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国内経済のリスクは物価高から世界経済の悪化へ:為替安定には金融政策調整が必要に(日銀短観見通し)

2022/09/28

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日銀短観(9月調査)では大企業製造業の景況改善が見込まれる

日本銀行は10月3日に短観(2022年9月調査)を発表する。物価高の逆風はなお続いているが、全体としては日本経済が緩やかに成長していることを裏付ける内容となるだろう。調査期間中の日本経済は新型コロナウイルス「第7波」の影響を受けたが、それは従来ほど深刻なものではなく、日本経済が新型コロナウイルス問題をようやく乗り越えつつある姿が確認されるのではないか。

最も注目度が高い大企業製造業の業況判断DI(最近)は、前回比2ポイント程度改善し、4期ぶりの改善となることが予想されている。改善する最大の理由は、中国でのゼロコロナ政策が緩められ、半導体不足が緩和していることだ。その結果、自動車、機械などの増産が見込まれる。

他方、大企業非製造業の業況判断DI(最近)は、新型コロナウイルス「第7波」の影響から2期ぶりに悪化が予想されているものの、悪化幅は1ポイント程度と小さい。

企業の5年後物価見通しは物価目標の2%を超えるか

業況判断DI以外で注目されるのは、販売価格・仕入れ価格判断DIである。資源価格の上昇や円安の影響から、前回調査では、大企業製造業の仕入れ価格判断DIが1980年5月調査以来の高水準を記録した。他方、上昇幅では販売価格判断DIが仕入れ価格判断DIを上回っており、価格転嫁が相応に進んでいることを示した。

足元では原油価格の上昇に歯止めが掛かっていることから、仕入れ価格判断DIの上昇ペースは鈍る可能性がある一方、販売価格判断DIの上昇ペースは維持され、価格転嫁がさらに進められていることが確認される可能性があるだろう。

また、企業の物価見通しも大いに注目される。前回調査では全規模全産業の5年後の物価見通しは0.3%上昇して+1.9%となった。今回の調査でさらに上昇し、日本銀行の物価目標である+2.0%を上回れば、足元での消費者物価上昇率の上振れが一時的との日本銀行の説明に対する疑問が高まり、また、物価高、円安が進む中で異例の金融緩和を維持する日本銀行の政策姿勢の正当性が改めて問われることとなるだろう。

コロナ問題を乗り越え国内経済は安定成長期に。大型経済対策は不要

今回の短観は、全体としては日本経済が緩やかに成長していることを裏付ける内容になると見込まれる。日経センターのESPフォーキャスト9月調査によると、7-9月期の実質GDPの予測平均値は、前期比年率+1.5%と、4四半期連続のプラス成長が予想されている。2020年の初め以来、日本経済は新型コロナウイルス問題に振り回され、感染が拡大するたびに実質GDPは前期比マイナスへと繰り返し陥っていた。

しかし、新型コロナウイルス「第7波」のもとでも、足元ではプラス成長が維持されており、日本経済はようやく新型コロナウイルス問題を乗り越えつつある。当初予想されたような、感染収束後のリベンジ消費のような強い回復は見られないが、安定した成長ペースが続いているのである。

ところで10月3日に召集される臨時国会で、政府・自民党は補正予算の編成を通じた物価高対応の大型経済対策の実施を決める可能性が見込まれる。しかし、足元の経済状況が比較的安定している現状では、そのような大型経済対策は必要ないだろう。また、実施されたとしてもその効果は一時的であり、物価高に対する根本的な対策とはならない。

円安進行は中長期の物価高懸念を高め国内経済のリスクに

政府には、成長戦略の強化を通じて労働生産性、潜在成長率を引き上げる取り組みを積極化することが望まれる。その結果、賃金が先行き増加するとの期待が個人の間に高まれば、物価高が個人消費に与える打撃は軽減されるだろう。それは、物価高に対する経済の耐性を構造的に強めることになる。

さらに、物価高騰が長期化するとの懸念を高めないことも、経済の安定維持の観点からは重要だ。それは、金融政策が担うべき領域である。

+2%を超える現在の物価上昇率は、賃金上昇率を大きく上回っており、個人消費には逆風である。賃金上昇率を決める日本経済の潜在力、いわゆる日本経済の実力に照らして、現在の物価上昇率は高すぎる状況だ。この状態がさらに続けば、消費者の物価上昇率見通しはさらに上振れ、個人消費は一気に悪化する可能性がある。日本銀行の金融緩和姿勢の下、円安傾向が今後も続くことで、物価高は長期化してしまうと、消費者は心配しているのではないか。

