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個人向け少額送金サービス「ことら」がスタート:小口決済の中核を担う存在に成長するか

2022/10/07

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ユーザの利便性が高い「ことら」送金サービスがスタート

10月11日に、個人向け少額送金サービスの「ことら」がスタートする。銀行間決済(送金)は、1973年以来全銀システムが主に担っているが、そのうち企業ではなく個人(リテール)の小口決済については、今後この「ことら」へと移っていき、小口決済の中核を担う存在に成長する可能性もあるのではないか(コラム「日本の決済システムに変革の大波:ことら送金サービス開始、全銀システムの決済業者への開放」、2022年8月16日)。

全銀システムは、高頻度少額の個人決済(送金)にはなじまない面があった。送金一回ごとに手数料が課されるため、少額の送金はかなり割高になる。さらに、送金しても相手先の銀行口座に入金されるまでには時間がかかる。「ことら」であれば、送金手数料がかなり安いあるいは無料となる一方、即時に送金が完了する。個人利用者にとっては、決済(送金)の利便性が格段に高まるのである。

他方、銀行にとっては、「ことら」の利用が広がれば、全銀システムを利用した決済で得られる手数料収入が減ってしまうという側面がある。しかし、現金の利用が減ることで、窓口、ATMなどを通じた現金管理業務を減らす、コスト削減効果が生まれるというメリットがある。

「ことら」送金サービスは、3メガバンクとりそな銀行、埼玉りそな銀行の大手5行が運営する。利用できる決済アプリはみずほ銀行のJ-Coin Pay、Bank Payなど8つだ。加盟銀行数は現時点で20行だが、これまでに計36行が今後の参加を表明しており、それらを合計した口座数は合計で1億8千万口座に達する。

J-Debitのシステム利用で安価なサービスが可能に。ネットワーク効果にも期待

加盟する金融機関の個人顧客同士であれば、「ことら」送金サービスを利用できる決済アプリに登録された口座番号、携帯電話番号、メールアドレスを入力するだけで、1日あたり10万円を上限に送金が可能となる。つまり、送り先の口座番号が分からなくても、銀行送金ができる。また送金時にメッセージも送れる。

送金手数料は、各アプリ事業者がそれぞれ決定するが、三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクは、10万円以下の送金は無料にする、と既に発表している。

「ことら」が低価格でのサービスを提供できるのは、全銀システムを利用せず、日本電子決済推進機構(JEPPO)が運営するデビットカードのJ-Debitのシステムを利用するためだ。「ことら」では決済アプリをAPIでJ-Debitに接続させる。既に存在するシステムを利用するため、新たな巨額のシステム投資も必要なく、安価なサービスの提供が可能となっている。

J-Debitのシステムを利用することのもう一つの大きなメリットは、J-Debitには既に約1,300もの金融機関が接続していることだ。これは、「ことら」に加盟する銀行の数が、今後大幅に拡大する可能性があることを意味しているだろう。

加盟する銀行数が増えれば、ユーザが送金に利用できる範囲も広がり、利便性も高まることから、さらに「ことら」のユーザ数がさらに増えていくといった、ネットワーク効果が期待できるだろう。こうした点から、「ことら」が、小口決済の中核を担う存在に成長していく可能性もあるのと考えられるのである。

「ことら」の利用範囲はどこまで広がるか

今後は、「ことら」にペイペイや楽天ペイなどの決済アプリ事業者も受け入れることを銀行は考えているという。これは、個人の送金先に銀行口座だけでなくスマートフォン決済の口座も含まれるようになる、という意味なのだろう。それはユーザの利便性をさらに高めることになるはずだ。

「ことら」はまさに、スマートフォンを使った即時送金のデビット決済の仕組みと言えるが、個人間の決済(C to C)だけでなく、将来的には、個人が店舗での支払いにデビット決済の代わりに「ことら」を利用できるようになっていくのか(B to C)、あるいは個人が店舗での買い物でペイペイや楽天ペイのようなスマートフォン決済を利用した場合に、決済業者から店舗への入金にこの「ことら」を利用できるようになるのか(B to B)に注目しておきたい。その場合、即時に口座に入金されることになり、店舗側にとっては、資金不足などの問題が緩和されるというメリットがある。

近い将来ではないかもしれないが、システムの処理能力の問題などがクリアされ、そこまで利用範囲が広がっていけば、個人の小口決済の相当部分をカバーするようになるのではないか。

(参考資料)
「【経済#アナトミア(解剖学)】スマホ決済事業者再編の呼び水」、2022年9月29日、産経新聞

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