フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 深まる中国の住宅不況:日本のバブル崩壊の経験は生かされるか

深まる中国の住宅不況:日本のバブル崩壊の経験は生かされるか

2022/09/08

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

政府の規制強化で中国は不動産不況に

経済の低迷が続く中、中国政府はインフラ投資の拡大を通じた景気支援策に乗り出す。中国政府は8月24日に、地方政府がインフラ投資などに充てる債券を新たに5,000億人民元余り、日本円にしておよそ10兆円発行すると発表するなど、インフラ投資を拡大する方針を明らかにしている。5年に1度の共産党大会を秋に控え、景気を下支えする姿勢を強調する狙いがあるだろう。

ただしこの施策によって、中国経済が早期に成長力を取り戻すと考えるのは楽観的過ぎる。中国経済の成長の大きな足かせとなっているのは、ゼロコロナ政策の影響と並んで、昨年から続く深刻な住宅不況がある。住宅価格の下落が続く中では、個人消費の低迷も続きやすいのである。政府が住宅部門のテコ入れを本格化させないと、インフラ投資の拡大だけでは中国経済の好転は難しいのではないか。

活況であった中国の住宅部門、不動産部門が不況に陥ったきっかけは、政府の規制強化だ。政府は2020年に不動産開発業者への融資を制限した。それを受けて銀行などの金融機関が手を引いたことで、不動産開発会社の信用不安が生じた。不動産大手の中国恒大集団 (チャイナ・エバーグランデ・グループ)など30社を超える企業が、それ以降、対外債務で不履行(デフォルト)を相次いで起こしたのである。

未完成住宅急増が大きな社会問題に

中国では、住宅が完成する前に購入者から代金を受け取ることが一般的だ。過去10年間、中国の新築住宅販売の約80%は、不動産開発会社が1〜3年後に引き渡すと約束した未完成物件が占めていた。地方政府は、建設計画が25%ほどしか終わっていないプロジェクトにも事前販売の許可を出し、このような慣行を可能にしてきたのである。購入者は30%前後の頭金を払い、残りを住宅ローンで賄うことが多かった。

しかし、政府の規制強化で不動産開発会社が資金難に陥ると、住宅建設が進まなくなった。代金支払いへの不安から、建設会社が工事を止めてしまったためだ。他方、不動産開発会社は受け取った代金をすでに債務返済に充ててしまっており、住宅購入者に対する返済はできない。

住宅購入者は、住宅を手に入れることができる見通しが立たない中で、住宅ローンの返済のみを行うことが求められているのである。そこで、未完成住宅に対して購入者が支払いを拒否する動きが各地に広まっている。

その住宅ローンの総額は3,700億ドル(約49兆円)に達する可能性があるとの推計がある。中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、今年3月末時点で同国の金融機関には計5兆8,000億ドル相当の個人向け住宅ローン残高があると報告されていることから、支払いの拒否の対象となる住宅ローンはそのうち15.7%程度と推測される。かなりの規模の住宅ローンが不良債権化するリスクがあるが、中国の多くの銀行はその損失を吸収する力があり、金融危機が起きる可能性は現時点では小さいだろう。

不動産バブル潰しは日本のバブル崩壊の経験も想起

中央政府は社会問題化している住宅建設の促進を地方政府に強く働きかけている。しかし、それ以外の施策に踏み出すことは慎重である。信用不安に陥った不動産開発業者を広範囲に救済すれば、不動産市場の行き過ぎを煽りつつ大きな利益を上げた業者に対してペナルティを与えることを狙った規制強化が、間違った政策であったと認めることになってしまう。

住宅価格の下落は、多くの庶民に住宅購入が届くようにするには必要、との考えを政府は示唆していた。しかし、住宅価格の下落は、経済に予想外に大きな打撃を与えてしまったのである。バブル退治の政策が、バブル崩壊と予想外に深刻な経済・金融面での問題を引き起こしてしまった日本の80年代の経験に通じるところがあるのではないか。

住宅価格下落が逆資産効果を生む

多くの都市で新築・中古住宅の平均価格が昨年9月以降下落を続けており、現時点では回復の兆しは見られていない。多くの不動産開発業者がデフォルト(債務不履行)に陥り、住宅建設を中断したため、住宅購入の代金を支払っても住宅を手に入れられないとの不安から、住宅購入を手控える人が急増している。住宅は価格が上昇し続ける安全な投資先だというマイホーム神話が、崩壊してしまったのである。

今年1~7月の住宅販売は、前年同期で31%減少した。また、7月の新築住宅着工(床面積ベース)は前年同月比45%減と、ほぼ10年ぶりの減少率を記録している。住宅価格の下落は、住宅を保有していない家計に住宅購入を促すことにいずれつながるが、現時点ではみな住宅購入に慎重になっており、価格下落のプラスの効果が出るまでにはかなり時間がかかるだろう。

他方、住宅価格の下落は、既に住宅を取得している家計にとっては資産価値の下落となる。いわゆる逆資産効果によって家計の消費活動を抑制的にさせる。中国では家計資産に占める住宅の割合が約70%と高いため、逆資産効果は大きくなりやすい。四川省成都市の西南財経大学の研究者らが2019年に発表した調査報告によると、中国では不動産価格が10%上昇すると消費全体が約3%増えることが分かったという。10%の下落は消費の3%の下落につながる計算だ。

中国住宅不況は世界同時不況の引き金の一つにも

実際、足元での個人消費は停滞が目立つ。中国の小売売上高はゼロコロナ政策の影響で今春に数か月連続で減少した。その後、一時持ち直したものの、6月には前年同月比3.1%増、7月は同2.7%増にとどまり、その伸び率は新型コロナウイルス問題前の水準を大幅に下回った。中国の不動産価格がおおむね上昇していた2000年から19年末までの間、小売売上高は平均で約12%も増加していたのである。

ゼロコロナ政策や電力不足の問題の影響が残る中、住宅不況が中国経済の成長を大きく制約している。これは、政府のインフラ投資拡大では直接的には解決できない問題である。中央政府が、構造改革の優先度を下げる形で、いつ住宅部門の救済を本格化させるかが今後の大きな注目点である。

それまでは、住宅不況による中国経済の低迷は、世界経済の大きなリスクであり続け、米国での大幅利上げと並んで、世界同時不況の引き金にもなりかねないだろう。

(参考資料)
"Pinched by Housing Downturn, Chinese Families Rein In Spending(住宅不況に苦しむ中国、多くの家計が支出抑制)", Wall Street Journal, August 26, 2022
"China's Housing Crisis Keeps Brewing in Beijing's Weak Tea(中国の住宅危機、政策の不備が助長) ", Wall Street Journal, August 18, 2022
"The Bursting Chinese Housing Bubble Compounds Beijing's Economic Woes(しぼむ中国住宅バブル、経済への影響は)", Wall Street Journal, August 15, 2022
"“Beijing Bets the House on Infrastructure(中国の賭け:インフラ投資に託す住宅市場の救済)", Wall Street Journal, August 2, 2022

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