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米国8月CPIとインフレ期待が抑制される中でのFRBの大幅利上げの帰結

2022/09/14

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物価上昇率は緩やかに低下の方向

13日に発表された米国の8月CPI(消費者物価)上昇率が事前予想を上回ったことで、米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利上げ観測が強まった。さらなる金利上昇や景気悪化への懸念から、13日の米国市場ではダウ平均株価が1, 276ドルと4%近い急落となった。14日の東京市場でも日経平均株価は一時800円程度の大幅下落となっている。また、FRBによる大幅利上げ観測から日米長期金利差が拡大したことを背景に、ドル円レートは144円台後半に達し、145円超をうかがう展開となっている。

8月CPIは、前年同月比+8.3%と2か月連続で低下したものの、事前予想を上回った。他方、食料エネルギーを除くコアCPIは前年同月比で+6.3%と5か月ぶりに上昇に転じている。前月比上昇率も+0.6%と7月の同+0.3%から加速した。

コアCPIの内訳を見ると、高い上昇率となっているのは、新車の前月比+0.8%、医療サービスの同+0.8%、家賃の同+0.7%などである。他方で、中古車・トラック、運輸サービス、衣料品などは、春頃と比べて上昇率は大きく低下してきているなど、まちまちである。

物価は景気に対して遅効性がある。特に家賃はそうした傾向が強いだろう。他方、景気減速の傾向は徐々に強まってきており、労働需給にも緩和の傾向が見られ始めている。この点を踏まえると、原油価格がこの先も落ち着きを維持するのであれば、物価上昇率は今春頃がピークであり、先行きは緩やかに低下方向を辿るとみておきたい。

1.0%の大幅利上げ観測も一部に浮上

ただし、物価上昇率は依然としてFRBが容認できる水準を大きく上回っており、物価目標の+2%に戻る道筋も未だ見えていない。こうした中では、FRBは大幅な利上げをなお続ける可能性が高い。

今回の8月CPIを受けて、金融市場では来週20・21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1.0%の大幅利上げが行われるとの観測が一部で浮上し始めた。実際には、0.75%の利上げの可能性が高いと考えられるが、FOMCに向けて、市場が1.0%の利上げの確率をより高く織り込んでいけば、米国の長期金利の一段の上昇と共にドル円レートは145円を超えてさらに円安が続く可能性も出てくる。

実質金利の大幅上昇が景気の大幅減速を招く可能性

注目したいのは、家計や金融市場の期待インフレ率は引き続き安定を維持している点である。これは、FRBの利上げが遅れることでインフレ期待が一気に高まり、それが経済活動に悪影響を及ぼすといった事態が生じていない、いわゆるFRBが「ビハインド・ザ・カーブ」には陥っていないことを示唆していよう。

ミシガン大学の調査によると、8月時点での家計の5年先のインフレ期待は+2.9%と、今年3月にFRBが利上げを始める前の1月の+3.1%を下回っている。また、物価連動債から計算される10年の期待インフレ率は現時点で2.45%と過去23年程度の平均値+1.98%を0.5%弱上回っているに過ぎない。

このようにインフレ期待が十分に抑制されている中で、FRBが急速に利上げを進め、名目の長短金利ともに上昇していけば、実質金利(名目金利-期待インフレ率)は着実に上昇し、景気抑制効果は高まっていく。

政策金利(FF金利)は既に、2.25%~2.5%と前回の利上げ局面のピーク、そしてFRBが概ね景気に中立と考える水準まで引き上げられている。年末には4%程度まで引き上げられる可能性が考えられる。その場合には、金融市場の10年の期待インフレ率から計算する実質短期金利は1.5%程度に達する。さらに、前回の利上げ局面のピークを1%強上回る計算である。

また今後景気減速の兆候が広まり、期待インフレ率が過去の平均水準まで低下していれば、年末には実質短期金利は2%程度の高水準に達する計算である。

歴史的な物価高騰の中、物価の安定確保を使命とする中央銀行が急速な利上げを進めることは理解できるが、期待インフレ率が十分に抑制されている現状下での急速な利上げは、遅れて景気に強い抑制効果を発揮しやすい。その効果は、ある時点で突然、大きく顕在化する可能性がある。こうした点から、FRBの急速な利上げを受けて、来年に米国経済が後退局面に陥る可能性は高まっているのではないか。

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