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日銀に期待される物価高対策とは(8月消費者物価)

2022/09/20

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8月コアCPI(消費者物価、除く生鮮食品)は5か月連続で2%の物価目標超え

総務省が20日に発表した8月分消費者物価統計で、コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比+2.8%と前月の同+2.4%を上回った。事前予想の+2.7%程度も上回った。消費税率引き上げの影響を除くと、上昇率は1991年9月以来となる。また上昇率は5か月連続で日本銀行の物価目標+2.0%を上回った。

生鮮食品とエネルギーを除くより基調的な指数でみても、前年同月比は+1.6%と前月の+1.2%を上回っており、物価上昇に広がりがみられる。

先行きについては、前年の携帯通話料引き下げの影響が剥落する今年10月のコアCPIの前年比+3%を超える可能性が高い。さらに年末時点では同+3%台半ばに達する可能性が考えられる。2022年度平均は+2.9%程度と予想する。他方、年明け以降は、物価上昇率は低下傾向で推移することが予想される。

政府の物価高対策の効果は一時的

高い物価上昇率が続く中、政府は9月9日に追加の物価高対策を決定した。既存のガソリン補助金制度を10月以降も継続する、政府が輸入小麦を製粉会社などに売り渡す価格を10月以降も現在の水準に据え置く、地方自治体が独自に物価対策を進める際の原資となる「地方創生臨時交付金」を増額する。これらは、さらなる物価高を避け、現状の物価高対策を継続するやや消極的な対応である。

他方で、住民税非課税世帯に対して1世帯当たり5万円を給付する措置も新たに講じられる。9千億円程度の住民税非課税世帯への給付は、個人消費を2,250億円程度押し上げると試算される。ただしこれは、年間名目GDPの約0.04%であり大きな経済効果を発揮するとは言えない(コラム「住民税非課税世帯5万円給付の経済効果と課題」、2022年9月7日)。

足元で進む物価高はエネルギー、食料品の価格上昇が中心であり、それらは低所得層ほど消費全体に占める比率が高い。つまり、足元の物価高は低所得層により大きな打撃を与えることから、低所得層にターゲットを当てた対策を講じることは重要だ。

ただし、低所得層にとっても給付金は一時的に痛みを和らげる施策に過ぎない。より抜本的な対策として、政府には、成長戦略の強化を通じて労働生産性、潜在成長率を引き上げる取り組みを積極化することが望まれるところだ。その結果、賃金が先行き増加するとの期待が個人の間に高まれば、物価高が個人消費に与える打撃は軽減されるだろう。それは、物価高に対する経済の耐性を構造的に強めることになる。

3月以降の円安は消費者物価を+0.4%押し上げ

足元では外国為替市場で円安の流れに歯止めがかからず、それが追加的な物価上昇圧力をさらに高めている。3月以降の円安進行による消費者物価押し上げ効果は+0.4%程度と推定される。物価上昇の主因はエネルギー、食料品価格高騰であるが、円安の影響も決して小さくはない。

円安を通じた物価高が長期化するとの懸念も、個人の間で高まってきているだろう。賃金上昇期待が限られる中、物価高が長期化するとの懸念を個人が強めると、消費が大きく抑制されるリスクが高まる。この点から、物価高が長期化するとの懸念を和らげることも、経済の安定維持の観点からは重要だ。中長期の物価安定の確保は、本来金融政策が担うべき領域だ。

円安進行下で日本銀行の役割がより重要に

日本銀行には、金融政策の柔軟化を伴う形で、中長期の物価安定に対するコミットメントを改めて強く示すことを期待したい。その結果、「硬直的な金融政策のもとで悪い円安、悪い物価高がどこまでも続いてしまう」といった個人の懸念を緩和することができれば、日本経済に安定に貢献するのではないか。

日本銀行が指摘するように、+2%を超える物価上昇は比較的一時的な現象であり、それが持続的となった物価目標が達成できるめどはない。ただし+2%を超える現在の物価上昇率は、既に賃金上昇率を決める日本経済の潜在力、いわゆる日本経済の実力に照らして高すぎる状況だ。この状態が続けば、消費者の物価上昇率見通しはさらに上振れ、個人消費はさらに悪化してしまうだろう。

こうした状況の下では、+2%の物価目標にこだわらず、金融政策の修正を通じて、さらなる物価上昇を食い止め、個人の物価上昇率見通しが一段と高まることを防ぐ、というメッセージを中央銀行が送ることが求められるのではないか。米国で行われているような急速な金融引き締め策を日本で実施することは現実的ではないが、物価の安定回復に向けた意思を日本銀行が改めて示すことが経済の安定維持には必要だろう。

日銀の政策修正の可能性は小さい

日本銀行には、将来的には金融政策全体の正常化、当面のところでは長期金利の上昇を一定程度容認するような政策の柔軟化措置を期待したい。しかし、実際には、9月21・22日の金融政策決定会合で、日本銀行が長期金利の上昇を一定程度容認するなどさらなる円安阻止に効果を持つ政策修正、あるいは柔軟化策を発表する可能性は低い。さらに、来年4月まで続く黒田総裁のもとでは、日本銀行が政策を修正するあるいは正常化する可能性は低いだろう。

円安が物価高を促し、物価高対策の効果を減じてしまうことを政府は警戒している。日銀が政策姿勢を頑として変えない中、政府に残された円安阻止の手段は外国為替市場での介入のみだ。しかし、為替介入実施に向けたハードルは高い。また仮に実施しても、単独での円買い介入は効果は限られる(コラム「円安阻止の単独為替介入の効果は限定的」、2022年9月14日)。

政府としては、米国で景気減速や物価上昇率低下の傾向が確認され、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ姿勢が軟化することで円安傾向が一服するのを待つしか手がないのが現状だろう。

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