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金融緩和と為替介入のポリシーミックスは適切か

2022/09/27

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金融緩和と為替介入のポリシーミックスは適切か

電撃的な為替介入が先週22日(木)の夕刻(日本時間)に政府によって実施されたのは、同日午前に日本銀行が金融政策決定で金融政策の維持を決め、さらに総裁記者会見で利上げの可能性が改めて強く否定された直後のことだった。政府が期待している日本銀行の政策修正が見送られたことで、政府としては「為替介入を実施するしか手がなくなった」と、日本銀行に恨み節を伝えることも意図したようなタイミングであった。

実際には、1ドル145円を防衛ラインとあらかじめ決めていた政府が、記者会見での総裁の発言などを受けて145円台まで円安が進んだタイミングをとらえて介入を実施した、ということかもしれない。しかし、政府と日本銀行の連携ができていないとの連想を多くの人が持ちやすいタイミングで、政府が介入を実施したことは確かなのではないか。

黒田総裁は26日に大阪経済4団体共催の懇談会に参加し、その後に記者会見を行った。前週の金融政策決定会合後に総裁記者会見を開いたばかりであり、通常はあまり注目されないタイミングであるが、今回は、金融政策決定会合と総裁記者会見直後に実施された為替介入についての評価に注目が集まった。

政府と日本銀行との足並みが揃っていないとの認識を背景に、記者が「為替介入と金融緩和が矛盾しているのではないか」との主旨の質問をすると、総裁は、為替介入は「適切」と評価したうえで、為替介入と金融緩和は「相互補完的であり、矛盾するとか方向性が違うとかは思わない」と述べた。金融緩和は、日本経済を需要面から支え、2%の物価目標の達成を狙って実施されているいる一方、為替介入を通じて為替市場の過度の変動を抑えることも、経済活動にプラスであり、双方は矛盾しているどころか同じ方向を向いている、というのが総裁の説明なのだろう。

ただし一般的には、円安を促す金融緩和と円安を食い止めようとしている為替介入は、逆の方向を向いており、政府と日本銀行がお互い異なる方向の政策を実施しているように見えるだろう。

為替の安定により配慮した柔軟な金融政策が望ましい

政府は、為替の過度な変動を抑えるだけではなく、さらなる円安を回避し、できれば円高方向への水準修正を図りたいのである。為替介入は為替の過度な変動を抑えるために実施するのが先進国の間では建前となっているが、実際には変動だけでなく水準が重要だ。過度に円安が進めば、輸入物価の上昇が国民生活や企業収益を圧迫してしまうためだ。

さらなる円安を回避し、円高方向への水準修正を図りたい、という政府の考えは、日本銀行の金融緩和とやはり相いれないものだろう。米国など海外での急速な利上げが進む中で日本銀行が異例の金融緩和を続ければ、円安が進み、それがもたらす輸入物価の上昇が経済に悪影響を与えてしまう。

多くの主要国では、対ドルでの自国通貨安が物価高を助長することを恐れ、米国の利上げ幅に合わせる動きが広がってきている。それでも、対ドルでの通貨安は簡単には避けられない。ましてや金融緩和を続ける日本の通貨安は、より大きな幅となりやすい。足元で急落したポンドの対ドルレートは、年初から21%程度下落した。またユーロは15%下落している。これに対して円の対ドルレートは26%下落しているのである。

日本がこの先、為替介入と金融政策の組み合わせを通じて為替の安定を確保することを目指すのであれば、金融政策は、為替の安定により配慮した形に修正する必要がある(コラム「為替安定のため他国は金融政策の自由度を制限、日本は為替介入」、2022年9月26日)。当面は、長期金利の一定程度の上昇を容認するような政策の柔軟化、さらに将来的には2%の物価安定に強く結び付いた硬直的な政策姿勢を改め、政策金利を引き上げていく政策の柔軟化、正常化が求められる。

為替の安定を通じた経済の安定確保という観点からは、為替介入と金融緩和が相互補完的な望ましいポリシーミックス(政策の組み合わせ)ではなく、為替介入と為替の安定により配慮した柔軟な金融政策こそが、望ましいポリシーミックスである。

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