低下となって表れるなど、各指標がそれぞれ整合的な動きを示している。

ちなみに新規雇用の増加についても、別の指標のADP雇用者数が7月、8月と2か月連続で増加ペースを急減させており、労働市場全体に変調が見られ始めている。

FRBによる利上げの影響から、住宅など金利に敏感なセクターでは既に需要鈍化の傾向が明確にみられている。今までは、堅調な雇用・所得環境が、利上げの悪影響を相殺し、米国経済の安定を支えてきた面があったと考えられる。

しかし、新型コロナウイルス問題によって大きくかく乱された労働市場が正常化する中で、労働市場も悪化していけば、先行き利上げの影響がより直接的に景気の減速につながっていくのではないか(コラム「景気減速下で続く米国労働市場堅調の謎」、2022年8月31日)。

来年には利上げ打ち止めから利下げへ

今回の雇用統計を受けて、金融市場が予想する、9月20~21日のFOMCで3回連続で0.75%の大幅利上げが実施される確率は幾分低下したが、それでも0.5%の利上げよりは高い確率で0.75%の利上げの確率が先物市場に織り込まれている。8月消費者物価統計が、利上げ幅の決定に大きな役割を果たすことになるだろう。

FF金利は年末時点で3%台後半から4%になるとみておきたい。その際には、市場に織り込まれた期待インフレ率で割り引いた実質の政策金利は、+2%弱程度と前回利上げのピークを2%近く上回ることになり、景気に対して相当の抑制効果を発揮するだろう。堅調な雇用・所得の下支えがなくなることから、米国経済は年末以降に急速に減速感を強める可能性を見ておきたい。

これを受けてFRBは、来年に入ると政策金利を据え置き、年央から年後半にかけて利下げに転じるとみておきたい。それでもインフレ警戒色を強めたFRBが利下げに転じるタイミングは遅れ、また利下げに転じてからもそのペースは緩やかとなりやすい。その中で、期待インフレ率のさらなる低下が実質政策金利の上昇を促し、景気抑制効果を一層強めることになるだろう。

その結果、米国の景気悪化は、通常の後退よりも深いもの、あるいは長いものとなりやすいのではないか(コラム「1ドル140円超が視野に入るドル円レートとFRBの利上げ姿勢の展望」、2022年9月1日)。そうした中で、米国の長期金利は低下し、日米長期金利差縮小と経済・金融市場の不安定化を受けたリスク回避傾向が後押しする形で、来年には130円割れまでの急速な円の巻き戻しが生じる可能性も見ておきたい。

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