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FRBの量的引き締め加速は金融市場を混乱させるか

2022/09/12

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量的引き締め加速の金融市場への影響をFRBは注視

米連邦準備制度理事会(FRB)は、急速な利上げ(政策金利の引き上げ)を進めているが、9月からは量的引き締めのペースも加速させた。FRBは6月に保有資産の削減、いわゆる量的引き締め(QT)を開始したが、保有資産の縮小ペースは2022年9月から倍増し、米国債は月額600億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)は同350億ドルとなる。金利と量の双方でFRBの金融引き締めが加速することになるが、その影響がどのような形で表れるのかが注目されるところだ。経済、物価への影響よりも金融市場への影響に注目したい。

量的引き締め策が債券利回りの上昇を通じてどの程度の金融引き締め効果を米国経済にもたらすのかについては、FRB自身もよく分からないだろう。FRBが2008年に資産を大量に買い入れる量的な緩和策(LSAP)を導入した時点と比べて、今では、量的な政策の効果についてはより不確実とFRBは考えているだろう。

他方で、前回の金融引き締め局面でFRBが量的引き締めを進め、民間銀行が保有するFRBの当座預金の残高が減少する中、2019年には短期金利が大きく上昇するという市場の混乱が生じた。当座預金の残高が減少したことで、流動性不足に備えて一部の銀行が資金の調達を急いだのである。量的引き締めを進める中、FRBはこうした事態が再燃しないかどうか警戒しているはずだ。

SRFはうまく機能するか

この時の経験から、金融引き締めへの転換が視野に入ってきた2021年7月に、FRBは新たに常設のレポファシリティー(SRF)の設置を決めたのである。これは、FRBがプライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)から米国債、エージェンシー債、エージェンシーMBSを担保として受け入れ、その代わりに短期資金をオーバーナイトのレポ取引という形で供給するものだ(コラム「FRBが新たな資金供給の枠組み(SRF)を開始:市場機能低下の懸念も」、2021年7月30日)。

SRFの狙いは、短期金融市場の安定を確保し、それを通じて金融政策をより効果的にすることである。SRF創設のきっかけとなったのは、2019年に短期金融市場で金利が急上昇したこと、さらにコロナショックで金融機関が資金の調達を加速させた2020年3月にも同様に短期金利が一時急騰したことだ。

一時的な資金供給という場当たり的な対応ではなく、SRFという常設の資金供給の仕組みを作り、何らかのショックが起こっても金融機関がそのファシリティーを随時利用することで市場の混乱を自動的に防ぐことを目指したのである。

銀行の資金がひっ迫する際には、今度は銀行はSRFを用いてFRBから資金を調達できることから、短期金利の上昇が生じにくくなっていると考えられる。しかし、SRFはまだ危機時に試されたことはないことから、うまく機能するかどうかについては不確実性がある。

量的引き締めとMMFへの資金流出の双方が銀行の流動性を低下させる

銀行にとって懸念されるのは、FRBの利上げが進む中で銀行預金からMMFへと個人の資金が大きくシフトしていることだ。銀行預金の金利よりもMMFの金利が早く上昇することで、金利面からMMFの相対的な魅力が高まっているのである。MMFに集まった個人の資金は、FRBが提供する短期資金運用のスキームであるリバースレポ取引(RRP)で一部運用されている。その規模は、すでに2兆2,000億ドルに達している。このため、量的引き締めでFRBの当座預金は減少しても、FRBのバランスシート全体は同じ規模では減少はしていない。

FRBが保有する債券残高を減少させることと、銀行預金がMMFに流出することの双方の影響から、銀行がFRBに保有する当座預金の残高は急速に減少しているのである。このままでは、年明け後にも銀行が資金ひっ迫に直面するとの見方も生じている。

量的引き締め加速で先行きの利上げ見通しはより不透明に

他方、量的引き締め策が進む中で債券市場におけるFRBの影響力が低下すれば、需給の悪化で債券利回りが上昇するなどといった、債券市場の混乱が引き起こされる可能性もある。

このように、量的引き締め策が進む中で銀行間の短期金融市場と債券市場の双方で混乱が生じた際には、FRBの利上げ策にも影響が及ぶことになるだろう。市場の混乱が起これば、FRBは量的引き締め策を停止、あるいはペースを落とさざるを得なくなろう。さらに、市場の混乱の程度が大きければ、利上げのペースも落とす、あるいは利上げを停止することになるだろう。

しかし、市場の混乱の程度がそれほど大きくない一方、インフレリスクが引き続き強い状況であれば、量的引き締め策を停止あるいはペースを落とすことが金融引き締め効果を低下させてしまうことを恐れて、FRBはむしろ利上げペースを加速させる可能性も出てくる。

FRBがどちらを選択するのかは、市場の混乱の程度とその際の経済・物価動向に左右されるため、現時点では不確実である。このように、足元で加速した量的引き締め策は、市場の混乱を引き起こすことを通じて、先行きのFRBの利上げ政策の見通しをさらに不透明なものにするのである。

(参考資料)
"The Other Doomsday Scenario Looming Over Markets(市場にくすぶる「もう一つの破滅シナリオ」)", Wall Street Journal, September 5, 2022

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