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コロナ危機対応を終える日銀の次の一手

2022/09/15

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コロナオペは終了か

新型コロナウイルス問題への対応策として日本銀行が2020年3月に導入した新型コロナ対応金融支援特別オペレーション、いわゆるコロナオペが、9月末に期限を迎える。オペの利用額が減少していることから、日本銀行は同制度を延長せずに終了させる方向で調整に入った、と各種メディアが報じている。実際に、9月21、22日の次回金融政策決定会合で、それが正式に決定される可能性が高いのではないか。

今までの経緯を簡単に振り返ってみよう。日本銀行は、コロナへの対応として、2020年4月から、CP・社債等の買入れ増加策と銀行への資金供給オペからなる「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」を実施してきた。

昨年12月の金融政策決定会合では、2022年3月末が期限となっていた合計約20兆円の残高を上限とするCP・社債の買入れ措置を予定通りに終わらせ、感染症前のCP等約2兆円、社債等約3兆円の水準へと徐々に引き下げていくことを決めた。また、大企業と住宅ローンが中心の民間債務担保分のコロナオペについても、期限通りに2022年3月末で終了させることを決めた。

他方、中小企業の資金繰りにはなお一部厳しさが残っていることから、中小企業向けのコロナオペについては2022年9月まで半年間の延長を決めた。ただし、信用保証付きコロナ貸出である「制度融資分」と、銀行が信用リスクを負うコロナ貸出の「プロパー融資」とで異なる対応をとったのである。「制度融資分」については、それ以前には、+0.1%の付利と2倍のマクロ加算というインセンティブが付与されていたが、これを+0%の付利(貸出促進付利制度のカテゴリーⅢ)、2倍ではなく貸出相当額のマクロ加算にそれぞれ修正された。制度利用のインセンティブを低下させたのである。他方、プロパー融資については、それ以前の+0.2%の付利(貸出促進付利制度のカテゴリーⅠ)、2倍のマクロ加算という強いインセンティブが維持された。

このように段階的に縮小してきたコロナオペを、日本銀行は今年9月末で完全に終了することを検討しているのである。

注目されるフォワードガイダンスの修正

これによって、日本銀行のコロナ特別対応の局面は終わることになるが、それは、政策金利の変更に関わる方針にも修正を迫るものである点に注目すべきだ。

コロナ問題をきっかけに、日本銀行は2%の物価目標の達成に紐づけていた政策金利引き下げの方針、いわゆる下方バイアスのフォワードガイダンスを、コロナ特別対応に紐づける方針へと修正したのである。そのため、コロナ特別対応が終了すれば、フォワードガイダンスについても、その文言を修正する必要が出てくるだろう。

まず最新、今年7月の金融政策決定会合の対外公表文(声明文)での、政策金利のフォワードガイダンスを確認しよう。


「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」 ・・・(a)


ここでは、日本銀行の政策対応を、コロナオペという「金融緩和措置」と「金利政策」に分けている。コロナオペを含む「金融緩和措置」はコロナ問題の状況に紐づけられているのに対して、「金利政策」については必ずしも明確ではないものの、文章の流れからは、コロナ問題の状況に紐づけられていると読める。

このフォワードガイダンスが導入されたのは、2020年4月の金融政策決定会合の対外公表文である。その直前の2020年3月の金融政策決定会合の対外公表文では、次のような記述であった。


「政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」 ・・・(b)


この時までは、政策金利のフォワードガイダンスは、「物価安定の目標」に紐づけられていたのである。それが導入されたのは、2019年12月の金融政策決定会合の対外公表文である。日本銀行は、コロナ問題を受けて「物価安定の目標」に向けたモメンタムは一時的に損なわれたとして、政策金利を物価安定の目標に紐づけることを停止したのである。

フォワードガイダンスは再び「物価安定の目標」に紐づけられ、下方バイアスは維持されるか

次回9月の決定会合で日本銀行がコロナ特別対応を終了させる場合に、上記(a)の現在のフォワードガイダンスをどうするかが、大きな注目点となる。この文言を単純に削除すると、日本銀行の金利政策は下方バイアスから中立バイアスに修正されることになってしまう。そうなれば、金融市場では利上げ観測が浮上しかねない。円安阻止のためには、そうした市場の観測を利用することも一つの手段である。

しかし、大幅金融緩和の継続を強く志向する黒田総裁の下では、そうしたフォワードガイダンスの修正がなされる可能性は低いだろう。

可能性として高いのは、(b)のような記述に再び戻すことだろう。消費者物価が前年比+2%台の現状で、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる状況と考える向きは多くないかもしれないが、この先、海外要因によって国内景気情勢が悪化し、さらに為替市場で円高方向への転換が生じる際には、「物価安定の目標」に紐づいたこの下方バイアスのフォワードガイダンスが、経済、金融市場に安定に資するようになる、と日本銀行は考えるのかもしれない。

実際そのような状況となれば、来年4月の黒田総裁退任後もしばらくは、日本銀行は下方バイアスのフォワードガイダンスを維持し、早期の正常化観測、利上げ観測が金融市場で強まることをけん制する可能性も考えられるところだ。

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