こうした状況の下では、金融政策を通じて、さらなる物価上昇を食い止め、個人の物価上昇率見通しが一段と高まることを防ぐ、というメッセージを中央銀行が送ることが求められるのではないか。米国で行われているような急速な金融引き締め策を日本で実施することは現実的ではないが、物価の安定回復に向けた意思を日本銀行が改めて示すことが、経済の安定維持には必要だろう。

日本銀行が現在の硬直的な金融政策をより柔軟な政策に修正し、例えば長期金利の上昇を一定程度認めれば、物価高を助長する悪い円安が長期化するとの個人に懸念は緩和され、個人消費にプラスの影響を与えるだろう。

しかし、実際には、来年4月まで続く黒田総裁のもとでは、日本銀行が政策を修正するあるいは正常化する可能性は低い。

為替介入と日本銀行の金融政策の調整のポリシーミックスが有効に

日本銀行が頑として金融和姿勢を修正しない中、物価高を助長する円安進行を食い止めるため、政府は24年ぶりとなる円買いの為替介入に踏み切った。しかし、単独での円買い介入の効果は限られるだろう(コラム、「政府が円買いの為替介入を実施:効果は限られ時間稼ぎの政策に」、2022年9月22日)。

日本がこの先、為替介入と金融政策の組み合わせを通じて為替の安定を確保することを目指すのであれば、金融政策は、為替の安定により配慮した形へと修正する必要がある(コラム、「為替安定のため他国は金融政策の自由度を制限、日本は為替介入」、2022年9月26日)。為替の安定を通じた経済の安定確保という観点からは、為替介入と為替の安定により配慮した柔軟な金融政策の組み合わせこそが、望ましいポリシーミックス(政策の組み合わせ)である。

しかし実際には、日本銀行が為替の安定に配慮した柔軟な政策姿勢に転じる可能性は、当面のところは低い。この結果、円安進行が物価高、あるいは物価高の長期化懸念を通じて日本経済の逆風となる状況はなお続くだろう。

米国が世界的な大幅利上げを主導

世界経済の減速見通しを受けて、原油など商品市況には下落傾向が見られ始めている。この点から、歴史的な物価高は今後緩やかに鎮静化していくことも見込まれるところだ。

しかしそれが、世界経済の安定化に直ぐに結びつくことはないだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)は、物価高を定着させない強い覚悟で政策運営に臨んでいる。そのため、景気減速の兆候が広がり、また物価上昇圧力が多少和らぐ兆候が見られても、容易には金融緩和に転じないだろう。あるいは、金融緩和に転じてもそのペースは緩やかとなりやすい。そうした過程で、米国経済は一段と下振れることになるのではないか。

他方、物価高を助長してしまう自国通貨安に何とか歯止めをかけようと、各国は躍起になっている。日本を除く主要国は、米国の急速な利上げに懸命に付いていくことで、対ドルでの自国通貨安を食い止めようとしている。

しかし多くの国、特に欧州の国々は、米国よりも景気情勢が厳しいのである。そうした中で米国の急速な利上げに追随すれば、国内景気は犠牲となってしまう。一方で、金融引き締めを控えて通貨安を容認すれば、それがもたらす物価高によって、やはり国内経済に打撃が及ぶのである。こうして各国の政策は、ジレンマに直面している(コラム、「継続するポンド不安と各国政策の手詰まり感:国際協調に綻び」、2022年9月27日)。

世界経済に同時不況入りのリスク

そこで金融政策を為替の安定に充てる一方、財政政策を国内景気の支援に充てるという「金融引き締めと財政拡張のポリシーミックス」を各国が検討するのは、自然なことだろう。しかし、それがまさに裏目に出てしまったのが、英国である(コラム、「円急落から英ポンド急落へ:にわかに不安定化する世界の金融市場」、2022年9月26日)。英国の失敗によって、他国でも財政出動による安易な景気刺激策が封じられた感もある。政策の手詰まり感が世界規模で一気に強まっているのである。

こうした状況のもとで、先行きの世界経済は悪化し、世界同時不況入りの可能性も高まっているように思われる。日本経済は現在のところは比較的安定しているものの、海外経済が悪化すれば、日本経済だけが安定を維持することは難しい。

日本経済にとってのリスクは、当面の物価高から、来年にかけては世界経済の悪化による輸出の急減速へと次第に転じていくことになるだろう。

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