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円急落から英ポンド急落へ:にわかに不安定化する世界の金融市場

2022/09/26

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にわかに剥落する為替介入の効果とポンド急落

26日の東京市場で、ドル円レートは一時1ドル144円台を付けた。先週木曜日の電撃的な政府の為替介入の実施で140円台まで5円程度の円高が進んだが、僅かの間に、為替介入の効果の相当部分は剥落してしまった。日本政府の為替介入時には、国際協調介入の可能性も意識されたことで、その効果が高められた面もあったが、実際には単独介入であることが明らかになるにつれ、再び円安圧力が高まっていったのである(コラム「政府が円買いの為替介入を実施:効果は限られ時間稼ぎの政策に」、2022年9月22日「為替安定のため他国は金融政策の自由度を制限、日本は為替介入」、2022年9月26日)。

ところで26日の東京市場で大いに注目を集めたのは、英ポンドの急落である。英ポンドは一時対ドルで5%近く下落した。主要通貨が為替介入などによらずに1日でこれだけの幅で動くのは珍しく、ポンド危機とも言える状況が生じたのである。

景気悪化に政策面で打つ手がなくなる可能性も

先週木曜日(22日)に、英国中央銀行は0.5%の政策金利引き上げを決めた。これは予想通りであり、為替市場の反応は小さかったが、翌金曜日(23日)にポンドの急落が始まったのである。トラス新政権が大規模な減税策と国債の増発計画を打ち出したのがそのきっかけだ。それが財政の悪化、国際需給の悪化につながり、そして物価上昇率をさらに高めるとの懸念から、英国債は急落した。さらに、英国株とポンドも下落し、「トリプル安」の状態に至ったのである。

英国新政権の大規模な減税策がこうした金融市場の大きなきっかけになったことは確かだが、その底流には、世界同時に大幅な利上げが続く中、金融市場が先行きの景気悪化などのリスクに非常に敏感になっていること等があり、英国市場だけの問題とは必ずしも言えないのではないか。

景気情勢が厳しさを増す他の欧州諸国でも、今後景気支援のために財政出動を実施しようとした場合、同様な反応が生じる可能性がある。その結果、長期金利が上昇(国債価格の下落)すれば、財政出動の効果が削がれてしまう。また、通貨安が進めば、物価上昇圧力が高まり、それも景気を悪化させ、財政出動の効果を削いでしまいかねない。例えばイタリアでは、25日の投開票の総選挙で極右政党が第1党になる見通しだが、その新政権がばらまき的な政策を実行すれば、そうしたリスクが高まるだろう。

他方で、日本を除く主要国では、物価高への対応と自国通貨安回避のためには急速な利上げを進めざるをえない。主要国の中では現時点でも景気情勢がしっかりしている米国の急速な利上げについていかなければ、自国通貨安が進んでしまう。その結果、米国よりも景気情勢が厳しい欧州など主要国が米国と同じペースでの利上げを実施せざるえなくなっている。

そのもとで、上記のように財政出動も制約されれば、政策を通じて景気をサポートする道が閉ざされてしまう。このことは、世界経済の先行きに厳しい見通しをもたらすものだ。

主要国で為替介入が広がり国際協調体制が崩れるリスクも

26日の東京市場で、ポンドは一時1ポンド1.035ドルと、実に変動相場制移行後の最安値を付けている。日本の単独為替介入については、米国など主要国がしぶしぶ認めたと考えられる。ただし、日本にそれを認めたことで、通貨が急落する英国もポンド買いの為替介入を実施する道を開いたのではないか。このようにして、主要国の間で今後為替介入の動きが広がっていけば、国際協調は崩れ、各国間で利上げ競争と自国通貨切り上げ競争の様相が強まるだろう。

ところで、実質値でみたドルは既に歴史的な高水準にあり、その弊害が輸出競争力の低下をもたらし、ドル暴落リスクの高まりで米国と他国が危機感を共有するようになれば、協調介入を通じた秩序だったドルの調整という「プラザ合意Ⅱ」につながる可能性があるだろう(コラム「歴史的円安・ドル高はどのようにして終わるか:プラザ合意Ⅱの可能性も」、2022年9月21日)。

しかしそこに至るまでにはなお時間を要するとみられ、その間は、国際協調の綻びと金融市場の混乱が並行して進む事態も考えられるのではないか。

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